ボクたちが愛した、想い出のレトロパソコン・マイコンたち

エプソンのハンドヘルドコンピュータ「HC-80/HC-88/HC-88T」

右のHC-88はJISキーボードですが、ここから底面の日本語処理ユニットを外したものがHC-80で、キーボードをタッチ16タイプに交換すれば左のHC-88Tとなります。今見ても、非常にスタイリッシュなデザインと言えるかと思います。手前に見えるのはキャリングハンドルで、ここをつかんで持ち運ぶことができました。

 想い出に残る、懐かしのマイコン・パソコンを写真とともに振り返る本コーナー。今回取り上げたのは、エプソンから1984年6月に発売された、同社のハンドヘルドコンピュータ最終機種となったHC-80シリーズです。HC-80/HC-88/HC-88Tはほぼ同じスペックなので、まとめて取り上げました。

HC-88とHC-88Tのキーボード部分のみ撮影してみました。一見して、キーボードに書かれている文字の違いが分かるかと思います。今回使用したHC-88Tは、残念ながら5キーが取れてしまっています……。

 1980年代前半、さまざまなメーカーが通常のデスクトップパソコンとは別に、A4サイズに近いハンドヘルドコンピュータをリリースしていました。デスクトップパソコンと比べれば軽くて持ち運びができるものの、画面は液晶表示ということで表現力にはさみしい部分がありましたが、それでもビジネス向けには受けたようです。

 特に、エプソンが発売したハンドヘルドコンピュータのHC-20は当時25万台を売り上げたということで、相当ヒットしたことがうかがえます。それだけ当たれば後継機種も登場するということで、HC-20誕生から2年後となる1984年6月に市場へとお目見えしたのがHC-40とHC-41、そして今回取り上げるHC-80/HC-88/HC-88Tとなります。

本体右側面にはボリュームつまみとスライド式の電源スイッチ、左側面にはリセットボタンが見えます。押すには、つまようじのような先の尖ったアイテムが必要です。

 HC-88とHC-88Tは“日本語ハンドヘルドコンピュータ”との冠がついていて、HC-80にはそれがありません。これは、HC-88/HC-88Tに付属している日本語処理ユニットを別売にしているためで、それが付いていないHC-80は英数・かな専用機となっていました。もちろん、日本語専用ユニットを装着すれば、スペック的にはHC-88/HC-88Tと同等になります。そういう事情を鑑みて、以降はHC-88/HC-88Tをメインとして紹介していきます。

 価格ですが、HC-88/HC-88Tが298,000円、HC-80が198,000円、日本語専用ユニットが100,000円でした。合わせて、バッテリ駆動するプリンタやフロッピーディスクドライブも用意されていて、80桁熱転写ポータブルプリンタP-80が42,800円、漢字プリンタP-80Kが104,000円となっています。3.5インチポータブルフロッピーディスクドライブPF-10は、単二乾電池4本または単三Ni-Cd4本、ACアダプタで駆動させることができて、価格は104,000円でした。

 価格10万円の日本語処理ユニットですが、日本語処理用の拡張OS用ROM32KB、日本語ワープロ用ROM32KB、漢字パターンROM128KB、漢字辞書ROM128KB、国語辞書ROM256KB、RAMディスク用RAM64KBが内蔵されています。それを考えると、付けられているお値段にも納得がいくというもの?

背面は左からスピーカー出力端子、A/D入力端子、バーコードリーダ接続端子、RS-232Cコネクタ、シリアルポート、ACアダプタ接続口、その下にバックアップのオンオフスイッチが設けられていました。底面には、ROMソケットとディップスイッチがありました。

 本体スペックとしては、メインCPUにZ80を搭載、メモリはROM、RAMともに64KBを内蔵しています。本体サイズは、HC-88/HC-88Tが幅297mm×奥行き216mm×高さ71mmで、ほぼA4版の大きさでした。それでいて重量も約2.9kgと、当時としてはコンパクトに収まっています。HC-80は日本語ユニットが無いぶんだけ高さと重さが抑えられていて、それぞれ47mmと約2.3kgとなっていました。この時代に重量を約3kg以下に抑えながらも、内蔵のNi-Cd電池を8時間かけて完全充電すれば、連続で3~4時間の運用が可能となっています。

 オプションとして、本体にRAMディスクユニット60または120が用意されていて、それを装着することでそれぞれ60KB、120KBの容量を追加することができました。ユーザーが作成したデータやプログラムは、このRAMディスクやフロッピーディスクドライブの他、本体に内蔵されているマイクロカセットドライブに格納します。

 採用された画面は大型液晶ディスプレイで、英数モードでは80×8文字、日本語モードでも30×3文字を表示することが可能でした。使い終わったときには、ディスプレイ部分を手前に閉じることで折り畳んで収納することができます。

 そのディスプレイを閉じる部分に実装されているのが、同シリーズお馴染みのマイクロカセットドライブでした。マイクロカセットドライブはソフトウェアでデータをリード・ライトできるだけでなく、テープの送り方向とスピードやヘッドのロードコントロール、さらにはテープの位置もリールの回転を検出して管理することができます。これを利用すれば、テープの任意の位置まで早送りして、そこからデータをリードまたはライトしたり、音声を再生したりすることが可能でした。

 本機は「ハンドヘルドで初めて日本語ワードプロセッサを標準装備」と広告で謳われていたように、日本語ワードプロセッサ「ポータブル・シンフォニー」を搭載。ほかにも、日本語スーパーカルク、日本語CP/M、日本語BASICなどを標準装備していました。「ビジネスからホビーまで幅広い用途にこたえます」と広告には書かれていたものの、残念ながらホビー用途としては目立った活躍をすることはありませんでした。

1984年5月に発売された各種パソコン雑誌の6月号では「6・月・新・発・売」との広告がうたれ、翌月号は「新・発・売」となったほか、同じタイミングでリリースされたHC-40/HC-41も掲載されていました。

 HC-88/HC-88Tの特徴の一つが、実装していたキーボードです。HC-88はJIS準拠ですが、HC-88Tは“タッチ16”と呼ばれる独特の方式を採用したキーボードとなっていました。

 このキーボードを使っての入力方法は、カナを母音と子音の2ストロークで入力するという方法で、広告では「誰でも3時間で日本語入力が思いのまま」と謳っています。具体的な入力方法ですが、広告で紹介している“素敵”という文字の場合、“さ”と入力するとサ行が選ばれ、続いて“う”と入力することで“す”を入力することができました。

 さらに、“た”→“え”、“か”→“い”と打ち込み、変換キーを押すことで“素敵”が画面上に出てくるという仕組みです。キー配列を覚えていないという人でも、母音と子音のキー10個の場所が分かれば打ち込めるため、そういったユーザーには敷居が低かったのではないでしょうか。

HC-88/HC-88Tのイメージキャラクターを勤めたのは、テレビドラマ『西遊記』やバラエティ番組『チューボーですよ!』などでお馴染みの、俳優の堺正章さんです。

 この入力方法を考案したのは、豊橋科学技術大学の情報工学系で教鞭を執っていた大岩元助教授だそうで、開発の基本姿勢は「高速のブラインドタッチで日本語を入力するということ(原文ママ・後略)」と、アスキーから刊行されていた月刊『アスキー』1984年7月号に書かれていました。

 こうして、日本語入力に力を注ぐなどしたHC-80/HC-88/HC-88Tは、HC-20などの売り上げを反映して年間販売台数を全世界で15万台(うち国内は4万台)との目標を掲げたと、当時の各種雑誌には記されています。なお、この目標が到達できたかどうかは、現存している個体数を考えると厳しかったのかもしれません。