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外付けSSDは3GB/sが当たり前に?USB4/Thunderbolt 4時代を見越した最速ストレージを構築

NVMe SSD + 最新外付けケースで超高速な外付けドライブを text by 坂本はじめ

 最大で40Gbpsという速度を実現する最新のUSB規格「USB4」は、その完全な上位互換であるThunderbolt 4とともに普及が始まっており、既にUSB4(Thunderbolt 4)が利用できるノートPCや、デスクトップPC向けの拡張カードが販売されている。

 記事執筆時点では、正式にUSB4対応をうたう外付けストレージなどは販売されていないのだが、USB4相当の通信を実現する外付けSSDケースは販売されている。今回は、そんなSSDケースの一つである「ORICO M2V01-C4」を使って、USB4時代を先取りした最速外付けストレージの構築に挑戦してみた。

最大40Gbps接続で使える「USB4」と「Thunderbolt 4」最新インターフェイスの特長を再確認

USB最新規格となる「USB4」。正式対応製品は、2021年10月時点ではケーブルが入手可能。対応するストレージや外付けケース、インターフェイスカードなどはこれから登場する見込みだ。
USB4の完全上位互換を実現するThunderbolt 4。コネクタ形状はUSB Type-Cで、Intel公式のThunderbolt Technology解説サイトで機能や仕様が紹介されている。

 本題に入る前に、最新規格である「USB4」と「Thunderbolt 4」についておさらいしておこう。

 最新のUSB規格である「USB4」では、最大転送速度をUSB 3.2 Gen 2x2(20Gbps)の2倍となる40Gbpsに引き上げるとともに、コネクタ形状をUSB Type-Cに一本化している。従来のUSB規格との互換性についても、一部の例外(USB 3.2 Gen 2x2)を除いて確保されており、USB4対応ポートに接続したUSB 3.2/USB 2.0対応デバイスを利用できる。

 一方のThunderbolt 4とは、Intelが提供しているインターフェイス「Thunderbolt」の最新規格で、USB4規格への完全な準拠が最低要件とされているため、事実上USB4の完全上位互換となっている。コネクタにはUSB4同様USB Type-Cを採用しており、USB4対応機器はもちろん、USB 3.2やUSB 2.0、旧規格であるThunderbolt 3に対応したデバイスを利用できる。

 記事執筆時点では、Thunderbolt 4に対応したUSB Type-Cを備えたノートPCや拡張カードが発売されており、上位互換規格であるThunderbolt 4がUSB4に先行する形で普及している。このため、今回使用する機材のうち、ホスト側についてはThunderbolt 4を備えるノートPCの「MSI Prestige 14 Evo」と、ASUSのインターフェイスカード「ThunderboltEX 4」を用意した。

Thunderbolt 4対応ポートを2ポート備える14型ノートPC「MSI Prestige 14 Evo」。
ASUSのThunderbolt 4拡張カード「ThunderboltEX 4」。

「USB4.0対応ケース」で作る最速ストレージ最速クラスのPCIe 4.0 SSD「Samsung SSD 980 PRO」を内蔵

USB4.0対応SSDケース「ORICO M2V01-C4」と、PCIe 4.0 SSD「Samsung SSD 980 PRO」。

 今回の企画では、USB4相当の通信を実現するという外付けSSDケースを使って、USB4/Thunderbolt 4の最大転送速度である40Gbpsで最速外付けストレージの構築を目指す。

 使用する外付けSSDケースは、「USB4.0」に対応するというORICOの「M2V01-C4」。M.2型のNVMe SSDを搭載可能な外付けSSDケースであり、Thunderbolt 3コントローラの「Intel JHL7440」と、USB 3.1 Gen 2 to PCIe Gen3 x2ブリッジコントローラ「JMicron JMS583」を搭載することで、USB4.0の40Gbpsに対応したとされている。

 正式規格の「USB4」ではなく「USB4.0」とうたわれており、USB4正式対応製品とは挙動が異なる可能性もあるが、40Gbpsの転送速度に対応していること自体は確かなようだ。なお、40Gbps接続時の転送速度は、リード2,700MB/s、ライト1,400MB/sとされている。

USB4.0の40Gbps接続に対応するという「ORICO M2V01-C4」。
パッケージなどに記載されている規格名は「USB4.0」であり、正式な規格名の「USB4」ではない。
M.2 2280までのNVMe SSDを搭載できる。SSDの熱はサーマルパッドを介して金属筐体へ放熱する。
Intel JHL7440とJMicron JMS583の2チップ構成によりUSB4.0の40Gbps接続に対応したとされている。
Samsung SSD 980 PROの1TBモデル「MZ-V8P1T0B/IT」。PCIe 4.0 x4接続で最大7GB/sのリード性能を実現している。

 今回、M2V01-C4に組み込んで使用するSSDは、最新のPCIe 4.0 SSDである「Samsung SSD 980 PRO」の1TBモデル(MZ-V8P1T0B/IT)。リード最大7,000MB/s、ライト最大5,000MB/sを実現しており、PCIe 4.0 SSDの中でも最速クラスの速度を実現するSSDのひとつだ。

