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NVMe SSDの歴史を振り返ろう、2015年の「Samsung SSD 950 PRO」登場から大幅進化した最新SSD
2015年の登場から速度や容量は倍以上に text by 坂本はじめ
2022年5月23日 00:00
Samsung初のコンシューマー向けNVMe SSD「Samsung SSD 950 PRO」が発売された2015年から7年が経った。その間、M.2型NVMe SSDは速度や容量はもちろん、コスト面でも大きな進化を遂げ、SSD製品の主流に躍り出た。
今回は、Samsungがコンシューマー向けに投入してきた歴代のM.2型NVMe SSD製品を通して、NVMe SSDが辿った進化の歴史を振り返りつつ、登場初期のモデルと現在のモデルでどの程度の性能差があるのかを確認してみよう。
自社製NANDとコントローラでSSD業界を牽引するSamsung2015年のコンシューマー向け初のNVMe SSD登場から現在までを振り返る
2015年にSamsung SSD 950 PROを発売して以来、Samsungはコンシューマー向けM.2型NVMe SSDの新モデルを投入し続けており、2022年5月までに9製品が市場に投入されている。
Samsungのコンシューマー向けM.2型NVMe SSD製品に共通しているのが、いずれの製品でも「NANDフラッシュメモリ」、「SSDコントローラ」、「DRAMキャッシュ」といった主要なコンポーネントにSamsungの自社製品を用いているという点だ。
SSD市場には多くのメーカーが参入しているが、すべての主要パーツを自社で開発/製造できるメーカーはかなり限られる。
記憶素子であるNANDフラッシュメモリの主要メーカーの一つでもあるSamsungは、「V-NAND」と名付けた自社製3D NANDフラッシュメモリの進化にあわせて、組み合わせるSSDコントローラやファームウェアも自社で開発することにより、SSDとして最適なパフォーマンスや信頼性・耐久性を実現していることはもちろん、RAIDカードなどとの親和性も高い。
また、Samsungのコンシューマー向けM.2型NVMe SSDは、いずれもM.2 2280サイズで「片面実装」を採用しており、ノートPCなどに実装されている片面実装専用M.2スロットにも搭載できるほか、自作PCでもヒートシンクを用いた冷却が容易というメリットがある。
このように、自社製にこだわって製造されたSamsungのコンシューマー向けM.2型NVMe SSDは、多くの用途で使いやすい製品として開発されてきた。
ここからは、過去に発売されたSamsungのコンシューマー向けM.2型NVMe SSD製品を振り返りながら、SSDが辿った進化の歴史を紹介しよう。
2015年、NVMe SSD黎明期に現れた2,500MB/sの衝撃コンシューマー向け初のNVMe SSD「950 PRO」
Samsung初のコンシューマー向けM.2型NVMe SSDとして、2015年11月に発売された「Samsung SSD 950 PRO」。
インターフェイスに当時最新のPCIe 3.0 x4を採用したNVMe SSDで、2bit MLC V-NANDとSamsung UBXコントローラの組み合わせにより、リード最大2,500MB/s、ライト最大1,500MB/sを実現していた。容量ラインナップは256GBと512GBの2モデル。
当時のSSDで主流だった6Gbps SATA(600MB/s)を圧倒的に凌駕する転送速度は衝撃的なものであり、発売当初の価格(消費税8%込み)は256GBモデルで29,800円、512GBモデルは51,800円と高価ではあったが、パフォーマンスを追求するユーザーの間では、同年に発売されたIntel第6世代Coreプロセッサー「Skylake」との組み合わせが流行することとなった。
2016年、NVMe SSDは3GB/sオーバーの速度競争の時代に上下2ラインナップになった「960 PRO/960 EVO」
Samsung SSD 950 PROの登場から1年が経った2016年12月。後継製品として「Samsung SSD 960 PRO」と「Samsung SSD 960 EVO」の2製品が登場した。
上位モデルであるSamsugn SSD 960 PROは、2bit MLC V-NANDと新設計のPolarisコントローラを組み合わせたPCIe 3.0 x4対応SSDで、容量ラインナップは512GB/1TB/2TB。転送速度はリード最大3,500MB/s、ライト最大2,100MB/s。
前世代から記憶容量と速度が大きく強化されたほか、発熱対策として銅箔を内蔵することでヒートスプレッダとしての役割を果たすラベルが裏面に貼り付けられた。下位モデルが追加されたことでハイエンド志向の強い製品となっており、最大容量である2TBモデルの発売時価格は159,800円前後(消費税8%込み)と、自作PCユーザーにとっては高嶺の花だった。
下位モデルのSamsung SSD 960 EVOは、Samsungのコンシューマー向けM.2型NVMe SSDでは初めて3bit MLC(TLC)タイプのV-NANDを記憶素子に採用した製品だ。NANDフラッシュメモリの一部をSLCキャッシュとして用いる「Intelligent TurboWrite」の採用によって、リード最大3,200MB/s、ライト最大1,900MB/sという高い速度を実現している。
