トピック

最上位クラスのGPU/CPUもバッチリ使える、質実剛健なB860マザー「MSI MAG B860 TOMAHAWK WIFI」

組みやすさも改良されたTOMAHAWKシリーズ10年目の高品質モデル text by 坂本はじめ

 MSIの「MAG B860 TOMAHAWK WIFI」は、Intel B860チップセットを搭載するミドルクラスのLGA1851対応マザーボード。MSIが掲げるユーザーフレンドリーなEZ DIY機能と、装飾よりも品質を優先した質実剛健な設計が特徴の製品だ。

 今回はMSI最新の技術を取り入れたMAG B860 TOMAHAWK WIFIの外観や機能をチェックしつつ、最新のウルトラハイエンドGPU「GeForce RTX 5090」や準ハイエンドCPU「Core Ultra 7 265K」を搭載してパフォーマンスの検証を実施。質実剛健を体現する“TOMAHAWK”を冠した最新鋭モデルの実力を確かめてみた。

光らない質実剛健なB860マザー「MAG B860 TOMAHAWK WIFI」

 MSI MAG B860 TOMAHAWK WIFIは、ブランド10周年を迎えた「TOMAHAWK」シリーズに属するIntel B860チップセット搭載マザーボード。Arrow Lake-SことIntel Core Ultra 200Sシリーズに対応している。

LGA1851に対応するMSIのB860マザー「MAG B860 TOMAHAWK WIFI」
装飾用のLEDは非搭載だが、黒にライトグリーンを加えたシンプルなカラーリングの見栄えは良好だ
バックパネルインターフェイス。Thunderbolt 4やWi-Fi 7といった先進的な機能を備えている

 安値店では38,000円前後で販売されているミドルクラスのマザーボードではあるが、12+1+1+1フェーズの堅牢な電源回路や、全スロットにヒートシンクを備える3基のM.2スロット、CPUへの固定圧力を最適化したRL-ILM仕様のLGA1851ソケットなど、ハイエンドパーツの利用にも耐えられる質実剛健な設計を採用しており、上位モデルと同じ3年間という長期の製品保証が付属する。

 また、Thunderbolt 4やWi-Fi 7といった先進的なインターフェイスを備えるほか、MSIが「EZ DIY」の名称で推進するユーザーフレンドリー設計を多数取り入れており、堅牢かつ高機能で扱いやすいマザーボードとして完成している。

大型ヒートシンクを装備した12+1+1+1フェーズの電源回路を搭載しており、ハイエンドのCore Ultra 9にも対応している
CPUの固定圧力を最適化したRL-ILM仕様のLGA1851ソケットを採用
全てのM.2スロットにSSD用ヒートシンクを装備している
USB4 40Gbpsの上位互換規格であるThunderbolt 4ポートを1基搭載

●10周年を迎えた「TOMAHAWK」、質実剛健なゲーミングマザーボードを展開

 MAG B860 TOMAHAWK WIFIが属する「TOMAHAWK」シリーズは、カジュアルゲーマー向けのゲーミングマザーボードとして市場に投入されたモデル。

 コスト面だけでなく入手性の面でも優れていたことから、2010年代後半には広く知られるようになり、現在では定番モデルの一つになっている。使用ユーザーはトマホーカーと呼ばれることもあり、昨年は10周年を記念したイベント「トマホーカー友の会2024」も開催された。

 ここ数年のTOMAHAWKシリーズは耐久性と信頼性を重視した設計となっており、LEDなどの装飾を排した分のコストを性能面に振った製品が投入されている。今回紹介しているMAG B860 TOMAHAWK WIFIもそうした流れを汲んだモデルだ。

TOMAHAWKブランド10周年を記念する「トマホーカー友の会2024」が開催された
最初のTOMAHAWKはLGA1151マザーボードの「Z170A TOMAHAWK」
10年の間にTOMAHAWKの名を冠するマザーボードが多数発売されてきた。
近年投入されているモデルは質実剛健な製品となっている。

より使いやすく進化を続けるTOMAHAWK前モデル「MAG B760 TOMAHAWK WIFI」と比較してみた

 MAG B860 TOMAHAWK WIFIは、MSIが推進するEZ DIYの設計を取り入れたことで、より組み立てやすい洗練されたマザーボードへと進化している。

 どのような進化を果たしたのか、前モデルにあたる「MAG B760 TOMAHAWK WIFI」との比較を通して確認してみよう。

EZ DIYによって洗練されたMAG B860 TOMAHAWK WIFI(左)の設計を、前モデルにあたるMAG B760 TOMAHAWK WIFI(右)と比較する

