忍者増田のレトロゲーム忍法帖

忍者増田と5代目ログイン編集長が『ウィザードリィ』を語り尽くす! 伝説のログイン初付録も

~ファミコン版『ウィザードリィ』 対談編~

忍者増田氏とゲストのほえほえ新井氏。

 今回は『ウィザードリィ』についての対談を掲載する。ゲストは元ログイン編集長のほえほえ新井氏。

 高橋ピョン太氏のときと同様、新井氏は増田氏のログイン時代の元上司。勝手知ったる間柄ということもあり、軽快なテンポで対談は進んでいくのだった。



ゲームの表記は『ウィザードリィ』なの? 『ウィザードリー』なの?

和気あいあいとした雰囲気で対談は進む。

ほえほえ新井氏。本名、新井創士。アスキーのPCゲーム誌ログインの5代目編集長。PS通信やファミ通ブロス、マジキューなどでも編集長を務める。その後はファミ通BOOKS編集部やファミ通コンテンツ企画部にも在籍。増田氏いわく、「ログイン編集者時代、自分を一番イジってドキドキさせてくれた人」とのこと。

[忍者増田](以下、忍増):こうやって新井さんとあらたまって対談とかするのも照れくさいですね。

[ほえほえ新井](以下、新井):僕ねえ、『ザ・ブラックオニキス』は、地下5階までマップ覚えてるよ!

[忍増]:今日は『ブラックオニキス』の話じゃないですから。新井さんは、実は『ウィザードリィ』を、最初のAppleII版からやってるんですよね。

[新井]:そう。AppleII版が発売された当初(1981年)は、まだ『ウィザードリィ』なんて知らなくて、1983年にログインの記事を見て知ったんだよね。当時、日本にはRPGらしいRPGもなかったから衝撃を受けて、やってみたいなぁと思ってた。その2ヶ月後ぐらいにログイン編集部に入ったんだけど、先輩がAppleIIで『ウィザードリィ』やってて、AppleII本体と『ウィザードリィ』を貸してくれるっていうから。

[忍増]:新井さんがAppleIIを持っていたわけじゃないんですね。あ、これ表記が『ウィザードリー』になってますね(新井氏が持ってきた昔のログインを読みながら)。最後が『~リィ』じゃなくて、『~リー』。

新井氏が持ってきた昔のログインのコピーを読む増田氏。懐かしい記事の数々につい読み入る。
当時のログインでは『ウィザードリー』表記だった。

[新井]:そう。当時のログイン誌面では音引き表記だったの。

[忍増]:そっか。AppleII版は本当は『Wizardry』って英字表記なわけで、別に正式なカタカナ表記なんてついてないですもんね。

[新井]:この時代はね、海外ゲームのこと書くの苦労したんだ。RPG自体知らないし、マニュアルも英語しかないし。でも、日本のゲームに無い要素があっても日本語訳をつけなきゃいけない。FIGHTER、PRIEST、MAGEは、戦士、僧侶、魔術師だなってだいたいわかるけど、LORDって何だろう……とか。AMULETなんかも、日本でいうお守りとは違うけど、大雑把に言えばお守りでいいのかなぁとか悩んだり。

[忍増]:なるほど。呼び方もモノによってブレがありますもんね。MAGEが魔術師だったり魔法使いだったり。BISHOPも僧正だったり司教だったり。

[新井]:『Ultima』を、ウルティマとアルティマとかね(笑)。STRENGTHはストレングスだけど、「外人の発音聞くと「ストレンス」でいいんじゃない?」とか思ったりさ。

苦労があっても新鮮で楽しいRPG初体験そして元上司から増田氏に素敵なプレゼント!

ワープする座標を間違えて石の中にテレポートするなんてことも。
パーティーが全滅すると墓標が立つ。

[忍増]:AppleII版『ウィザードリィ』は、最初から面白かったですか?