容量ラインナップは250GB/500GB/1TBで、容量単価に優れた3bit MLCタイプのV-NANDを採用したことにより、1TBモデルでも59,800円前後という、当時としては比較的安価な価格でテラバイト級の容量を実現していた。
2018年、TLC NANDは速度に加え耐久性もポイントに、MLC NANDは工業向けにシフト新型NANDとコントローラでTBWも向上した「970 PRO/970 EVO」
2018年5月、Samsungのコンシューマー向けNVMe SSDとしては第3世代となる「Samsung SSD 970 PRO」と「Samsung SSD 970 EVO」が発売された。64層の第4世代V-NANDと新設計のPhoenixコントローラの組み合わせにより、960世代の同容量モデルより1.5倍の耐久性(TBW)を実現したのが特徴だ。
ハイエンド向けのSamsung SSD 970 PROの容量ラインナップは、512GBと1TBの2モデル。2bit MLC V-NANDを引き続き採用しており、耐久性は512GBモデルで600TBW、1TBモデルは1,200TBWに達した。当然ながらパフォーマンスも優れており、リード最大3,500MB/s、ライト最大2,700MB/sという、PCIe 3.0 x4対応のNVMe SSDとして当時最高クラスの性能を実現していた。なお、MLC NAND搭載SSDはこの辺りを境にサーバー向けなどのモデルへ限定されていくことになる。
メインストリーム向けのSamsung SSD 970 EVOは、3bit MLC V-NAND(TLC)を採用したPCIe 3.0 x4対応SSDで、SLCキャッシュ技術であるIntelligent TurboWriteの採用により、リード最大3,500MB/s、ライト最大2,500MB/sを実現。容量ラインナップは250GB/500GB/1TB/2TB。耐久性は1TBモデルで600TBW、2TBモデルでは1,200TBWを達成しており、十分に高耐久と評価できるものだった。
2019年、TLC NAND搭載SSDが最高速モデルでも主流に、書込み速度も大幅向上抜群のコストパフォーマンスで定番SSDとなった「970 EVO Plus」
2019年2月に登場した「Samsung SSD 970 EVO Plus」は、積層数を90以上に増やしたV-NANDを新採用したSamsung SSD 970 EVOの強化モデル。最新のV-NANDに合わせて自社製コントローラやファームウェアの最適化を行ったことで速度も向上しており、リード最大3,500MB/s、ライト最大3,300MB/sという、PCIe 3.0 x4対応SSDとしては最速クラスのパフォーマンスを実現した。
容量ラインナップは250GB/500GB/1TB/2TBの4モデル。なかでも、前世代の発売時価格より2万円以上も安い30,000円前後(消費税8%込み)で発売された1TBモデルは、コストパフォーマンスに優れたSSDとして注目を集め、PCIe 3.0 x4対応SSDの定番製品として今なお多くのユーザーから支持されている。
2020年、NVMe SSDは7GB/sの時代になり発熱処理も重要なポイントにPCIe 4.0対応でPS5でも使えるSSD「980 PRO/980 PRO with Heatsink」
Samsung初のPCIe 4.0 SSDとして、2020年10月に登場したのが「Samsung SSD 980 PRO」だ。
PRO系統のSSDとして初めて3bit MLC(TLC)タイプのV-NANDを採用したが、8nmプロセスで製造された自社製コントローラや、SLCキャッシュ技術のIntelligent TurboWriteの導入により、リード最大7,000MB/s、ライト最大5,100MB/sという当時最速クラスの速度を実現。発熱の面でもバランスの取れたモデルに仕上がっている。
この時期各社から7GB/sクラスのモデルが投入されているが、速度が出る分発熱も大きく、SSDの発熱をどう処理するか、熱保護のサーマルスロットリングを避けつつ性能を引き出すにはどうすべきかなど、冷却面の問題が多くのユーザーに認識されだした時期でもある。
「Samsung SSD 980 PRO」の容量ラインナップは250GB/500GB/1TB/2TBで展開されている。最上級の性能を実現したSSDでありながら、発売時の価格は1TBモデルで24,980円前後(消費税10%込み)と、Samsung SSD 970 EVO Plus発売時の価格よりも安価であり、コストパフォーマンスにも優れた製品として注目を集めた。
「Samsung SSD 980 PRO with Heatsink」は、2021年11月にSamsung SSD 980 PROのバリエーションモデルとして発売された。Samsung SSD 980 PROをベースにオリジナル設計のヒートシンクを搭載したモデルで、家庭用ゲーム機であるPS5の増設用M.2ストレージの要件を満たすようデザインされている。
PS5での利用を念頭において設計されているため、容量ラインナップは1TBと2TBの2モデルに絞られているが、もちろんPCでの利用も可能であり、発売時の価格は1TBモデルが23,480円で、2TBモデルは39,980円(消費税10%込み)。
2021年、NVMe SSDの低価格帯モデルも進化、大容量かつ割安なモデルが人気にDRAMレスでリード最大3,500MB/sを実現したエントリー向けSSD「980」