ビデオカードの着脱を容易にする「EZ PCIe Release」

 MAG B860 TOMAHAWK WIFIに導入されたEZ DIY設計の代表格と呼べるものが、PCIeスロットのロック機能にボタンリリース機構を採用した「EZ PCIe Release」だ。

「EZ PCIe Release」

 ビデオカードの取り外し時にPCIeスロットのロックレバーを直接操作して解除する必要があった前モデルに対し、MAG B860 TOMAHAWK WIFIでは操作しやすい位置に配置されたボタンを押すことでロック/アンロックを切り替え可能となった。

ロック機能にボタンリリース機構を採用したMAG B860 TOMAHAWK WIFIの「EZ PCIe Release」
前モデルのロック機能は、PCIeスロット末端のロックレバーを直接操作するタイプ

 従来は大型のビデオカードを搭載するとロックレバーの操作がかなり困難だったが、EZ PCIe Release導入モデルはビデオカードをより安全かつ簡単に取り外せるようになった。

 ビデオカードそのものをアップグレードする場合はもちろん、他のパーツの着脱やメンテナンス作業などでもビデオカードを安全に取り外せるEZ PCIe Releaseは役立つに違いない。

スロットから離れた位置に配置されたボタンを押すたびにロックとアンロックが切り替わる
直接ロックレバーを操作する必要があった従来モデルより安全かつ簡単にロックの解除が可能だ

ワンタッチ固定機能が追加されたM.2スロット

 MAG B860 TOMAHAWK WIFIが備える3基のM.2スロットはすべてSSD冷却用のヒートシンクが付属しているが、このうちCPU直結のPCIe 5.0 x4対応スロット(M.2_1)のヒートシンクは、ワンタッチ着脱に対応した「EZ M.2 Shield Frozr II」仕様となっている。

「EZ M.2 Installation」

 従来モデルのヒートシンクは2か所をねじ止めしていたが、EZ M.2 Shield Frozr IIでは独自のロック機構により、ヒートシンクの片側のツメをスロットに配置された突起にひっかけた状態で押し込むだけで取り付けることが可能だ。

SSDヒートシンクをスクリューレスかつワンタッチで固定可能なEZ M.2 Shield Frozr II
前モデルはSSDヒートシンクを2本のネジで固定していた
SSDヒートシンクのツメをM.2スロットの突起にひっかけた状態で、上から押し込むことで固定できる。取り外し時はヒートシンクのレバーを押し込むことでロックが解除される
前モデルはSSDヒートシンクの両端をネジで止める構造

 SSD本体の固定もより手軽に行えるようになっており、SSD本体のロック機構に押し込むだけで固定できるEZ M.2 CLIP IIを採用している。従来モデルのEZ M.2 CLIPもロックレバーをひねるだけで固定できるものだったが、EZ M.2 CLIP IIではさらに簡単に固定できるようになっており、M.2 SSD取り付け時の作業性が向上した。

SSDを押し込むだけで固定できるEZ M.2 CLIP IIを採用している
前モデルは固定レバーをひねってSSDを固定するEZ M.2 CLIPを採用していた
EZ M.2 CLIP IIは上部の部品が可動する仕様で、取り付け時はSSDを押し込むだけで固定可能
取り外し時はクリップ上部をずらすことで取り外せる

 なお、基板下部に配置されたチップセット接続(PCIe 4.0 x4)対応のM.2スロット×2本については、MAG B860 TOMAHAWK WIFIのヒートシンクも従来モデル同様ねじ止め式となっているが、SSD本体のロック機構に押し込むだけで固定できるEZ M.2 CLIP IIを採用している。

チップセット接続のM.2スロット×2本のSSDヒートシンクは、従来モデル同様の2本のネジで固定されている
SSD本体の固定はワンタッチで行えるEZ M.2 CLIP IIを採用
前モデルもSSDヒートシンクはネジで固定されている
SSD本体の固定にはレバー固定のEZ M.2 CLIPが採用されている

ほかにも便利なEZ DIY機能を搭載。基板レイアウトもより組み立てやすく進化

 特に効果的で印象的なPCIeスロットとM.2スロットの改良のほかにも、ねじ込み不要で装着可能なWi-Fiアンテナ「EZアンテナ」や、3ピンARGBヘッダーと4ピンFANヘッダーを統合したMSI独自コネクタ「EZ Conn」、フロントパネル用のケーブルを束ねる「EZフロントパネルケーブル」など、従来モデルにはなかったEZ DIY機能がMAG B860 TOMAHAWK WIFIには搭載されている。

