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「長持ちするHDD選び」から「徐々に進行するHDDの病」まで、データ復旧のプロにHDDの神髄を聞いてきた

高信頼HDDとしてプロが「WD Red」を業務に採用する理由も text by 石井英男


長持ちするHDDの選び方、データを安全に守るなら低回転の最新世代モデルポータブルHDDはメーカー純正品が鉄板?

浦口氏お勧めの「WD Red」、長く使うならこのモデルとのこと
浦口氏がコレクターということもあり、くまなんピーシーネットには数多くのHDDが保管されていた。写真は昔のウエスタンデジタル製HDDだが、カラーバリエーションは昔から多かったようだ。
こちらは富士通の14インチHDD「M2294K FIXED DISK UNIT」。世界的にも現存する個体はかなり少なく、HDDの歴史的には貴重な資料だ。

――先ほどのお話にありましたが、HDDのトラブルをできるだけ防ぎたいなら動作温度がとても大事なわけですね。

[浦口氏]そうですね。やはり熱や振動に対する耐性が優れているもの、省電力設計のものは有利です。発熱が少ないモデルはその分消耗もゆっくりとしたペースになるので、長寿命な製品になります。

長く使うという観点で見れば、低回転であること、振動センサーを搭載してること、24時間365日動作が保証されているモデルは信頼度が高い製品になりますね。このあたりは各メーカーのスペックシートに記載があるので、HDDを選ぶ際に是非確認してもらいたい部分です。

メーカーがあまり公表していないので知ることが難しい部分なのですが、アイドル時にプラッタ上にヘッドが待機しないモデル、ヘッドが外周側のランプに待避するモデルは構造的に安全性が高いと言えます。世代が新しくなるほどこの構造のモデルが増えているので、なるべく新しい世代のモデルが安心と言えるかもしれません。

また、プラッタ密度が高いほどヘッドが動く範囲は少なく済み、その分負担や発熱も少なく済むので、最新世代の方が有利と言えます。例えば、容量10GBのHDDと容量1TBのHDDで10GBのデータを読み書きした場合、1TBのHDDのヘッドはプラッタ上で微細な動きしかしないと思いますが、10GBのHDDのヘッドにとっては外周から内周まで動く大仕事です。また、回転数を落としてもプラッタ密度が上がればヘッドの移動距離が短く済むためアクセスも速くなることから、こうした点でも新しいHDDは優れていると言えます。

使用する用途に合わせてHDDは選び必要がありますが、長くデータを保存しておくためのHDDを選ぶ際、どれを選んで良いのか迷ってしまうこともあるかと思います。そうなった際、WD Redは今お話しした条件を満たしているモデルになるので、おすすめできますね。

ポータブルHDDはHDDメーカー純正品がお勧め

――ポータブルHDDなども選び方のコツなどはあるのでしょうか

[浦口氏]あまり意識されていないと思いますが、とにかく全ての純正度が高いHDDを使うのがお勧めです。ずばりHDDメーカー純正品ですね。

以前はあまり見かけませんでしたが、最近はHDDメーカー各社が自社の外付けケースに内蔵したポータブルHDDを販売していると思います。当然、自社のHDDの特性など考慮して開発されますし、専用設計にもなっています。汎用デザインのケースに入れて使用することはもちろんできますが、排熱性能や耐久性、相性や安全性といった面ではカスタマイズされている分純正品の方が当然優位ですし、トラブルも少ないです。

以前の話ですが、テレビ録画用に接続した外付けHDDがうまく動かないという話を結構聞くことがありました。個々のメーカーが採用した外付けケースとHDDの組み合わせによって動いたり動かなかったりと、相性の問題なのでどうしようも無いといった状態でしたね。このあたりはHDDメーカー純正の製品であればチューニングや調整ができたりする部分ですが、汎用製品同士では組み合わせのパターンが多すぎて対応が困難です。こういった面でもHDDメーカー純正品を選ぶメリットはありますね。

Windowsログのシステムを確認することで、ディスク障害の予兆を知ることができる
不良セクタが発生してしまったHDDの例。CrystalDiskInfoなど、S.M.A.R.T.の情報が確認できるソフトで定期的にHDDのステータスを見ておくのもデータを失わないための運用法だ。

