【 2012年8月28日 】 | |
[不定期連載]PCパーツ最前線: Shuttleに聞く「今年のスリムPCと新作NAS」 〜初めてだけど初めてじゃない?〜 Text by 石川ひさよし |
キューブ系など小型PC自作キットで知られるShuttleだが、先のCOMPUTEX TAIPEIでは突如NASを出展。「とくにビギナー向けにフォーカスした」というこの製品は、間もなく発売されるという。
1st Product Management Division / 1st RD Division DirectorのJames Chang氏(右)と、Desktop / Product Management II Div. Senior SpecialistのEileen Chen氏(左)。また、同社はデジタルサイネージ(電子広告)用にも使える小型PCも9月に発売する予定。これは「業務用と自作用の双方を視野に入れた」(同社)という製品で、50℃の高温下でも動作したり、今や珍しいシリアルポートを備えるなど仕様が独特な点も特徴だ。
今回は、そうした新製品の情報をShuttleにインタビュー。自作ユーザーから見た魅力をうかがった。
聞き手:石川ひさよし
協力:Shuttle
実施日:2012年6月7日初めてだけど初めてじゃないShuttleのNAS
スマホ連携もOK、管理画面も日本語で−−まずはNASからご紹介ください。ShuttleのNASというのは初めてだと思うのですが、どのような経緯があったのでしょうか。
[Eileen氏]今回のNAS、OMNINAS KD20という製品名ですが、これを開発したチームは、10年以上日本の大手メーカーのNAS製品のOEMに携わってきた経験を持つ人たちです。
元々NASを作ってきた人間ですので、決してゼロからの開発というわけではありません。そのため、Shuttleとしては初めての製品ですが、完成度の高い製品になっております。
−−製品の位置づけとしてはどのようなものになるのでしょうか。
[Eileen氏]OMNINAS KD20はコンシューマをターゲットにした製品になります。今盛り上がっているスマートフォンやタブレットなど、そうした携帯デバイスと連携し、外部から自宅のネットワークにアクセスすることを可能としています。
例えば、スマートフォンは内蔵ストレージが小さいですから、一旦NASに蓄積し、iOSやAndroid用のアプリからFacebookにアップロードしたり、メールに添付して送信したり、といった用途を提案できます。他にも現在のNASとして求められるソフトウェア機能は網羅しています。
−−ハードウェア面でユニークな機能はありますか。
[Eileen氏]2つのベイを備えていまして、ホットスワップにも対応しています。HDD交換時、電源を落とす必要は無く、動作中にそのままHDDを交換することが可能です。
ドライブ用にアクセスLEDを用意していますが、HDDを交換したい際は、横のボタンを押すことでHDDへのアクセスが停止しLEDが消灯します。その状態でしたらHDDを抜き出しても大丈夫です。NASというものの知識があまり無い方でも、安全にお使いいただけます。
「エントリーレベル向け」という中でも、とくにビギナー向けにフォーカスしています。初めてNASに触れる方にいかにNASを使って貰えるかを念頭に開発しました。
日本市場に向けては、最初からローカライズを済ませた形で販売します。英語の管理画面では初心者の方に難しいですから。
ほか、パフォーマンス面では、最新のUSB 3.0インターフェースに対応しているほか、カードリーダーも備えています。USBフラッシュメモリやメモリカードを挿せば、自動的にNAS内へデータをコピーできます。
−−2ベイのNASとしては本体サイズが大きいように感じますが、これは何かお考えがあってのことでしょうか。
[Eileen氏]敢えて大きくしているのは、静音性と安定性の面から十分なエアフローを確保するためです。
スマートファンはHDD温度に応じて停止から4段階で回転数を制御し、動作音を最小に抑えています。また、きょう体には2.5mm厚のアルミを採用しております。ファンの回転数制御やアルミの加工技術などはXPCゆずりの技術がNASにも採用された格好です。
当初、ファンレスを念頭にスタートしたため、冷却設計はかなりしっかりとしています。実際、稼働中の本製品を見ていると、頻繁にファンが停止しています。こうした工夫により、通常使用時で28dB以下を予定しています。
−−構想から製品化までどのくらいの期間を要しましたか。
[Eileen氏]市場調査から製品化まで6ヶ月くらいです。2月の時点では着手前で、ただの構想段階でした。そしてもう発売目前、という段階です。
−−それは短期間ですね。