 SSDケースのM2V01-C4はPCI Express 3.0までの対応となっているが、PCIe 4.0 SSDである980 PROは上位互換により古い世代のPCI Expressでも利用可能であり、なおかつ旧規格の上限に近い速度を実現できることから、SSD性能がボトルネックになることを極力避けるために選択した。

PCIe 4.0 x4接続時のCrystalDiskMark実行結果。リード最大7,104MB/s、ライト最大5,142MB/sを実現している。
PCIe 3.0 x4接続時のCrystalDiskMark実行結果。下位互換の機能を使いPCIe 3.0 SSDと使用した際もかなりの性能を発揮する。

Thunderbolt 4搭載ノートPCで「USB4.0外付けSSD」の性能をチェック3GB/sは達成するものの、性能を出すには動作キャッシュの有効化が必須

MSI Prestige 14 Evoで「USB4.0外付けSSD」をテスト。

 それでは、ORICO M2V01-C4とSamsung SSD 980 PROで構築した「USB4.0外付けSSD」の性能をチェックしていこう。

 まずは、Thunderbolt 4を2ポート備える14型ノートPC「MSI Prestige 14 Evo」に接続して、ストレージベンチマークの「CrystalDiskMark」を実行してみたのだが、測定結果はリードが最大3,093MB/sとケースのスペックを上回る数値に達する一方で、ライトは500MB/sしか出ておらず、期待を大きく下回る結果となった。

リードは3GB/sに達しているが、ライトは全く速度が出ていない。

 どうやら、今回の「USB4.0外付けSSD」が本来のライト性能を発揮するためには、書き込みキャッシュを有効化する必要があるようだ。

 これは、ディスクのポリシーを「クイック取り外し」から「高パフォーマンス」に変更した上で、「デバイスの書き込みキャッシュを有効化する」に変更することで有効化可能なのだが、これを有効にした場合は着脱時に「ハードウェアの安全な取り外し」をしなければならない点に注意が必要だ。

キャッシュを有効化するには、まずはスタートメニューを右クリックしてデバイスマネージャーを開く。
今回の外付けケースでは、「ディスクドライブ」の内のSSD(Samsung SSD 980 PRO 1TB)をダブルクリックしてプロパティを開く。
ディスクのポリシーを「高パフォーマンス」に変更することで、書き込みキャッシュを有効化できる。
書き込みキャッシュを有効にした場合、取り外し時に「ハードウェアの安全な取り外し」を行う必要がある。

 書き込みキャッシュを有効化した「USB4.0外付けSSD」で、再度CrystalDiskMarkを行ってみた結果が以下のスクリーンショットだ。

 リードは最大3,048MB/sでほとんど変わっていない一方で、ライトは最大2,666MB/sまで上昇しており、ランダムライト(RND4K)の数値も大幅に上昇していることが確認できる。リード・ライトともに旧規格のUSB 3.2では実現できない速度に達しており、最新規格ならではの速度を実現することができた結果であると言える。

 書き込みキャッシュの有効化は、ライト性能と引き換えに外付けSSDとしての利便性を損なうことになるが、今回構築した「USB4.0外付けSSD」を最速の外付けストレージとして使うためには必須であり、損なわれる利便性以上の効果を得ることができた。このため、以降のテストでも全て書き込みキャッシュは有効化している。

 なお、今回使用したSSDケースは、40Gbps動作での高速転送に備えて放熱性を重視して設計されているため、動作中でも触れないほど熱くはならなかったが、物を重ねたり布で覆うなど放熱性を損なえば、危険な温度上昇が発生する場合がある。高速転送に対応したSSDケースを利用する際は、ケースが放熱性を発揮できるよう周辺環境に注意しよう。

アイドル状態の温度。サーモグラフィーでの表示は37.8℃だった。
50GBのファイルを転送した直後の温度。サーモグラフィー上は41.2℃で、ケースがうまく動作時の熱を逃がしているようだ。

Thunderbolt 4拡張カードを搭載しデスクトップPCでも「USB4.0外付けSSD」をテストUSB 3.2 Gen 2/Gen 1とは別格の速度

Thunderbolt 4拡張カードに「USB4.0外付けSSD」を接続してテスト。

 続いて、ASUSのThunderbolt 4拡張カード「ThunderboltEX 4」を使って、デスクトップPC環境でも「USB4.0外付けSSD」をテストする。

 テストに用いるPCは、Intel Core i7-11700KをASUS TUF GAMING Z590-PLUS WIFIに搭載したIntel Z590環境で、その他の機材は以下の通り。

 Thunderbolt 4に接続(書き込みキャッシュ有効)して実行したCrystalDiskMarkでは、リード最大3,109MB/s、ライト最大2,919MB/sを記録した。ノートPCより強力なCPUを搭載していることもあってか、ライト速度も3GB/sに迫る数値まで向上している。

 今回用意したIntel Z590環境では、マザーボード側に従来の規格であるUSB 3.2 Gen 2(10Gbps)や同Gen 1(5Gbps)ポートが用意されているので、これらのポートに「USB4.0外付けSSD」を接続した状態でもCrystalDiskMarkを実行してみた。

