忍者増田のレトロゲーム忍法帖

ゲーム開発会社社長から見た『いたスト』のゲーム性

~『いただきストリート』対談編 後編~

忍者増田氏と『いただきストリート ~私のお店によってって~』のファミコンカートリッジ。

 前回に引き続き、アールフォース・エンターテインメントの横山裕一氏を招き、『いただきストリート』についての対談をお送りする。

 ゲーム会社社長の横山氏から見た『いたスト』の魅力や、ゲームを作る上で必要となる「発明」の大事さについて語り尽くす。



株の買い方、5倍買い……プレイに露骨に性格が出るゲーム

横山裕一氏(左)と増田氏。ニンテンドーDS版『いたストDS』とスーファミ版の『いたスト2』を持ちながら。

横山裕一氏。株式会社アールフォース・エンターテインメント代表取締役社長兼シナリオライター。25歳までフリーターとして様々な職業を転々としながら、インディーズでゲーム制作を手伝う。その後、様々なゲーム会社の求人に応募をするも不採用になり続け、一念発起して会社を設立、現在に至る。プランナーやシナリオライターとして300本以上のゲーム制作に携わる。

[横山裕一](以下、横山):今回、増田さんのプレイを見ていると、自分の店のエリアの株だけを買って増資するタイプじゃないですか。あれ、他人のエリアにも便乗していたらもっとイケましたよ(笑)。

[忍者増田](以下、忍増):いやあ、おっしゃる通りです(笑)。それはわかっているんですけど、やっぱ自分のエリア株で儲けたいタイプなんですよね。他人のエリア株を買うと、増資してくれないとヤキモキしてしまう。自分で資産を操作したいタイプなんです。性格が出ますね(笑)。

[横山]:その気持ちもとてもよくわかりますけどね(笑)。

[忍増]:やはり横山さんは、自分のエリア株も、他人のエリア株も、バランス良く買うタイプなんですか?

他人のエリア株を購入することで他人の増資の抑止力にもなる。これぞまさに「株」の仕組みのキモだったりする。

[横山]:そうですね。他人が増資して自分の株価が上がったらシメシメですし、もし増資しなくても、「俺が株を買っているから抑止力になっているな」と思うことができますからね。

[忍増]:結果、他人が店を大きくできなければ、自分の危険も減りますものね。いやあ、重ね重ね、おっしゃる通りです。でも「それはわかっちゃいるけれど……」なんですよね(笑)。

[横山]:ほんと、プレイに性格が出るのが面白いですね。

「5倍買い」をして積極的な買いをみせることで周囲を煽る、と横山氏。自ら仕掛けていくことでゲームに動きが出てくるという。奥が深い。

[忍増]:横山さんはかなり積極的に他人の店を「5倍買い」するタイプでしたね。終盤の膠着状態になると、どこかでカラを破らないと資産がドン詰まりになるんで、5倍買いはもちろん必要な要素。拙者も5倍買いは好きなほうですけど、横山さんは拙者以上という印象を受けました。

[横山]:そうですね。でも、自分の戦略としても5倍買いは好きですけれど、周囲を煽っている部分もあります。僕が積極的に5倍買いをすることで、周囲も「じゃあ俺も……」と思って、ゲームが荒れてきたりすることもある。そうなるとプレイも面白くなるんですよ(笑)。

[忍増]:なるほど。心理戦、お見事です。拙者も忍びとして見習わねば……。

けいこの隠された真の人柄を読む横山氏

魅力的なキャラクターが多く用意されている中、横山氏はけいこ贔屓。ちなみに、同氏はコンピューターキャラを使うとき男性は入れないそう。

[忍増]:『いたスト』のキャラクターが魅力的だとおっしゃっていましたが、初代『いたスト』だと好きな人物は誰ですか?

[横山]:僕はあの子が好きです。コンパニオンのけいこ! いいですね。今見てもいいですね。

[ふたり]:(爆笑)

[忍増]:けいことたかゆきは、拙者も入れたくなるキャラですね。生意気だけど、いるとゲームが盛り上がる。けいこをやりこめて、彼女が泣いてるシーンを見るとすごい嬉しいです(笑)。ヤな奴だけどゲームキャラとして好きというか。

[横山]:いや、僕は彼女(けいこ)は、本当は性格がいい子だと思います!

[ふたり]:(爆笑)

