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エイプリルフールで披露されたあのケースがついに発売!レトロデザインのSilverStone「SST-FLP01W」

80~90年代の国産PCを懐かしむ今や貴重な横置きタイプ text by 竹内 亮介

 1980年代から1990年代にかけて、日本には「PC-9801」シリーズというデファクトスタンダードとも言えるPCが存在した。16bit PCが主流になってからは、ホビーユースからビジネスユースまで幅広く利用されており、一定以上の年齢の古参のPCユーザーならこのシリーズに触れていないということはまずないはずだ。筆者も大学生活を、PC-9801版の「Civilization」と「三國志II」で、台なしに熱く過ごしたものだ。

 そしてSilverStoneは2023年、そんなレトロな世代のPCをモチーフにしたとおぼしき横起きケースをエイプリルフールのネタとして発表。しかしこのネタが(主に日本のユーザーから)大反響を呼び、とうとう実際に発売されることとなったのだ。今回はこのデスクトップケース「SST-FLP01W」の実機を入手したので、その機能性や実際の冷却性能などを検証していこう。

懐かしいベージュの本体色やフロントパネルのデザイン

 当時のPCには、ノートPC、モニター一体型、タワー型など、いまにもつながるさまざまなスタイルの製品があったが、一番記憶に残っているのはオフィスでよく見かけた横起き型のデスクトップ型だろう。ポップさはないものの、特徴的なフロントパネルのデザインやベージュを主体とした落ち着いたカラーリングが印象的な製品を記憶している、という人も少なくないだろう。SST-FLP01Wのデザインはそんな国産PCへのオマージュを強く感じる。

SilverStone「SST-FLP01W」。80~90年代のPCをモチーフにしたデザインの製品だが、近年では珍しい横置きタイプという点に惹かれる人もいるかも

 もちろん昔の製品と並べればここが違う、あそこが違うということは言えるのだが、パッと見であの懐かしいデザインをすぐに思い出させてくれるのはなかなかスゴイ。

 フロントパネルのアローライン(矢と羽根を模したデザイン)、右に2台並ぶ5インチFDDなど、「あー、そうそうこれだよ」的な懐かしさを感じる。5インチFDをガッコンガッコンとシークする音が聞こえてくる……。

当時のPCのユーザーなら、この場所にモデル名や各種LEDが搭載されていることにかなり懐かしさを覚える
こちらは本機のモチーフとなった80年代製の国産PC。だいぶ日焼けしているが、それもあってある種の迫力がある(機材提供:佐々木 潤氏)

 この5インチFD部分はもちろんダミーで、上部は5インチベイ、そして下部はフロントポート用のカバーになっている。フロントポートはType-CとUSB 10Gbpsポートと現代的な構成だ。5インチベイには2.5インチSSDや3.5インチHDDが組み込めるほか、トレイ下部のエリアを利用することで、やはり2.5インチSSDや3.5インチHDDを組み込める。

上部は光学ドライブ用のカバーで、手前に開く
下部はフロントポート用のカバーで、中央付近を押すと開く
5インチベイのトレイは着脱が可能で、光学ドライブのほか3.5インチデバイスや3.5インチHDD、2.5インチSSDなどを装着可能

 電源ボタンやメーカー名の刻印場所、パワーLEDやドライブLEDの位置もPC-9801シリーズを踏襲している。電源ボタンを押し込んでPCを起動すると、「ピホッ」という起動音が鳴りそうでお父さん泣けてくる……(お父さんじゃないが)。

 ただ側面には、冷却性能を強化するためのファンマウンターや電源ユニット用の吸気口を設けている。一歩引いてみると過去の製品とは違う点もいくつかあるのだが、そうした箇所は現代的なPCとして使うためにデザインされていると考えるのが妥当だ。

電源ボタンも深く押し込む独特のデザインだ
左下端にはリセットボタン
ファンは12cm角のファンを左右側面に取り付け可能で、フィルターも標準装備

 スタイルとしては純然たるデスクトップケースだ。横起き時に使う足を底面に装備しているが、これを側面に張り直したりはできない。また先ほど紹介したとおり、両側面にはファンや電源ユニットを固定する構造なので、縦置きで設置して吸気口を完全にふさいでしまうような運用は現実的ではない。

