あなたのPC大改造計画

TITAN XのSLIで最強ゲームPCに、
ただでさえハイスペックなPCを
「フル水冷」のモンスターマシンへ強化!(前編)

text by 清水貴裕

今回の依頼者であるTさんとその奥様。“せっかくやるのならばこだわりたい”のモットーのもと、全力で趣味に生きる素敵なご夫婦だ。

 AKIBA PC Hotline! 読者のPCが抱える問題を、編集部とライター陣が解決するという読者参加型企画「あなたのPC大改造計画」第3回目がスタートした(2回目までの模様はこちら)。第3回はオーバークロッカーの清水 貴裕が担当する。。

 今回の依頼者は大阪府にお住いのTさんだ。

あなたのPC大改造計画:記事一覧
第1回:「3万円で組んだスタイリッシュPC」は
「快適RAW現像+最新ゲームPC」になるか?
[前編後編]
第6回:「マインクラフトの実況PC」を快適に!
現役高校生の悲願は3万円+αで達成できるか?
[前編後編]
第2回:「奥さんのストレス軽減用PC」は
ちゃんと安定して動くのか?
[前編後編]
第7回:「ドラクエXをAPUで快適に!
ゲーム機を超える快適さを目指せ!!
[前編後編]
第3回:TITAN XのSLIで最強ゲームPCに!
ただでさえハイスペックなPCを
「フル水冷」のモンスターマシンへ強化

[前編後編道のり編]
第8回:勉強部屋でひっそりと使っていたPCを
ゲーミング&静音仕様に大改造!!
[前編後編]
第4回:Skylake + Win 10なPCはこう作る!
7万円で強化する「多趣味人のためのPC」
[前編後編]
第9回:女子高放送部に快適な動画編集用PCを!
快適環境で「目指せ全国!」
[前編後編]
第5回:6年前のCore 2 Duoマシンを
今風な快速マシンに大改造
[前編後編]

ベースPCはGTX 980のSLI!マザーもR.O.GのX99!

FF14プレイ中のTさん。メインモニタはG-SYNC対応のAcer XB270HAbprzでサブモニタはDell製の30インチIPSモニタ。サブモニタは、ゲーム中はGPU情報のモニタリング画面の表示に使われる。
筆者近影、水冷パーツの見積書を片手に電話でヒアリング。

 応募内容に目を通したところ、「GeForce GTX 980を2枚搭載したマシンの水冷化を希望」と書かれていた。

 マザーボードにはX99のRAMPAGE V EXTREMEを使用、CPUはCore i7-5930K、SSDも4基搭載してRAID 0とするなど、もともと非常に強力なPCをさらに強力にしたい、というご希望だ。

 水冷パーツは輸入に時間が掛かることが多いので、まずは電話でヒアリングを行いつつ、使用する水冷パーツを決めていくことにした。

 話を伺ったところ、Tさんの悩みが見えてきた。Tさんは144Hzの高リフレッシュレートモニタでファイナルファンタジー XIV(以下、FF14)をプレイしているという。ユーティリティを使ってドライバで設定できる以上の高画質設定を選択しているためか、GeForce GTX 980をSLIで運用してもフレームレートが低下することがあるのが悩みらしい。

 GeForce GTX 980のGPUコアを1,500MHz付近までOCしているらしいのだが、ファンを100%で回しても高負荷状態が続くとGPU温度が90℃を超え、サーマルプロテクションによりクロックが下がってしまうという。

 そんな折、夏場を乗り切ることも兼ねて水冷化を模索していたところ、この企画を知り、応募に至ったとのことだ。

フル水冷化の障害はビデオカード「ヘッドがない」……そしてアップグレード予算倍増、50万円に!