[横山]:一見イヤな奴に見えますけど、きっと素が出てしまう子なんですよ。自分に素直なだけなんです。

[忍増]:はははは。分析されますねー(笑)。エンディングで出るグラフィックも、けいこが一番そそりますよね。

[横山]:そうでしたっけ。覚えてないなあ……。

[忍増]:お見せしますよ(と言って、けいこのエンディンググラフィックを見せる増田氏)。

けいこのエンディンググラフィック画面。
魅入られるふたり。

[横山]:うわあ。これ……。うーん……。いいなあ(笑)。

[忍増]:拙者以上に反応してるじゃないですか!(笑)。この「あなたって ほんとに つよい ひとね」という台詞がまたビミョーにエッチいですよね。

[横山]:いや、だからやっぱ本当は素直なんですよ(笑)。僕ね、キャラクターの裏側を勝手に決めてしまうところがあって……。

[忍増]:わかります。拙者も『ウィザードリィ』プレイヤーですから(笑)。

[横山]:あははは。そうですね、通じる部分がありますよね(笑)。

[忍増]:お互い、妄想で補うタイプなのですね。

[横山]:一方、まりなはきっと性格悪い奴ですよ、どことなく人を見下しているというか(苦笑)。さゆりもムカつきますね。僕、メガネ嫌いなんですよ(笑)。

[忍増]:メガネですか。AI関係ないんですね(笑)。てか、なんでしょうこのオッサンふたりの会話は(笑)。

女子高生のまりな。コンピューターキャラのひとりだが、ゲームの進行役なども務める。
女子大生のさゆり。緑フレームのメガネに髪留めがトレードマーク。

『いたスト』みたいな100人対戦オンラインボードゲームを考えたことがある横山氏

過去に考えた100人対戦型のオンラインボードゲームについて語る横山氏と耳を傾ける増田氏。

[忍増]:もし横山さんが、『いたスト』のようなデジタルボードゲームを作るとしたらこうしたい!……というのはありますか?

[横山]:うーん、『いたスト』は完成されているからなー。でも昔、考えていたけど断念したアイデアがありまして、『いたスト』のようなボードゲームを、100人とかオンラインで同時にプレイするというね。ひとつのマップで、100人のプレイヤーがうごめいていたら面白いなと。

[忍増]:それはスケールが大きくてワクワクしますね。

[横山]:ただ、どう考えてもゲームが破綻するんです(笑)。ロジカルなゲームには絶対ならない。何回もシミュレーションして、一度企画書も書いたんですが、絶対にすごい乱雑な、カオスなゲームになる。

[忍増]:それでも、いちプレイヤーの無責任な意見を言わせてもらえば、プレイしてみたいですけど。

[横山]:それでゲームとして成り立つかというのが、僕にはまだ確信できないんです。サイコロをなくすのもアリかもしれない。でも、それだと『いたスト』じゃないよなあって(笑)。あと、株の代わりにモンスターを育てる。土地に投資するとその属性のモンスターが育っていってバトルして……なんてゲームも考えていました。

作るゲームには常に新しい「発明」を入れるべき

[忍増]:最後に、今回『いたスト』をプレイして、ゲームを作られている側の視点で感じたところがありましたら教えてください。

[横山]以前の記事で書かれていた「『パックランド』あっての『スーパーマリオブラザーズ』」じゃないですけど、「『モノポリー』があって『いたスト』がある」と思うんです。だけど、『いたスト』はオリジナルから受けた感銘にプラスしてきちんと新しい「発明」が入っている。それが「株」だと思います。

[忍増]:色々な「発明」が入っていますけど、株が一番大きいですよね。

[横山]:そうですよね。我々ゲームクリエイターも、作るゲームには「発明」はきちんと入れていかないといけないと改めて思いましたね。特に昨今のスマホ向けゲームに関しては、プレイヤーの皆さんみんな、新しいゲーム性を求めていると思うんです。こうして過去の名作をプレイして、先輩クリエイターの方々のすごさに触れると、僕たちも負けていられないと奮い立たされます。

横山裕一氏(左)と増田氏。笑いの絶えない楽しい対談となった。


 『いたスト』はキャラクターも魅力的だし、「5倍買い」などの心理戦が展開される奥深さもある。そして「株」という新しい「発明」も盛り込まれ、今プレイしてもその楽しさは色褪せていない。ファミコン版『いただきストリート』、まさに名作である。

 ※次回掲載は3月7日(火)を予定しています。

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『いただきストリートDS』ニンテンドーDS版(中古品)1,500円前後
『いただきストリートWii』Wii版(中古品)2,000円前後
※2017年1月調べ

注釈

  1. 他人のエリア株
    他人のエリア株を買って、他人の増資で儲けることも可能。増田氏は自分エリアで完結させたいタイプ、横山氏は株をバランスよく臨機応変に売り買いしていくタイプのようだ。
  2. 5倍買い
    他人が持っているお店を、その表示価格の5倍の値段で強引に買い取ってしまうこと。かなりの出費だが、地域独占のためや、逆に他人の独占を阻止するためなど、5倍買いを決断する場面は多々ある。
  3. エンディンググラフィック
    『いたスト』におけるエンディングはひとりプレイでマップ5を勝利すれば見ることができる。そしてスタッフロールの後には女の子の絵が表示されるのだ。
  4. さゆり(ふじもり さゆり)
    19歳の女子大生。緑色がお気に入りなのは間違いないだろう。メガネの影響か、童顔ながら知的に見える。性格は「冷静で勝負強い」と記されているが、意外と勝ち気な部分もあるような気がします。
  5. AI
    人工知能。ここでは『いたスト』におけるコンピューターの思考(行動)の意味。それぞれのキャラクターに性格付けがされていて、それに合わせた行動をとるようになっている。

増田厚(ペンネーム:忍者増田)

 茨城県生まれ。漫画『ゲームセンターあらし』や『マイコン電児ラン』の影響を受け、中学2年生のときにパソコンをいじり始める。東京の大学入学と同時に、パソコンゲーム誌『ログイン』にバイトとして採用され、6年間在籍。忍者装束を着て誌面に出る編集者として認知度が高まる。その後、家庭用ゲーム雑誌『週刊ファミ通』に3年在籍したあと、フリーライターとなる。現在はおもに、雑誌やWeb、攻略本などでゲームのレビュー記事や攻略記事を執筆しつつ、ゲーム以外のライティングも。得意なゲームは、『ポケモン』、『ウィザードリィ』、『サカつく』など。