 また奥行きが36.2cmあるため、机の上に置いて使う場合にはかなり広いスペースが必要になることには注意が必要だ。とはいえ、この筐体の上に17型の平面ブラウン管モニターを乗せて使ってたんだよなあ、と懐かしくも思う。奥行きの狭い机で利用する場合は、レール式で収納できるキーボードトレイを追加すると便利かもしれない。

机の上に置いて使うことを前提としたデザインなので、ある程度奥行きのある机で使いたい

各部品を簡単に着脱可能、CPUクーラーは検討が必要

 背面から天板を固定している2本のインチネジを外すと、天板を外して内部にアクセスできる。内部構造を確認しながら、検証用のパーツを組み込んでいこう。

 今回試用機に組み込んだ構成は下記の表のとおり。CPUは12コア24スレッドのAMD「Ryzen 9 9900X」、ビデオカードはGeForce RTX 4060 Tiを搭載した「GeForce RTX 4060 Ti Founders Edition」と、ゲーミングPCとしてはミドルレンジと言ってよい性能だ。

カテゴリー製品名
CPUAMD Ryzen 9 9900X(12コア24スレッド)
マザーボードASRock B850 PRO RS WIFI(AMD B850)
メモリDDR5-6400 32GB
(PC5-51200 DDR5 SDRAM 16GB×2)
ビデオカードNVIDIA GeForce RTX 4060 Ti Founders Edition
SSDM.2 SSD 1TB(PCI Express 4.0 x4)
PCケースSilverStone FLP01(ATX)
CPUクーラーSilverStone SST-KR03(サイドフロー)
電源ユニット850W(80PLUS Gold)

 中央部分にはフレームが歪むのを防ぐ金属製の支えがあり、まずはこれも外そう。最近はミドルタワーが主流だが、一時期流行したHTPC(Home Theater PC)向けのATX対応デスクトップケースでもこういうギミックを装備するモデルが多かった。

背面のネジを外して天板を背面方向にスライドさせると、内部にアクセスできる
シャドーベイを外したのち、中央にフレームを支える金属製の支えが1本通っているので、これも外すと、マザーボード取り付け部にフリーでアクセスできるようになる

 FDDを模した5インチベイには金属製のトレイがあり、ここに光学ドライブやSSD、HDDなどを組み込める。またこの5インチベイは着脱が可能だ。

 金属製の支えと5インチベイを外すと、ほぼ構造物はない状態になる。左には電源ユニット、右にマザーボードを設置する。仮に電源ユニットを組み込む左側面を下にして見ると、いわゆるコンパクトATXミドルタワーケースと同じ配置になるので、作業性はそうしたケースとほぼ同じだ。

パーツを組み込んだところ。5インチベイのトレイでマザーボードが隠れているようにも見えるが、そもそもこのトレイは着脱が可能なので組み込み時にはジャマにならない
こちらは組み込み前の様子だが、右側面には標準装備の12cm角ファンが吸気方向で取り付けられている

 メインパーツを組み込む際にジャマになる構造物はなく、組み込み自体は楽に行えるだろう。ただ底面などにケーブルをまとめるギミック(通常のタワーケースで言うところの裏面配線など)はないので、電源ケーブルなどはジャマになりにくい場所で結束バンドなどを使ってまとめるのがよい。

電源ケーブルは電源ユニット近くのケース前方側のスペースを活かしてまとめられる

 対応するCPUクーラーの高さは13.8cmまでとなる。また5インチベイ用のトレイが近くにある関係で、大型のサイドフロータイプは利用しにくい。今回は9cm角ファンを組み合わせるSilverStoneの「SST-KR03」を組み込み、問題なく利用できた。

 ただ通常はファンを吹き付け方向で取り付けるが、5インチベイのトレイが近い関係で吸い出し方向で取り付けることになった。もっと大きめなCPUクーラーを使いたい場合は、5インチベイのトレイ自体を外して自由に使える空間を広げるとよいだろう。

CPUクーラーのファンは吸い出し方向で装着している

 また、背の高いビデオカードにも注意が必要。特にGeForce RTX 40以降の16ピン補助電源を使用した大型カードの場合、ケーブルの無理な曲げは禁物なので、ケーブルの引き回しの余裕は十分に考慮すべきところだ。