[新井]:面白かったよ。僕はレベルが高くなくても先に行きたがるタイプだから、何度も全滅したし、ロストもしたなあ。プレイし初めのころは、慎重に行くというのがないんだよ(笑)。最初にワープさせられたり、ダークゾーン入ったりしたときは驚いたね。方眼紙にマップ書いても、1フロアの大きさが「20×20」だとか、フロアが正方形だとか知らなかったからハミ出ちゃったりね(笑)。けど、そういった苦労があっても新鮮で楽しかった。

[忍増]:RPG初体験であれば、確かに難しさより新鮮さが勝って続けてしまうかもですね。AppleII版では、何作目までプレイしたんですか?

[新井]:シナリオ3までやった。シナリオ4は人がやってるのを見ていたぐらい。いまだに僕は『ウィザードリィ』といえば正伝のシナリオ1~3……というイメージが強いね。

[忍増]:AppleII版以外の機種の『ウィザードリィ』はやってます?

[新井]:PC-9801版のシナリオ1はやったよ。あ、これ、その当時に作ったログインの付録(と言って増田氏にログインの付録を渡す)

[忍増]:おお、これが伝説の、ログイン最初の付録「Wizardry note」ですね! よくこんなの持ってましたねえ……。

1986年のログイン1月号の付録「Wizardry note」。マップやキャラクターのデータを書き込めるようになっている。

[新井]:あげるよ。僕より、増田が持っているべきでしょ。

[忍増]:えー! ありがとうございます! 明日BEEPさんに売りに行きます。嘘です(笑)。でもこれ、マップ、キャラクター、呪文、アイテム、モンスターとか、自分で書き込んでいくノートなんですね。特に攻略のヒントとか載っているわけではなく……。

[新井]:当時は「ゲームは自分で解くもの」という風潮が強かったんで、ノートとして使える付録を作ったわけ。マップは、方眼紙よりは専用のやつがあったほうがいいでしょ、と。アイテムとかモンスターは、全部自分で書いたほうが面白いでしょ、と。

[忍増]:当時を反映しているんですね。拙者も、『ウィザードリィ』は情報がまったくないほうが楽しめるんじゃないかと思うことがあります。例えば、村正の存在を全く知らない状態で、あんなヘンテコでスーパーなアイテムを手に入れたらメチャ嬉しいんじゃないかと。

[新井]:今は何でもネットに出ちゃうしね。ま、実際僕も今は、ゲームで詰まるとネット見ちゃうから偉そうなことは言えないけど(笑)。

末弥 純氏がデザインを手掛けた美麗なモンスターが出現するファミコン版。画像はフロストジャイアント。
月刊ログイン(1986年 No.6)に掲載された末弥 純氏のイラスト。

[忍増]:ファミコン版はどうでしょう?

[新井]:なにしろAppleII版は解像度が低かったし、ビデオ出力で“にじみ”があったから、まず末弥 純さんの絵の美しさにびっくりしたよね。あと末弥さんの奥さんがすごい美人だったのにもびっくりした(笑)。

[忍増]:あ、昔ログインで見ましたけど、確かに綺麗な方ですよね……ってそれファミコン版と関係ないですから(笑)。ファミコン版の末弥グラフィックは、その後の『ウィザードリィ』シリーズに多大な影響を与えましたよね。バンパイアロードとフラックのイメージが、それぞれイケメンとピエロに定着したのはファミコン版からだと思います。


 貴重な資料も飛び出した今回の対談。『ウィザードリィ』は海外ゲームならではの苦労もあったが、新鮮さに強く惹かれたという新井氏。

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初代『ウィザードリィ』を今遊ぶには?(参考価格/価格は税込表記)
ファミコン版(中古品/付属品無し)2,100円前後
ゲームボーイカラー版(中古品)15,000円~
PC-8801mkIISR版3,300円前後
MSX2版12,000円前後
ウィザードリィ・コレクション(Windows版)35,000円~
※2017年2月調べ