2021年3月に発売された「Samsung SSD 980」は、従来の「PRO/EVO」とは異なるグレードの製品で、DRAMキャッシュを搭載しないことによってコストカットを図ったエントリー向けの製品だ。インターフェイスはPCIe 3.0 x4で、PCのメインメモリをDRAMキャッシュ代わりに活用するHMB(Host Memory Buffer)に対応している。
3bit MLC V-NAND(TLC)と、SLCキャッシュ技術のIntelligent TurboWriteをサポートする自社製コントローラを組み合わせたSamsung SSD 980は、リード最大3,500MB/s、ライト最大3,000MB/sを実現しており、エントリー向けSSDでありながら、PCIe 3.0 x4対応SSDとしてはかなり高速な転送速度を実現した。
容量ラインナップは250GB/500GB/1TBの3モデルで、1TBモデルの発売時価格は14,480円前後(消費税10%込み)と、低価格PCにも組み込みやすい価格を実現している。
近年はSSDをデータドライブに使用するユーザーも徐々に増えてきていることもあり、大容量かつ割安なSSDも高速モデルと並び人気のSSDとなっている。
初期のNVMe SSDから速度は最大で3倍前後に進化、実ファイル転送も大幅に向上初代の「950 PRO」と最新鋭の「980 PRO」を直接比較
Samsungのコンシューマー向けM.2型NVMe SSDを一通り見終えたところで、初代であるSamsung SSD 950 PROと、最新鋭モデルであるSamsung SSD 980 PROのパフォーマンスを比較してみよう。
比較するSSDは、Samsung SSD 950 PROが512GBモデルで、Samsung SSD 980 PROは2TBモデル。記憶容量に4倍もの差が存在するが、実は発売当時の価格はそれぞれ税込みで51,800円と47,980円であり、実はSamsung SSD 980 PROの方が安価だ。
テストはCore i9-12900Kを搭載したIntel Z690環境で行う。その他の条件などについては以下の表の通り。
「CrystalDiskMark」はリードで約2.7倍、ライトで約3.4倍に進化
まず実行したのは、定番のストレージベンチマーク「CrystalDiskMark 8.0.4」。
シーケンシャルリードの値となるSEQ128K Q32T1の値で見ると、Samsung SSD 950 PROが、リード最大2,602MB/s、ライト最大1,501MB/sという速度を発揮した一方、Samsung SSD 980 PROは、リード最大6,974MB/s、ライト最大5,142MB/sを記録し、リードで約2.7倍、ライトでは約3.4倍の大差をつけた。
実アプリ環境テストの「PCMark 10 Storage」でも1.6~2.1倍ほどの性能向上
PCMark 10のストレージベンチマークテストは、ピーク速度を測定するCrystalDiskMarkとは異なり、実際のアプリケーションなどでのパフォーマンスを測定するとされるテストだ。今回は、システムドライブとしての性能を評価する「Full System Drive Benchmark」と、データドライブとしての性能を評価する「Data Drive Benchmark」を実行した。
ベンチマークスコアは、Samsung SSD 980 PROがFull System Drive Benchmarkで2,789、Data Drive Benchmarkで3,677を記録し、Samsung SSD 950 PROをそれぞれ約1.6倍、約2.1倍上回った。
転送速度で勝るSamsung SSD 980 PROが「帯域幅(Bandwidth)」で有利な結果を残しているのは当然として、平均アクセスタイム(Average access time)についてもSamsung SSD 950 PROから大きく短縮されている。転送速度向上とレイテンシ短縮の両面でNVMe SSDが進化を遂げたことを示す結果であると言えよう。
動画ファイルの転送も倍ほどの速度に向上
システムドライブ(Samsung 980 PRO 512GB)から、約50GB(10GB×5ファイル)の動画ファイルをコピーしたさいの転送時間を計測してみた。
計測の結果、Samsung SSD 950 PROが35.30秒を要したのに対し、Samsung SSD 980 PROは18.27秒と約半分の時間で50GBのファイルを転送することができた。どちらもなかなかに高速ではあるのだが、大容量ファイルを扱う機会の増えた現代のクリエイターにとって、この差は小さなものでは無いだろう。
パフォーマンスと容量単価で大きな進化を遂げてきたSamsung製SSDPCIe 5.0世代での進化にも期待
Samsungのコンシューマー向けM.2型NVMe SSDは、記憶素子であるV-NANDフラッシュメモリとともに進化を重ねており、最新世代のSamsung SSD 980 PROでは初代を大きく上回る性能と容量単価の低価格化を実現していた。
NANDフラッシュメモリメーカーが自社製のコンポーネントにこだわって開発したSamsungのコンシューマー向けM.2型NVMe SSDは、登場当初こそ性能や品質にこだわるハイエンドユーザー向けのプレミアムなSSDだったが、今ではコストパフォーマンスにも優れた選択肢として、多くのユーザーにとって魅力的な製品となっている。
これからも進化を続けるNANDフラッシュメモリとともに、Samsung製SSDの進化も続いていくことだろう。既に対応プラットフォームが登場した次世代インターフェイスPCIe 5.0の時代に向けて、Samsung製コンシューマー向けM.2型NVMe SSDのさらなる進化に期待したい。
[制作協力:Samsung]