挿し込むだけで取り付け可能な「EZアンテナ」
従来はねじ込んで固定する必要があったが、かなり簡単に接続できるようになった
3ピンARGBと4ピンFANを統合した独自コネクタ「EZ Conn」と付属ケーブル
オールインワン水冷クーラーなどの接続に便利な機能
EZフロントパネルケーブルは、PCケースの電源ボタンやインジケータLEDなどの配線を束ねて接続するためのケーブル
配線の作業性が向上するだけでなく、フロントパネルの細い配線をきれいに束ねられるのもメリット

 また、EZ DIY機能に限らず、改良されている部分もある。CPU用電源コネクタ(EPS12V)をマザーボード右側のメモリスロット付近に配置。ケース内のスペースはメモリスロット側にゆとりがあることが多いので、従来モデルよりも配線のしやすさを考慮した設計と言えるだろう。

 また、マザーボード最下段に+12Vを追加供給するためのPCIe 8ピンコネクタが配置され、拡張カードやUSB PD出力、冷却ファンなどへの電力供給を強化。動作時の安定性を高める改良も施されている。

CPU用の8ピン電源コネクタ(EPS12V)はメモリスロット付近に配置、ケースに収めてから配線する際は従来より容易になった
マザーボードの最下段側に+12Vを追加供給するためのPCIe 8ピンコネクタを装備、PCIeスロットやUSB PD、冷却ファンなどの電力需要増加に対応する

ハイエンドパーツと組み合わせても安定して動作する性能はあるのかGeForce RTX 5090とCore Ultra 7 265Kを組み合わせてパフォーマンスをチェック

 ここからは、準ハイエンドGPUの「Core Ultra 7 265K」とMSIの水冷ビデオカード「GeForce RTX 5090 32G SUPRIM LIQUID SOC」をMAG B860 TOMAHAWK WIFIに搭載して性能テストを実行する。

ウルトラハイエンドGPUを搭載するMSI GeForce RTX 5090 32G SUPRIM LIQUID SOCとの組み合わせでテストを実施
Core Ultra 7 265KのCPU-Z実行画面。Core Ultra 200Sシリーズの準ハイエンドモデルで、8基のPコアと12基のEコアを備える20コアCPUだ
MSI GeForce RTX 5090 32G SUPRIM LIQUID SOCのGPU-Z実行画面。NVIDIA最新のウルトラハイエンドGPUで、マザーボードとはPCIe 5.0 x16で接続している

Cinebench 2024

 3DCGレンダリング性能を計測するCinebench 2024では、CPUのマルチコア性能「CPU (Multi Core)」とシングルコア性能「CPU (Single Core)」を計測した。テスト時の最低実行時間は10分間。

Cinebench 2024「CPU (Multi Core)」
Cinebench 2024「CPU (Single Core)」

 MAG B860 TOMAHAWK WIFIに搭載したCore Ultra 7 265Kが記録したスコアは、マルチコアが「2,025」で、シングルコアは「133」だった。これは、定格動作のCore Ultra 7 265Kが発揮する性能としてはベストに近いものであり、CPU本来の性能を存分に発揮できていると言える結果だ。

Blender Benchmark

 3DCGソフト「Blender」の公式ベンチマークテストでは、CPUとGPUのレンダリング速度をそれぞれ計測した。計測するレンダリング速度の単位はSamples per minutes(spm)。

Blender Benchmark (CPU)

 CPUのCore Ultra 7 265Kが記録したレンダリング速度はmonsterが「215.6spm」で、junkshopは「139.5spm」、classroomは「106.5spm」だった。Cinebench同様、CPU本来の性能を発揮できていると言える期待通りの結果だ。

Blender Benchmark (GPU)

 GPUのGeForce RTX 5090が記録したレンダリング速度は、monsterが「7,438.9spm」で、junkshopは「3,861.9spm」、classroomは「3,636.7spm」となっており、こちらもGeForce RTX 5090としては上々の結果だ。CPUとは桁違いのレンダリング性能をしっかり引き出すことが出来ている。

モンスターハンターワイルズ ベンチマーク

 モンスターハンターワイルズ ベンチマークでは、画面解像度4K/2160p(3,840×2,160ドット)で、グラフィックプリセットを「ウルトラ」、超解像を「DLSS(クオリティ)」、レイトレーシングを「高」に設定し、フレーム生成の有無でスコアと平均フレームレートを取得した。

ベンチマークスコア (モンスターハンターワイルズ ベンチマーク)

 ベンチマークスコアはフレーム生成オフで「34,060」、フレーム生成オンで「27,731」を記録。いずれもベンチマーク評価としては6段階中最高の「非常に快適にプレイできます」を獲得した。

平均フレームレート (モンスターハンターワイルズ ベンチマーク)