 以下の画像がテスト結果になるが、USB 3.2 Gen 2接続がリード最大1,068MB/s、ライト最大1,025MB/s。USB 3.2 Gen 1接続時はリード最大456MB/s、ライト最大465MB/s。外付けストレージとして各規格で期待できる最大級の速度は出ているが、Thunderbolt 4に接続した際の速度と比べるとGen 2ですら3分の1近い数値であり、USB4とThunderbolt 4がもたらす40Gbps接続の圧倒的な速度が再確認できる結果だ。

USB 3.2 Gen 2 (10Gbps)接続。
USB 3.2 Gen 1 (5Gbps)接続。

 原因は不明だが、今回検証したUSB3.2 Gen2x2の環境ではORICOのエンクロージャーが認識されなかった

 なお、マザーボードにはZ590チップセットの機能を利用したUSB 3.2 Gen 2x2(20Gbps)ポートも用意されているのだが、ORICOの外付けSSDケース「M2V01-C4」を接続すると認識されず、テストが行えなかった。USB 3.2 Gen2/USB 3.2 Gen1ポートでは動作するので、おそらく相性問題だと思われるが、今回のテスト中に原因を解明することはできなかった。

実際にファイルを読み書きしても速い?動画・写真の転送時間をUSB 3.2と比べてみた

 CrystalDiskMarkではUSB 3.2を圧倒する速度をみせたThunderbolt 4だが、実際のファイル転送でもベンチマーク通りの速度を発揮することができるのか、デスクトップPC環境でテストしてみた。

50GBの動画ファイルを転送、大容量ファイルではThunderbolt 4インターフェイスの効果大!

 まずは、1ファイル10GBの動画ファイル5本(合計50GB)を転送した際の時間を測定した結果だ。

 外付けストレージからPC本体にファイルをコピーする「読み出し」での転送時間は、Thunderbolt 4が25.8秒で、USB 3.2 Gen 2は60.0秒、USB 3.2 Gen 1は132.1秒だった。Thunderbolt 4の転送速度は、USB 3.2 Gen 2の約2.3倍で、USB 3.2 Gen 1の約5.1倍に達している。

 PC本体から外付けストレージにファイルをコピーする「書き込み」での転送時間は、Thunderbolt 4が22.2秒で、USB 3.2 Gen 2は54.2秒、USB 3.2 Gen 1は114.0秒。Thunderbolt 4の転送速度は、USB 3.2 Gen 2の約2.4倍で、USB 3.2 Gen 1の約5.1倍だった。

写真ファイルの転送もThunderbolt 4世代ではより高速に

 次に、一眼カメラで撮影した写真ファイル50GB分(1,650ファイル)を転送するのに要した時間を比較してみた。

 読み出し時の転送時間は、Thunderbolt 4が35.1秒で、USB 3.2 Gen 2は67.9秒、USB 3.2 Gen 1は141.9秒。Thunderbolt 4の転送速度は、USB 3.2 Gen 2の約1.9倍で、USB 3.2 Gen 1の約4.0倍だった。

 書き込み時の転送時間は、Thunderbolt 4が29.6秒で、USB 3.2 Gen 2は50.9秒、USB 3.2 Gen 1は109.7秒。Thunderbolt 4の転送速度は、USB 3.2 Gen 2の約1.7倍で、USB 3.2 Gen 1の約3.7倍。

 実際のファイル転送では、CrystalDiskMarkで記録された最大速度差の通りとはいかなかったものの、USB 3.2接続よりも明らかに高速なデータ転送を実現していた。外部ストレージと大容量ファイルのやり取りをする機会の多いユーザーにとって、USB4とThunderbolt 4が実現する40Gbps接続の速度は、ファイル転送のストレスを大きく軽減することが期待できそうだ。

「USB4.0外付けSSD」で垣間見えた40Gbps接続の可能性正規のUSB4/Thunderbolt 4対応機器の登場に期待

 今回、最速の外付けストレージを目指して構築した「USB4.0外付けSSD」は、書き込みキャッシュの有効化や接続機材によって速度が異なるものの、最大限に性能を発揮した場合、リード・ライトとも3GB/s前後という圧倒的な転送速度を達成した。

 あくまで「USB4.0」対応機器での結果ではあるものの、正式にUSB4/Thunderbolt 4での40Gbps接続に対応した機器が登場した時に実現されるであろうデータ転送速度がどの程度のものになるのか、その可能性を垣間見ることはできたと言って良いだろう。

 外付けストレージとして実用面では課題も残った「USB4.0外付けSSD」だが、その転送速度は一手間を掛けるに値するほどの魅力的なものであったことも確かだ。今後、外付けストレージとしては利便性と安全性の面でデメリットとなる「書き込みキャッシュの有効化」が必要という課題が解消されるのかにも注目しつつ、正式にUSB4/Thunderbolt 4の40Gbps接続に正式対応した製品の登場に期待したい。

[制作協力:Samsung]