Tさん愛用のケースはAntec P280。静音性重視のフルタワーケースだ。
Tさんのメインマシンの内部。ケースファンを風量が多いモデルに交換するなどして冷却力の強化を図ったが、冷却力不足の解決にはならなかったとか。
4台のSSDを使用したRAID 0はシーケンシャルリードが1GB/sを超えていてかなり高速だ。

 今回の事例の場合、最も合理的な解決手段はビデオカードの水冷化だ。Tさんの予算は水冷化込みで30万円。金額だけで考えると、新規でハイスペックなPCが組めてしまう額だ。

 SLI環境を水冷化する場合、ざっと見積もりした感じでは水冷パーツだけで20万円超となる。ただ、予算は10万円程残るので、うまくやりくりすれば他の部分も大きく強化できるかもしれない。

 しかし、ここで問題が!

 Tさんが使っているGeForce GTX 980ビデオカードに装着できるフルカバータイプの水冷ブロックが存在しないことが判明。予算配分が難しくなるが、フルカバータイプの水冷ブロックが存在するビデオカードへの買い替えを前提に、プランを再考することになった。

 代案は二つ。一つ目は、独自デザインながら、フルカバータイプの水冷ブロックが存在するASUS STRIX-GTX980-DC2OC-4GD5(GeForce GTX 980)のSLIに変更するプラン。ただし、水冷化でシステムは安定するものの、同じGPUへの換装になるので、性能がほとんど向上しない。Tさんも最初は乗り気だったものの、「性能が上がらない」という言葉を聞いて少しテンションダウンしてしまった。

 二つ目の案は、GeForce GTX TITAN Xのシングル構成に変更して水冷化するプラン。性能はGTX 980のSLIには勝てないものの、VRAMが12GBになるので高解像度かつ高画質でゲームをプレイする際にメリットになるのではと考えたからだ。

 しかし、ここでTさんが口を開く。

[Tさん]GeForce GTX 980のSLIよりもVRAMは増えるけど、性能は下がるって事ですよね?

[清水]………そうですね…

[Tさん]現状でもGPUパワーが不足してフレームレートが下がっているので、性能が下がるのは避けたいですね。

[清水]GeForce GTX TITAN XをSLIすれば性能も上がるんですが、予算オーバーですしねぇ……

[Tさん]分かりました!予算を増やしましょう!50万円に!

[清水]えっ?!今なんと?

[Tさん]せっかくやって頂くので、後悔のないように予算を50万円にして、GeForce GTX TITAN XのSLIでいきましょう!

[清水]…(5秒程沈黙)

 いつの間にか予算が倍近い50万円になっていた。これは夢ではない。繰り返す、これは夢ではない。

 といった感じで、高額だった予算はさらに増額されることになった。50万円を掛けた大改造でどのようなモンスターマシンに仕上がるのか、個人的にも非常に楽しみではある。しかし、予算の半分以上がビデオカード代というのも凄いものだ……(笑)

環境確認と打合せのため大阪へ!そこはこだわりアイテムがひしめく空間だった……

リビングには大画面プラズマテレビに加えて大画面のプロジェクタースクリーンまで備えられている。テレビを見ることもできるが、こちらは映画を見るときに主に使用するそうだ。

 電話で内容が大まかに決まったとはいえ、現状を把握することは大切!新幹線に揺られてTさん宅に訪問することになった。

 Tさん宅に到着して、まず気になったのはリビングの大画面プラズマテレビや巨大なプロジェクタースクリーン。見入っていると、おもむろにタブレットを取り出すTさん。なんと、家電類は全てiRemoconで制御可能なのだという。アップグレードプランの打ち合わせに来たのだが、それ以外の話でもかなり盛り上がってしまった。