[Eileen氏]ゼロから始めたらそれこそ何年もかかったことでしょう。もちろん苦労はありました。NAS自体も常に進化していますからね。それでもこの期間で開発できたのは10年以上の経験があるからこそです。
−−エントリーユーザーは価格にもシビアだと思いますが、価格帯はどのくらいになる予定でしょうか。
[Eileen氏]正直に申しますと、パフォーマンスに関してはQNAP等のNAS専業メーカーさんの方が上です。我々の製品のパフォーマンスはその約7割程度ですね。ただしパフォーマンスに関してはコストを意識して敢えて7割に抑えているイメージです。各国で商習慣は違うにしても、十分に競争できる価格を目指しています。
−−OMNINASとXPCシリーズはどこでリンクするんでしょうか。
[Eileen氏]XPCはどれも2基までしか3.5インチストレージを搭載できませんし、内部的にもスペースがありません。ですから、ストレージに関しては外部に求めるしかないのです。USB 3.0やeSATAなどインターフェースは充実させていますが、NASのようにネットワーク化すれば、XPCだけでなく、他のPCやスマートフォンをはじめとするさまざまなデバイスで共有できます。
「法人」「自作」両用のスリムPCも9月に発売
環境温度50℃でも動作−−今年後半は、「デジタルサイネージ向けにスリムベアボーンも出す」とお伺いしました。この製品の説明をお伺いできますか?また、こちらの製品は、自作市場にも展開される予定でしょうか。
[James氏]はい、自作市場にも投入予定です。ひとつはAtomを搭載したファンレスモデル、もうひとつはファン付きですが、Ivy BridgeをサポートできるIntel H61チップセットモデルになります。ともに新開発、新デザインのコンパクトなきょう体を採用しています。
スリムな製品は、XPCシリーズもありますが、これは検証温度(室温)が35℃で、これはおそらく他メーカーも同じような温度だと思います。これに対し、デジタルサイネージモデルは50℃でも動作します。
従来よりサイズを縮小しつつ、同時に金属パネルを採用することで冷却性能を引き上げました。去年リリースしたスリムモデルは、プラスチックきょう体ですから、この点が大きく違います。
−−なぜ「デジタルサイネージ向け」なのでしょうか。
[James氏]自作PC市場が縮小しているという背景もあるのですが、自作用途と法人用途の両方に利用できる製品を作っていこういうのが現在のShuttleの方針です。
法人向けの仕様を備えながらも、自作ユーザーにも受け入れられる、そんな機能を備えています。
「法人用途」という意味では、最近、デジタルサイネージやPOS向けではサイズが重要視されています。今回の2モデルはともにほぼ同じサイズに収めています。どちらかと言えば、Intel H61モデルをより小さなAtomモデルにサイズに近づけた格好ですね。また、Atomモデルは外部GPUとしてRadeon HD 7410Mを搭載していますので、デジタルサイネージで求められるグラフィックパフォーマンスも十分に満たしています。Intel H61モデルは統合GPUをそのまま採用しています。
これら2製品も9月頃に投入したいと思っています。なお、デザインについては、今後のサーマルテストなどで変更する可能性がありますのでご了承下さい。パンチングホールも、製品ではもう少し目立たない工夫がされるでしょう。
−−ほか、法人用途で求められる仕様を満たしているという点はありますでしょうか。
[James氏]デジタルサイネージやPOSシステム用でよく求められるのがデュアルGbE LANだったりシリアルポートだったりします。
最近では、マザーボードの信頼性が上がって、法人用途でも民生品を使うようなことも多くなってきたのですが、逆に民生品ではレガシポートが失われてしまっており、ここがボトルネックとなっています。一般的なタワーPCであれば拡張ボードを挿すことで対応できますが、よりコンパクトなものを、という法人用途での要求とは相反します。
Shuttleは、ただコンパクト化の用途を満たすだけでなく、法人の要求にも応えることで差別化、高付加価値化を狙っていきます。結果、従来のコンパクトPCよりも、インターフェース面ではむしろ充実しているくらいです。拡張できないからこそ、インターフェースを充実させる、というのが最近のShuttleの方針になります。
−−個人向け、自作PC向けとしてのポイントはどのあたりにあるのでしょうか。
[James氏] 「デュアルLANやCOMポートが付いていたら秋葉原で売れない」ということはありません。秋葉原ですからむしろそうしたユニークなところにユーザーさんが注目してくれるわけです。こんなにバックパネルがギチギチに詰まっている製品は珍しいと思います。むしろ法人用途にかなう仕様こそ一般ユーザーにウケるというのが最近の実感としてあります。RS-232CやデュアルGbEは、既にXPCでも搭載していますが、評判を頂いておりますね。
