歴代のPC-8801シリーズを振り返る その4「PC-8801FA/MA編」

基本的なデザイン面では、前機種となるPC-8801FHやPC-8801MHとほぼ変わっていません。キーボードを配置すると見えなくなる前面下部の部分のみ、若干の変更が加えられました。

　想い出に残る、懐かしのマイコン・パソコンを写真とともに振り返る本コーナー。今春に発売予定となっている「PasocomMini PC-8801mkIISR」を前に、特別企画として「PC-8801シリーズを振り返る」をお送りします。第4回目は、いわゆるサウンドボードII音源を搭載した機種の、PC-8801FAとPC-8801MAを取り上げました。

　1980年代には数多くのマイコンやパソコンが登場しましたが、その中でも一際目立っていたのがNECから登場した「PC-8801」シリーズではないでしょうか。

　1981年に誕生した初代のPC-8801から始まり、PC-8801mkII、PC-8801mkIISR、PC-8801mkIITR、PC-8801mkIIFR、PC-8801mkIIMR、PC-8801FH、PC-8801MH、PC-8801FA、PC-8801MA、PC-8801FE、PC-8801MA2、PC-8801FE2、そしてPC-8801MCと、最終的には全部で14機種が発売されています。

PC-8801FH/MHの広告は「聴こえるよ、わたしの音色」というキャッチコピーが使われていて、FAまたはMAを購入した人から抽選で1000人に、斉藤夕貴さんが生の声で話しかける「斉藤由貴のときめきデータバンク」というディスクがプレゼントされました。

　この連載では数々の機種を取り上げてきましたが、今春に発売が予定されている「PasocomMini PC-8801mkIISR」を前に“PC-8801シリーズを振り返る”と題して、今回は搭載音源をパワーアップさせた「PC-8801FA/MA」を改めて見ていきます。

PC-8801FA/MA発売時期に、角川書店(当時)から発売されていた雑誌『月刊コンプティーク』にのみ掲載された「このごろの斉藤さんのPC-88MA/FAプライベートライフ!!」という、レアな広告もありました。

　1985年の1月にPC-8801mkIISRを発売したNECは、同年11月にFRとMRを、さらに翌年86年11月にはFHとMHをそれぞれ発表しました。約1年というサイクルで新機種を投入してきたのですが、1987年は本体のスペックはほぼそのままに、搭載している音源をリッチにしたPC-8801FAとPC-8801MAをリリースします。この2機種は、11月上旬に発売された各種パソコン雑誌に新機種紹介記事だけでなくショップ広告でも掲載されていたことから、発表・発売は10月中旬のようです。

　価格ですが、PC-8801FAが168,000円、PC-8801MAが198,000円との値付けでした。FAには、FHまでは用意されていたmodel XXという種類がなくなり、FDD2基搭載のいわゆるmodel 30のみに。そのためかFHのmodel 30と同じお値段となっていましたが、MAはMHの208,000円から1万円プライスダウンして、よりお買い得になりました。

　なお、モデル名になっているFA/MAの「A」ですが、これはAudioを意味するキーワードです。音楽に関するものとしては、PC-8801mkIISRの「S」がSoundからきていたので、音に関しては今回で2度目のバージョンアップと言えるでしょう。

背面はFA/MAで若干異なりますので、縦に並べてみました。上がMAで下がFAです。MAの背面は左からサービスコンセント、オーディオ入出力端子、拡張スロット×2。下段左下からマウスコネクタ、RS-232Cコネクタ、ディスプレイ水平周波数切換スイッチ、CRTクロックジャンパ、アナログRGB端子、デジタルRGB端子、プリンタポートとなっています。FAではCRTクロックジャンパとデジタルRGB端子、拡張スロットが1つ、それぞれ削られているほか、CMT端子が消えました。

　広告では「聴こえるよ、わたしの音色」とのキャッチコピーの元、「ステレオ12音源の感動、デジタルサンプリング機能の魅力、ミュージックソフトの誘惑。サウンドに秀でたニュー88です。」という見出しを付けて、音源部分を大々的に宣伝していました。本機の立ち位置としては、FH/MHに対して音楽機能を拡張したニューモデルでしたが、逆にそれ以外の違いがあまり無かったため、アピールポイントという部分では少々苦労したのかもしれません。

　この音源部分に関しては、当時の雑誌に「新しく搭載された音楽機能では、リズム音となるバスドラム、スネアドラム、リムショット、タム、シンバル、ハイハットの6音(PCMリズム)と、それにFM6音のステレオ12音を搭載して、迫力ある音楽演奏が楽しめるのです」と書かれていて、それを読んだときには凄いと思ったものでした。

　それに加えて、FA/MAにはADPCMも搭載されています。ADPCM専用として256Kbytesのメモリを装備していて、テレビのスピーカ並みの音質と言われるサンプリングタイム16KHzでは約30秒、街中からかける遠距離電話並の音質レベルのサンプリングタイム4KHzなら約120秒、音を録音再生することができました。ゲームでは、日本テレネットの『夢幻戦士ヴァリスII』プレイ時に手元の88から主人公の声が聞こえてきたときには、それはもうビックリ感動したものです。

　これらの音に関してはすべてがステレオに対応していて、もちろんヘッドホン端子もステレオ対応なので、外部スピーカが使えなくても問題無くステレオで音を楽しむことが可能でした。

FH/MHは正面中央にフタがありましたが、FA/MAではそれが無くなっているのが大きな違いです。デザインは両機種とも変わらないので、FAで見ていきます。正面に用意されたインタフェースは左から、キーボード接続端子、リセットボタン、クロック切換スイッチ、モード切換スイッチ、ヘッドホン端子、ボリュームつまみ、電源となります。

　PC-8801FAは音源部分のパワーアップがメインですが、PC-8801MAでは日本語関連部分での機能強化が図られています。一つは辞書ROMを搭載したことで、従来辞書はフロッピーディスクで供給されてきましたが、MAでは辞書ROMのおかげでFDDを占有することがなくなりました。もちろん、変換速度も比較にならないほどアップしたことで、日本語入力環境が大きく改善されたのも見逃せないポイントといえるでしょう。

　もう一つが、ワープロほど本格的では無いものの、日本語を入力できる「日本語エディタ」というソフトが添付されていることです。この2つにより、PC-8801MAの日本語環境は、当時としては非常に充実した物となっていました。

　音源に関してですが、既発売のPC-88向けには内蔵することで音楽面でPC-8801FA/MA同様の機能を備える「サウンドボードII」が準備されています。ボードは3種類用意されていて、一つがPC-88VA用、もう一つはFH/MH用、そしてもう一つがPC-8801からPC-8801mkIIFR/MRまで用です。なおFR/MRまで用は、ボードを実装するとボードに備え付けられた出力端子からしか音声が出力されなくなるようになるので、気に留めておく必要があるかもしれません。

　「PasocomMini PC-8801mkIISR」では、今回紹介した「サウンドボードII」に対応という情報が既に出ていますが、MAが搭載した辞書ROMなどに関しては今のところ不明です。このあたりは時間と共に明らかになっていくと思いますので、続報を待ちたいと思います。

　次回は、家庭用テレビに接続して使うことができるようになったPC-88、PC-8801FEとPC-8801FE2を取り上げる予定です。