パナソニック製の大画面プラズマテレビ“TH-P65VT60”がリビングに鎮座していた。プラズマテレビ事業からの撤退を知り、即購入を決めたとか。
ゲームソフトやブルーレイディスクなどが所狭しと陳列されている。新しいものが多いかと思いきや、懐かしいセガサターンのソフトまで並んでいて驚いた。
ロボット掃除機のルンバや、強力な吸引力が魅力のダイソン製の掃除機など、主婦垂涎のお掃除グッズも備えられていた。
室内の家電のリモコンとして使われているタブレット。
Tさん夫妻共通の趣味というドールのための専用部屋。衣装やヘアースタイルのコーディーネートなど、かなり奥が深い世界のようだ。
Tさんが事前に手配していた「ASUS GTXTITANX-12GD5」×2枚。カード背面に装着する水冷用バックプレートもさり気なく手配されていた。
TさんのPC環境。黒を基調にまとまっていて、統一感がある外観だ。

 挨拶も軽くも済んだところでTさんからサプライズが。

[Tさん]実は……GeForce GTX TITAN Xなんですが、もう用意しちゃいました(笑)。

 Tさんが段ボールの中から取り出したのはなんと、ASUS製のGeForce GTX TITAN X。それも2枚!電話でのヒアリングの後に速攻で注文を入れたというその行動力には脱帽。おまけに海外から水冷ブロック用のバックプレートまで取り寄せてしまったらしい。

 そんなこんなで驚かされつつも、現在使用しているPCを動かしながらヒアリング開始。

 “理想の製品がなかったので特注で製作した”という黒いPCデスクの上には、フルHDとWQHDのモニタが設置されている。黒を基調に纏められたデスク回りは統一感があってすごくクール。マシン本体だけでなく、周辺機器やデスクに至るまでTさんのこだわりが詰まっていて、見ているだけで楽しい。

 特注のデスクやPCまわりもすごいが、可愛いお人形さんが座っている周辺機器にもTさんのこだわりが詰まっている。オーディオシステムは、RAMPAGE V EXTREMEのDTS Connect機能を利用して光デジタル出力で7.1chワイヤレスヘッドホン(SONY MDR-DS7500の
プロセッサー部)に接続、そこからアンプ(Yamaha RX-V377)にディジーチェーンして、アンプからは2.1chにダウンミックスしてスピーカー出力。そして、ルーターは一般家庭では中々お目にかかれないヤマハ製のRTX1200だった。

トラックボールにゲーミングキーボードという組み合わせの入力機器。ゲームの操作は主にゲームパッドで行うようだ。
お人形さんが目を引くが、個人的に気になったのがルーター。ヤマハ製ルーターのRTX1200を個人で使っているのはかなり珍しい。
USBオーディオインターフェースのSound Blaster Omni Surround 5.1はボイスチャット用のマイクとして使われている。
光学ドライブは、パイオニアの十和田生産モデルのBDR-S08J-BKを愛用。現行モデルは国外生産になってしまっているので貴重な品だ。
黒を基調として纏め上げたPCデスク回りだが、カードリーダーのみ何故か白。理由をお聞きしたところ、理想の仕様で黒いカラーの物が見付からなかったとの事。
アップグレード後のPCはかなりのモンスターマシンになる可能性があるので、念のためテスターで電圧を測定。今回は102.7V出ていたので安心して使用できそうだ。

GeForce GTX TITAN XのSLIでフル水冷化PCにアップグレード方針は「現行最強のゲーミングPC」

 Tさんのマシンのスペックは下記の通り。主要パーツを見ると、Core i7-5930Kに32GBのメモリ、マザーはASUS RAMPAGE V EXTREME、ビデオカードはGeForce GTX 980のSLIというかなりハイスペックな構成だ。

【今回のアップグレード対象PC】

■スペック
CPU:INTEL Core i7-5930K(6C12T、3.5GHz)
マザー:ASUSTeK RAMPAGE V EXTREME(INTEL X99)
メモリ:Crucial CT8G4DFD8213×4枚(DDR4-2133、4×8GB)
グラフィック:玄人志向 GF-GTX980-E4GB/SOC×2(GTX 980、4GB、OCモデル)
ストレージ:CORSAIR Force Series LS 120GB×4(Serial ATA 3.0、120GB、RAID 0)、HDD×5(データ用)
電源:CORSAIR HX850i(80PLUS PLATINUM、850W)
PCケース:Antec P280
CPUクーラー:COOLER MASTER Hyper 212X(ファン増設/12cm角ファン×2)
OS:Windows 7 Ultimate 64bit版