――運用面でユーザーが気にした方がよいことなどがあれば教えてください、例えば古いHDDを使い続けるのはあまり良くないのでしょうか

[浦口氏]データを守るという点では、HDDのコンディションを保つことはかなり重要です。急な電源断や夏場に高温にさらされたりなど、長期間使用していればHDDがダメージを受ける場面には遭遇してしまいます。使用していれば消耗していくのは避けられないので、定期的に交換していく方が安全と言えますね。なので、壊れないからといって、古いHDDをずっと使い続けるというのはあまりお勧めしません。

HDDの故障率の話でよく使われるのは、バスタブ曲線のグラフですね。複数のHDDの故障率をまとめると、最初に初期不良の影響で故障率が高い時期があり、その後安定期が長期続いたあと、寿命で壊れ始めるときに一気に故障率が上がっていく、バスタブのような曲線を描くグラフです。

安定期に入っている時は壊れないイメージですが、その間もHDDの消耗は確実に進みます。例えば、サーバールームのエアコンを付け忘れていて、すごい高温になっていた時期があったりした場合、目には見えませんが、一気にHDDの寿命を削ることになったりします。なので、何かダメージを与えてしまうようなことが起こった場合などは、安定期のうちにHDDを交換していった方が安全なはずです。

また、データを分散して保存しておくことも重要です。HDDはいつかは壊れるものなので、これに対応するにはバックアップを取っておくしかありません。

――HDDを交換するタイミングなどを知る方法などはあるのでしょうか

[浦口氏]見えない部分で消耗が進行することもあるので、確実な方法というのはないのですが、定期的にWindowsのイベントログを見てもらうのが良いかと思います。「Disk」に警告やエラーが出た場合は、障害の予兆と考えることができます。

警告やエラーが出た場合、ディスク番号によってどのポートに接続されているHDDかわかるので、それが内蔵HDDだった場合は注意が必要です。バックアップを事前にしてから、しかるべきチェック行為を行なったほうがいいですね。こういったエラーがあるときにデフラグをかけたりすると、不良箇所を一所懸命アクセスすることになるので、磁性体剥離に繋がったり、いろいろ障害が出ることがあります。

また、S.M.A.R.T.のエラーなども交換のタイミングを見る基準になると思います。


まずはバックアップの作成を、安価で大容量な最近のHDDの特性を活かして安全にデータを保管

浦口氏は非常にユーモアあふれる方で、終始場を和ませてくれていた。インタビューに合わせ会食も行ったが、お気に入りのWD Red HDDが持ち込まれ、馬肉料理とWD Redの記念撮影が行われるなど笑いが絶えない一日となった。

――最後に読者に、くまなんピーシーネットさんからのメッセージをいただけないでしょうか。

[浦口氏]我が国では3.11の東日本大震災や熊本地震、最近では豪雨による洪水など、さまざまな災害が続いています。データを失うような状況はいつ訪れるかわからないため、普段からバックアップを心がけていただきたいですね。人的なミス、消耗による物理障害だけでなく、ランサムウェアなど予想もしない問題が起こる可能性もあります。全てを失ってしまってからでは遅いのです。

バックアップ方法に関する考えもさまざまだと思いますが、安価で大容量なHDDの特性を生かし、どんどんデータを詰め込んでいく大雑把な方法が今の時代には合っていると思いますね。例えば、更新されたファイルのみを整理してバックアップするのではなく、○月○日のデータといった感じでフォルダを作り、使用しているPCの全データを大容量HDDにまるっとコピーする方法でも良いのではないでしょうか。各HDDメーカーさんが技術を競い合って生み出した大容量HDDですが、そのわずかな量だけしか使わないのではもったいないですしね。1つのバックアップで安心せず、同じHDDをいくつか購入してバックアップを二重三重化としていく慎重さがあれば、今後起こるであろう問題に対処していくことができると思います。

また、データを安全に運用するなら、信頼性の高いHDDを使用してもらいたいとも思います。その一例としてWD Redを今回挙げさせてもらいましたが、データ復旧を行う現場で得られたノウハウや耐久性などを考慮し、弊社ではWD Redをメインストレージに使用しております。このインタビューの内容を、今後皆さまのデータがトラブルに遭わぬよう、HDD選びの参考していただければ幸いです。

[制作協力:ウエスタンデジタル]