 平均フレームレートに関してはフレーム生成オフが「100.16fps」、フレーム生成オンは「162.54fps」となっており、いずれも相当に高い数値だ。

 なお、公式な見解は示されていないが、モンスターハンターワイルズ ベンチマークは、生成フレームを加味したフレームレートよりも実レンダリングによるフレームレートを評価しているのではないかと予想される。今回の環境では、フレーム生成を有効にして表示フレームレートが高くなった環境のスコアが低くなり、フレーム生成無効にして表示フレームレートが低くなった方がスコアは高い結果になった。

サイバーパンク2077

 サイバーパンク2077では、画面解像度4K/2160pで、グラフィックプリセットを「レイトレーシング:オーバードライブ」、超解像を「DLSS(クオリティ)」に設定して、DLSS 4のマルチフレーム生成を含むフレーム生成オン/オフ時の性能をベンチマークモードで計測した。

サイバーパンク2077

 フレーム生成オフで「65.1fps」を記録した平均フレームレートは、フレーム生成2Xで「118.6fps」、フレーム生成3Xで「169.4fps」、フレーム生成4Xで「217.4fps」に上昇していることを確認できた。

 この平均フレームレートは、先日MSI GeForce RTX 5090 32G SUPRIM LIQUID SOCをレビューした際に計測した結果に近いものであり、概ねGPUが持つ性能を引き出していると言えるものだ。

Core Ultra 200Sの上位CPUも余裕で動かせる強力な電源回路を搭載

 ベンチマークテストではCPUとGPUの性能をしっかり引き出せていたMAG B860 TOMAHAWK WIFI。そこで、Cinebench 2024のマルチコアテストを最低実行時間30分で実行し、Core Ultra 7 265Kのフルパワーを長時間に渡って維持できるのかテストしてみた。

 なお、テスト時の室温は約24℃と好条件だが、電源回路(VRM)には冷却ファンなどの風が当たらないパッシブクーリング状態でテストを実施した。

 テスト中、Core Ultra 7 265Kは平均195.2W(最大233.5W)の電力を消費しながら動作しており、温度は平均79.1℃(最大85.0℃)、Pコアクロックは平均5,186MHz、Eコアクロックは4,600MHzだった。特にスロットリングは発生しておらず、終始一貫したパフォーマンスを発揮していることが伺えるデータだ。

 このとき、CPUに電力を供給する電源回路のMOS温度は平均57.3℃、最大65.5℃となっており、テスト後半は温度上昇がかなり緩やかになっている様子が確認できる。パッシブクーリングという厳しい条件と、CPUが平均で200W近い電力を消費していることを考えるとよく冷えていると言って良い結果だ。

テスト開始前の電源回路周辺温度
テスト開始後30分時点の電源回路周辺温度

 サーモグラフィでも確かに温度が上昇している様子は確認できるものの、ヒートシンクなどの表面温度は60℃以下にとどまっており、モニタリングデータで取得したMOS温度と大きく乖離しない結果が得られた。

 MAG B860 TOMAHAWK WIFIが備える12+1+1+1フェーズの電源回路は、MOSFETに60A対応のSPSを採用しているとしており、実際に確認してみたところ、コントローラにMonolithic Power Systems「MP29005」、MOSFETにMonolithic Power Systems「MP87661」を搭載していた。

MAG B860 TOMAHAWK WIFIの電源回路
コントローラ「MP29005」
MOSFETの「MP87661」

 Core Ultra 7 265Kをフル稼働させても、パッシブクーリングで稼働できるMAG B860 TOMAHAWK WIFIのVRMは、オールインワン水冷のように電源回路の冷却性に乏しいCPUクーラーを使う場合でも安心して利用できるものだ。

 準ハイエンドCPUをここまで動かせるということは、より消費電力の低い下位モデルの動作が余裕なのはもちろんのこと、最上位のCore Ultra 9 285と組み合わせても問題ないだろう。

ハイエンド構成でも問題なく運用できる質実剛健なB860マザーボードコスパ重視でミドルクラスCPU/GPUとの組み合わせももちろんアリ

 MAG B860 TOMAHAWK WIFIは、従来モデルから続く質実剛健な製品設計を継承しつつ、EZ DIY機能の導入によってより使いやすく進化したマザーボードだ。

 ハイエンドパーツを使用した今回の検証機材でも、CPUとGPUの性能を引き出すことができており、Intel B860チップセットを搭載するミドルレンジクラスのマザーボードではあるが、ハイエンド構成でも十分に通用する"質"を備えている。

 もちろんハイエンドパーツだけでなく、コストパフォーマンスを重視したエントリーからミドルクラスのCPU/GPUと組み合わせた構成にも使える。堅牢なPCを構築したいのであれば、4万円弱で買えるマザーボードの中でもMAG B860 TOMAHAWK WIFIは手堅い選択肢であることは確かだろう。