あなたのPC大改造計画

「奥さんのストレス軽減用PC」はちゃんと安定して動くのか?(前編)

text by 加藤勝明

今回の依頼者であるMさんご夫妻。TRPG好きが高じてゴールインされたという。
PCルームへお邪魔させて頂いた。時間が合えば夫婦でこんな感じでPCを使うという。ただMさんはボイスチャットを利用したTRPGを、奥さんはPCでMMORPGをプレイするなどジャンルは同じだが微妙にフィールドが違うようだ。

 AKIBA PC Hotline! 読者のPCが抱える問題を、編集部とライター陣が解決するという読者参加型企画「あなたのPC大改造計画」第2回目がスタートした(1回目はこちら)。今回の依頼主は千葉県在住のMさん。夫婦でそれぞれ自作PCを使っているが、今回は奥さんのPCがターゲットだという。とりあえず実物を見ながら話をしようということで、早速お伺いした。

 Mさんご夫妻のお宅は真新しい住宅地にあった。

 外壁材の白さも眩しい一戸建て、その2FがMさんご夫婦のマシンルームだ。本棚や機材もピシッと整っており、筆者の仕事部屋とはまるっきり正反対だ。

 だが我々取材班の眼はマニアックな本棚の中身に釘付けとなった。新和出版版の「Dungeons & Dragons」のルールブックを始めとする、TRPGプレイヤーなら狂喜しそうなコレクション達! 聞けばMさんご夫妻はTRPGのイベントで知り合ったという。夫婦で趣味のベクトルが同じというのはなんとも羨ましい限り。

これがMさんのPC。Core 2 DuoベースのPCらしいが、基本的にSkypeでTRPGを楽しむらしくPC側にそれほどパフォーマンスは求めてないとのこと。
本棚には新和版D&Dの赤本(ルールブック)等TRPG系の人には垂涎のアイテムが!
あなたのPC大改造計画:記事一覧
第1回:「3万円で組んだスタイリッシュPC」は
「快適RAW現像+最新ゲームPC」になるか?
[前編後編]
第6回:「マインクラフトの実況PC」を快適に!
現役高校生の悲願は3万円+αで達成できるか?
[前編後編]
第2回:「奥さんのストレス軽減用PC」は
ちゃんと安定して動くのか?

[前編後編]
第7回:「ドラクエXをAPUで快適に!
ゲーム機を超える快適さを目指せ!!
[前編後編]
第3回:TITAN XのSLIで最強ゲームPCに!
ただでさえハイスペックなPCを
「フル水冷」のモンスターマシンへ強化
[前編後編道のり編]
第8回:勉強部屋でひっそりと使っていたPCを
ゲーミング&静音仕様に大改造!!
[前編後編]
第4回:Skylake + Win 10なPCはこう作る!
7万円で強化する「多趣味人のためのPC」
[前編後編]
第9回:女子高放送部に快適な動画編集用PCを!
快適環境で「目指せ全国!」
[前編後編]
第5回:6年前のCore 2 Duoマシンを
今風な快速マシンに大改造
[前編後編]

「奥さんの“子育てストレス軽減用PC”を安定させたい」

今回の改造対象となる奥さんのPCまわり。物は多いが整っている

 さて今回のMさんの依頼は、奥さんの使うPCの強化だという。

 奥さんは子育ての合間をみて『ファイナルファンタジーXIV(以降FF14と略)』を楽しんでいるとのことだが、プレイ中に前ぶれなくクライアントが落ちることが多く困っているという。6月23日には新生FF14初の拡張パックとなる『ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド』のリリースが控えている。不安定なPCのままでは攻略も楽しめない、というのが応募の動機とのことだ。

 それでは現状の確認をはじめたい。奥さんのPCのスペックは以下のようなものだった。

【今回のアップグレード対象PC】

■スペック
CPU:Core i7-860(4C8T、2.8GHz、最大3.46GHz)
マザー:MSI Big Bang-Trinergy(Intel P55)
メモリ:DDR3-1333 2GB×2
グラフィック:GeForce GTX 260
ストレージ:HDS721010CLA332(1TB)
電源:750W(80PLUS Silver)
PCケース:星野金属 Altium VR2000
CPUクーラー:リテール
OS:Windows 7 32bit版