注釈

  1. ザ・ブラックオニキス
    1984年にBPS(Bullet-Proof Software)から発売された国産RPG。その複雑すぎないシステムは、当時まだRPGに馴染みがない日本人にスムーズに受け入れられ、大好評を博した。当時のPCユーザーなら、「初めてやったRPGは『ブラックオニキス』!」という人は多いはず。
  2. AppleII
    1977年にアメリカのアップル社から家庭向けコンピューターとして発売されたPC。個人向けに大量販売された世界初のPCと言われている。当時、日本では遊べないような革新的なゲームがAppleIIで多数発売されていたが、高価ゆえ、一般ゲーマーは遠巻きにして眺める高嶺の花のような存在であった。
  3. Ultima
    1981年にオリジン社が発売したRPG。コンピューターRPGの始祖として『ウィザードリィ』と並び称されることが多い名作。かつてログイン誌上で「Ultima」を「ウルティマ」と表記したとき、「正しい発音は「アルティマ」ではないか?」という意見が飛び交ったとか。その後、日本語版発売の際に、オリジン社と制作者が「ウルティマ」が正しい発音であると進言。日本語版はすべて「ウルティマ」表記に落ち着いた。
  4. ダークゾーン
    『ウィザードリィ』のダンジョンでの仕掛けのひとつ。闇によって視界がまったく閉ざされてしまう。ダンジョンを照らすロミルワの呪文でもどうすることもできない上、唱えていたロミルワの効果もなくなってしまうエリアなのだ。
  5. 20×20
    『ウィザードリィ』のマップは、どのフロアも20マス×20マスの正方形になっていて、マッピングがしやすかった。しかし、シナリオ5では不定形になっていた。
  6. Wizardry note
    1986年の月刊ログイン1月号についていた、同誌最初の付録。ユーザーが記入していくノート形式で、『ウィザードリィ』のキャラクター、呪文、マップ、アイテム、モンスターなどのデータが書き込めるフォーマットになっている。国内向けPC版の発売に合わせて作られた。今で言う「不確定名」の項目名が、「見かけの姿」となっているところが当時っぽい。
  7. BEEP
    BEEP 秋葉原店のこと。1980~1990年代のゲーマーなら垂涎のアイテムが揃う、秋葉原のレトロPC・ゲーム専門店。この連載を読んでいるあなたなら、ぜひとも一度行ってみるべき。
  8. 末弥 純(すえみ じゅん)
    イラストレーター。ファミコン版『ウィザードリィ』のモンスターデザインを担当。末弥氏本人も大の『ウィザードリィ』フリークで、AppleII版の『ウィザードリィ』からプレイし、かつてログイン本誌に「『ウィザードリィ』の合い間に仕事をするイラストレーター」と紹介されている。そして同じ号に、奥様の淳子さんも『ウィザードリィ』マニアと紹介されている。
  9. フラック
    道化服を着込んだ妖魔。毒、麻痺、石化、クリティカルヒットなどの数々の特殊攻撃に加え、その高いHPから繰り出すブレスが厄介。ブレスの威力はHPの高さに比例するからだ。弱そうで強いモンスターの代表格。「ファミコン版が出る前に『ウィザードリィ モンスターズマニュアル』という攻略本に掲載されていた、胡散臭いテレビ業界人みたいなフラックのイラストがいまだに忘れられない」と増田氏。

増田厚(ペンネーム:忍者増田)

 茨城県生まれ。漫画『ゲームセンターあらし』や『マイコン電児ラン』の影響を受け、中学2年生のときにパソコンをいじり始める。東京の大学入学と同時に、パソコンゲーム誌『ログイン』にバイトとして採用され、6年間在籍。忍者装束を着て誌面に出る編集者として認知度が高まる。その後、家庭用ゲーム雑誌『週刊ファミ通』に3年在籍したあと、フリーライターとなる。現在はおもに、雑誌やWeb、攻略本などでゲームのレビュー記事や攻略記事を執筆しつつ、ゲーム以外のライティングも。得意なゲームは、『ポケモン』、『ウィザードリィ』、『サカつく』など。