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“暴れ馬”Core i9-11900Kの性能を存分に引き出せるMSI「MEG Z590 ACE」を徹底テスト!

第4のブースト機能“Adaptive Boost Technology”をより深く試してみた!! text by 加藤 勝明

ABT 251W設定の消費電力は?

 ここまででMEG Z590 ACEでABTを利用したとき/しないときのパフォーマンスの傾向がおおよそ掴めた。マルチスレッド性能が重視されるような状況では、ABT 251W設定よりもABT有効設定にしたほうがよりよいアウトプットを得られる。だがCore i9-11900Kは14nmプロセスを使い続けた結果消費電力が大きくなるという弱みを抱えている。今回の検証の締めくくりとしてABT設定の違いが消費電力やCPU温度などに与える影響も検証してみたい。

 まず消費電力だが、ラトックシステム「RS-WFWATTCH1」を利用してシステム全体の消費電力を計測した。“アイドル”とはシステム起動10分後の安定値を、“OCCT”とは「OCCT Pro V8.1.1」のOCCTテスト(Extreme)を実施したときの安定値としている。

システム全体の消費電力

 結果はABT有効設定だとシステム全体で400W近く(このときGPUはほぼアイドルに近い)に達するが、ABT無効時だと310W強にとどまる。そしてABT 251W設定ではABT無効設定よりも微妙に下がっている。ABT 251W設定ではPower Limitが251Wにカットされることで一部コアのクロックが瞬間的に落ち、その結果として若干消費電力が下がったと考えられる。CINEBENCH R23やV-Ray 5 Benchmarkの結果をメインに考えるとABT 251W設定は著しくワットパフォーマンスを悪化させる設定と言えるが、PCMark 10のApplicationテストやUL ProcyonのImage Retouchingテストの結果を考えるとワットパフォーマンスは若干ではあるが向上している。

 このOCCTテストを実行している最中にCPUのクロック(Average Effective Clock)やCPUパッケージ温度などはどう変化しているのかも追跡してみた。追跡ツールは「HWiNFO Pro」を使用し、室温27℃前後の環境で計測した。

OCCTテスト実行中のAverage Effective Clockの推移

 Average Effective Clockはコアごとの占有率を考慮した“実効クロック”の平均値だ。ABT無効時は最初に4.8GHzまで上がり、その後4.7GHzで安定する(このとき全コア4.7GHz動作)。ABTを有効にするとこの上限が5.1GHzに上昇し、15分動作させ続けてもほとんどそこからブレることはない。マザーの設計によってはABTを有効にしてもクロックがブレる例もあるため、MEG Z590 ACEのABT実装はCore i9-11900Kの限界をキッチリ攻めるようチューニングされていると言える。
 一方ABT 251W設定にするとクロックは大きく下がり、4.1GHz前後で安定する。だがところどころグラフが下がっていることからも分かるとおり、瞬間的にクロックが下がることもある。これがCINEBENCH R23などでスコアが落ち込む理由だ。

OCCTテスト実行中のCPUパッケージ温度の推移

 続いてはCPUパッケージ温度だ。今回使用したCPUクーラーは28cmラジエータを備えた簡易水冷だが、ABT有効設定では瞬間的に最大95℃、安定値では89℃前後だった。これに対しABT無効時およびABT 251W時の温度はぐっと下がり、73℃前後で安定した。グラフを見る限り、微妙にABT 251W設定のほうが温度の振れ幅が大きいように見えるが、ほぼ同レベルと言ってよいだろう。ABT 251Wにしてもクロックが適宜下がるので温度はあまり上がらないとも言えるが、マルチスレッド性能が1割下がる割には温度が下がったり消費電力が低くなるというメリットがないので、ABT 251Wの立場はかなり微妙である。

OCCTテスト実行中のCPU Package Powerの推移

 CPU Package Powerの推移も見ておこう。これはCPU単体の消費電力と言い換えることもできるが、ABT有効時は瞬間最大で326W、安定時で307Wとなった。Ryzenと比べると圧倒的に電力を食うことが再確認できてしまったが、Core i9-11900Kの性能を限界まで味わうためには、ここまで踏み込まなければならない、ということも示している。

 そしてABT 251W設定とABT無効設定でを比較すると、225Wラインを境にしてABT 251W設定のほうがわずかに下で安定しており、これはシステム全体の消費電力の関係とリンクする。ABT 251W設定でもっと消費電力が下がればおいしい設定と言えたのだが、これではあまりに差がない。ただこれはMSIの設計と言うよりは、Rocket Lake-Sが生まれながらに持っている特性によるものと言える。

Core i9-11900Kの性能を限界まで味わうには「MEG Z590 ACE」はオススメの1枚

 以上でMEG Z590 ACEのレビューは終了だ。Core i9-11900Kは物理8コアの割に消費電力が大きいという“暴れ馬”的な面を持ちつつも、14nmプロセスの集大成と言うべき存在であることは間違いない。Core i9-11900Kを使おうという人は、Ryzenのようなコストパフォーマンスやマルチスレッド性能よりも、Intel製プラットフォームならではの安定感や、4つのブーストを駆使して高クロックでブン回せることの快感(!?)を重視する人に向いているCPUと言える。逆に言えば、こういった特徴を持つのCore i9-11900Kのポテンシャルを活かせないマザーは、i9-11900Kとの組み合わせにおいては存在意義が微妙になってしまう。

 この観点においては、ABTを有効にすればスッと全コア5.1GHz動作が拝めるMEG Z590 ACEはCore i9-11900Kで自作する上で理想的な特性を備えたマザーであると言える。最新βBIOSに搭載されたABT 251W設定に関しては、MEG Z590 ACEの性格から言うと若干微妙なところだが、オフィス系や写真編集、一部のゲームなどCPU負荷が中途半端に軽い状況で消費電力や発熱を抑えつつパフォーマンスを引き出せることも確認できたので、ハイエンド機ならではの浪漫だけでなく実用への備えも考慮されている。

 これと同じ設定は他社製マザーでも可能だが、MSIはABTと発熱のバランスを狙った設定を作った点においては、さすがの仕上げだと言うべきところだろう。Core i9-11900Kをどう料理するか悩んでいるなら、MEG Z590 ACEの導入は大いに検討に値する。

[制作協力:MSI]