DS25の背面インターフェース。COMポートやLANは2個づつ備え、右端には電源ボタンを本体の外に引き回せるピンヘッダが用意されている[James氏]もうひとつ面白い端子を紹介しましょう。背面に見慣れぬ端子がありますが、これは電源ボタンを外出しするためのピンヘッダなのです。POS用途のように、ラックやきょう体に本体をしまってしまった場合でも、電源ボタンを外部に延長することで簡単に操作できます。モニターの裏にマウントした場合でも非常に便利なので、これは自作向けにもウケると思いますよ。こうして見ると、法人用途を考えた仕様が、自作市場向けにはトンガッた面白い仕様に見えてくるでしょう。
ストレージに関しては、2.5インチドライブを搭載できます。拡張性としてはMini-PCIeを搭載していますし、ワイヤレスLANアンテナ用の穴も用意しています。
−−根本的な質問なのですが、これら法人向け製品はXPCと同じ製造ラインで作られるのでしょうか。
[James氏]はい。中国の工場ではかれこれ7年間、キューブやスリムなどのXPCシリーズを製造していおり、ノウハウは十分に蓄積しております。
今年のShuttleはスピーディ、社内改革で開発は矢継ぎ早
Z77キューブも4月から販売中
−−弊誌では2010年、2011年とインタビューさせていただいていますが、そのどちらでも目標として「タイムリーな製品リリース」を挙げていらっしゃいました。
4月に発売されたSZ77R5昨年までは製品リリースがチップセットとしてのホットなタイミングから少し遅れていた印象ですが、今年に入ってからはIntel Z77搭載の「SZ77R5」がZ77チップセットの解禁から1ヶ月も遅れずにリリースされました。
Shuttleの新チップセット搭載モデルとしては異例の早さでの投入だったと思いますが、その裏ではどのような改革があったのでしょうか。
[James氏]これまでのShuttleが抱えていた一番の問題は、社内でのリソース配分にありました。製作をする部門、PMやRDなどですが、全ての製品をひとつの部署が統括して行なっていたため、どうしてもひとつひとつ順番に片付けていかなければならなかったのです。
そこで、去年から段階的にリソース・アレンジメントを行い、同時に複数のプロジェクトを進行できるようになりました。それが、2012年になってIntelX79モデル、Z77モデルを矢継ぎ早に投入することができた一番の理由だったと思います。
−−お客さんの反応はいかがでしょうか。
[James氏]良い感触を得ています。従来までのShuttleの、「チップセットが発表されてからかなり経たないとキューブが出てこない」というイメージを一気に払拭できたと思います。
−−今回の製品からXPCシリーズにフィードバックされることもある?
[James氏]今回の製品で得られたノウハウは、XPCにも共有されます。既にXPCチームは10年以上コンパクトなマザーボードを設計しています。新製品を開発する際は、サイズや熱量といった基本的な要求が決まった後、過去に蓄積されたノウハウをベースにそれを満たすマザーボードが開発されるわけですが、今回の新規開発で得たノウハウも当然蓄積され、次回以降の製品に生かされていくわけです。これからもShuttleの製品にご期待下さい。
□日本Shuttle
http://www.shuttle-japan.jp/□OMNINAS KD20(日本Shuttle)
http://www.shuttle-japan.jp/nas/kd20
□SZ77R5(日本Shuttle)
http://www.shuttle-japan.jp/barebone/standard/sz77r5□関連記事
【2012年6月8日】Shuttleブースレポート(PC Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/event/20120608_538597.html
【2012年4月28日】Z77、X79のキューブ系キットが週末発売、Shuttle製
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【2010年12月18日】PCパーツ最前線:Shuttleに聞く“帰ってきたShuttle”
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【2011年8月27日】PCパーツ最前線:Shuttleに聞く「キューブのこだわり」
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