当時のPCと見比べてみる

SST-FLP01Wにパーツを組み込んだところ(写真左)と、80年代後期の国産パソコンの内部の様子(同右)。組み込まれているパーツはもちろんまったく異なるのだが、SST-FLP01Wが上手く寄せていることもあり、どこか似た雰囲気を醸し出している
パーツを組み込んだ状態のSST-FLP01Wを斜めから見たところ。この角度からだと微妙にマザーボードが見えにくいが、ほとんどのパーツにこの状態からアクセスできる。
当時の国産PCの場合、ケース外装を外して内部にアクセスしてパーツを云々する、という必要はあまりなかった(その余地もなかった)。背面の拡張カードスロットカバーを外してカードを挿すのが一般的
余談。当時のPCのマザーボード(に相当するもの)にアクセスするには、内部に構成する物のほとんどを取り外す必要があった。整然と並ぶ部品類がある意味美しい……

モンハンワイルズも設定しだいで普通にプレイ可能、温度も低い

 基本的な性能を計測するベンチマークテストとして、まずはPCMark 10と3DMarkのScoreを見てみよう。おおむねミドルクラスのゲーミングPCらしいScoreであり、発熱でCPUやGPUの性能が低下している様子は見られない。

PCMark 10の計測結果
3DMarkの計測結果

 実際のPCゲームの挙動については、今話題の「モンスターハンターワイルズ」のベンチマークソフトで簡単に検証してみた。解像度はフルHD(1,920×1,080ドット)とWQHD(2,560×1,440ドット)、4K(3,840×2,160ドット)の三通り。グラフィックスプリセットは[高]で、[フレーム生成]の設定は[ON]で計測したフレームレートを比較したのが下のグラフだ。

 結果を見れば分かるとおり、フレーム生成を有効にしたフルHDでようやくギリギリ快適といった状況で、それでも山岳地帯や洞窟など、人物や凝ったオブジェクトが多い場所ではFPSが60を大きく割り込む場面はある。さすがに最新の重量級ゲームなので仕方ない……とあきらめるのはまだ早い。

 ここで設定の[アップスケーリング]を[FSR 3.1]にすることで、フレームレートは大きく改善する。NVIDIAのGPUを搭載するビデオカードだが、AMDのFidelityFX Super Resolutionやフレーム生成機能は、GeForceでも利用できる。今回組み合わせたミドルクラスのビデオカードでモンスターハンターワイルズを遊ぶ場合は、こちらの設定のほうが有効のようだ。

モンスターハンターワイルズ ベンチマークの計測結果(フレームレート)

 さらに、いくつかのシチュエーションにおける各部の温度をチェックしていこう。アイドル時は起動後10分間の平均的な温度であり、動画再生時は動画配信サイトの動画を1時間視聴中の平均的な温度を見たもので、主に軽作業時の状況を反映すると考えてよい。

 3DMark時は3DMarkの「Time Spy Stress Test」を実行中の平均的な温度で、「モンハンベンチ時」は、先ほどのベンチマークテストでループ設定を有効にして30分程度連続で実行したときの平均的な温度となる。どちらも長時間のPCゲームプレイを想定している。Cinebench時は、CPU負荷が非常に高いCinebench R23実行中の最高温度だ。温度計測はOCCT 13.1.14を利用し、室温は22.8℃。

各部の温度

 あまり高性能なCPUクーラーは利用できないこと、そして標準状態だとケースファンは12cm角タイプが1基のみであることを考えると、CPUやビデオカードはそれなりに温度が高くなるものと思われたが、実際の結果はグラフのとおりだ。少なくともミドルクラスのゲーミングPCであれば問題なく利用できるし、熱暴走の心配もないことが分かる。

見た目のレトロ感、横置きデザインがどこか懐かしいが、実用性も十分

 エイプリルフールの“ネタ”から生まれたPCケースとはいえ、デザイン性や作り込み、細部のこだわりを見れば分かるとおり、SilverStoneの「本気度」が垣間見える。レトロな国産PCに愛着があったり懐かしさを感じたりするユーザーはもちろん、最近はめっきり少なくなったデスクトップPCケースを求めるユーザーにもオススメのケースと言ってよいだろう。

 ついでに小型PCケースマニアの筆者としては、このデザインをそのまま圧縮してMini-ITX対応ケースを作るとおもしろそうだなあ、と思ったりはする。