■主な用途
・ゲーム(FF14)
・写真の現像
・WebデザインやDTPなどの仕事

 Tさんは、このPCでFF14のプレイから、WebデザインやDTPの仕事まで一通りこなしている。そのため、モニタはゲーム用の144Hz対応ディスプレイと仕事用のIPSパネルディスプレイの2台構成になっている。

 ゲームには描画が滑らかで攻撃を避けるタイミングが見極めやすい144Hzのゲーミングモニタが最適らしいが、ゲーム向けの発色なため写真の現像や色校正が求められる仕事には向いていないそう。仕事用のモニタは、ゲーム中にはGPU関連のモニタリングツールを表示して、GPUの温度や使用率などの確認用として使われていた。

 ゲームをしない状態だとファンの回転数が低いため、動作音はほとんど気にならない。しかし、ゲーム用のOC設定をユーティリティで適用すると一変。ファンの回転数が100%のため、スピーカーからゲームのBGMを流していてもはっきりと動作音が聞こえるレベルだ。これだと、ゲームへの没入間が損なわれてしまう。

 PCが設置されているのが寝室なので、静音化も実現したいところ。「昔よりは静かになったんだけど」と笑顔で話す奥さんの器の大きさに取材班は感動してしまった。昔はどんな轟音マシンを使っていたのだろう……(笑)

 今回の改造で水冷化以外についた注文が一つある。それはマシンをなるべく光らせないことだ。マシンが常時稼働しているために、ケースファンの青色LEDの光が寝るときには眩しいそうだ。気になったので部屋の明かりを落としてもらうと、壁に反射した青色の光で部屋がほんのり明るくなっていた。せっかくの水冷PCなので、魅せる部分にもこだわりたいが、光量の調整は慎重に行いたい。

【今回の方針】

【目標】
・ビデオカードを水冷化して冷却力と静音性をアップ
・FF14がより快適にプレイできる環境を構築する
・ドレスアップしつつもLEDの光を抑えて寝室に相応しいPCにする

▼ビデオカード
Tさんの希望でTITAN XのSLIを採用。OC常用を視野に入れているので、これらを贅沢にも水冷化して長時間のゲームプレイに耐えられるようにする。

▼電源
TITAN XのSLIマシンをOC常用するとなると、電源容量が850Wでは心許ない。容量1000W以上かつ+12VがシングルレーンのOCに耐えうる製品へアップグレードする。

▼ケース
現ケースにラジエータの搭載スペースがないため、ケースは買い替え決定。大型な480mmクラスのラジエータを搭載可能な水冷向けの製品に変更。

▼水冷パーツ
ビデオカードだけでなくCPUとマザーも水冷化する。マザーのVRMが空冷のままだと、負荷を掛けると温度が80℃を超えてしまうので、マザーの水冷化はマストといえる。これらをきちんと冷却できるように、ラジエータは2基搭載したい。

▼ドレスアップ
延長スリーブケーブルを使ってドレスアップを行う。ライティング類に関しては、Tさんのフェイバリットカラーである青でまとめつつ、外に光が漏れないように工夫する。

 Tさんからの要望を加味し、今回の改造プランはこんな感じにまとまった。CPUやメモリ、マザーボード以外のほとんどのパーツが入れ替わるので、かなりの大手術。余ったパーツからもう1台PCが生えてこないか心配だ(笑)。

 次回は新PCの完成した姿を披露できる見込みだ。水冷化の手順なども紹介できればと考えているので、お楽しみに待っていて欲しい!

後編はこちら

[制作協力:ASUS]

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(清水 貴裕)