●主な用途
・『ファイナルファンタジーXIV』のプレイ
・Webやメール等の確認

今回のターゲットとなる奥さんのPC本体。PCケースは今は亡き星野金属製。良いパーツを選び長く使うスタイルのようだ。

 ちょっとマニアックなP55マザーを使っているあたりちょっとニヤリとしてしまうが、構成としてはそれほど変でもない。

 OSが32bit版、メモリが4GBと今のゲーミングPC基準からすると頼りない部分はあるが、パワーが出る構成を選んだようだ。ちなみにハードウェア系はすべてMさんが組立ているとのことだ。

 早速『蒼天のイシュガルド』を想定した新FF14ベンチを回したり、FF14そのものを軽く動かしてもらったが、マーフィーの法則が発動したのか、ちっとも落ちる気配はない。だが落ちるタイミングにも法則性はなく、酷い時はFF14でキャラを呼び出してログインした直後に落ちたり、ベンチマークでも落ちるとも。

 FF14の画質設定が重すぎて落ちるのではないかと考えれば、負荷のかかりそうなエフェクト類をすべてカットし、画質落としたカスタム設定を使う。負荷の少ないフルスクリーンモードで遊ぶため、攻略情報は事前に紙のメモ(!)にとってからと徹底している。しかしそれでも落ちる、というのだ。

とりあえずいつも使っている設定で新FF14ベンチを回して頂いた。10000ポイント以上の高スコアが出ているが、解像度は1280×720ドット、エフェクトもかなり省略されている。
1,920×1,080ドットの最高品質(DX9)でテストしてみると2924ポイント。やや快適という判定だが、筆者としてはDX11でもう少しスコアが欲しいところ。
実際にFF14にログインしてもらい、暫く放置してみたものの、ゲームが落ちる症状は発現せず。トラブルシューティングの時に一番厄介なパターンだ。
ベンチ中厳しい表情で画面を見つめるMさんと、不具合の説明を熱く語る奥さん。
サーキュレーターを前面に置いて冷却。PC内部に入る気流は限られるが、それでも無いよりはマシという判断なのだろう。

[加藤]そこまで不安定だと大変じゃないですか?

[M奥さん]いつもよく遊んでいる人達には「落ちやすい」と伝えてあるので、落ちても待っててくれることも多いのですが、レイド(3パーティー24人で参加する高難度コンテンツ)だとそうも行かないこともあります。急いでゲームに戻っても移動が始まってることもあります。

 もちろんMさんも手をこまねいていた訳ではない。見た感じOSには変な常駐アプリが入っている様子もないし、マシン前面にサーキュレーターで直接風を当てるなど、一時は発熱が原因と考えていたようだ。ただエアコンをつけずにプレイすることもあった(これからの季節は無理だとおもうが……)らしいので、改造後のPCは熱の面での配慮は必要だろう。

 内部はもっと徹底していた。中のホコリはほとんどないほか、内部各所に追加の冷却ファンが装着されていた。水冷化しやすい今のPCケースではすっかり廃れているが、以前はこのように冷やしたいところにファンを追加するスタイルだったのだ。

 プレイ時の不安定さを感じてからビデオカードの真上にファンを固定するパーツも組み込んだものの、それでも落ちる時は落ちるという。ネットワーク接続も光回線用ルーターへ直結するなど、様々な試行錯誤を重ねた上での今回の応募のようだ。

ハード関係は完全にMさんのテリトリー。ワイヤーシェルフの隙間にハマりこまないよう、PCケースの下に振動防止材入りの木材を置くなど、丁寧な仕事が印象的だった。
PCケース内部もフルアルミ製。上方に電源を配置し、水冷や裏配線も非対応等設計は古いものの、非常に気を使ってメンテされているという印象。
ビデオカードを覆うようにアルミの箱が固定されているが、この裏側にはファンが固定されており、ビデオカードに新鮮な外気を供給している。ナナメに配置されたファンもCPU付近の熱気を電源ユニットを通じ外に出すためのものだ。

予算は12万円+ASUS提供パーツ方針はこれだ!

 ここまでしっかり管理されていて、突然PCが落ちるとなると、問題の特定は簡単ではない。

 ざっと「CPUの過熱」「ビデオカードの過熱」「マザーの劣化」「電源ユニットの劣化」といった原因が考えられるが、サーキュレーターがある点から熱はあまり関係なさそうだ。すると劣化が主原因になるが、劣化したパーツを見極めるには、時間をかけてパーツを交換しながら見極める必要がある。ただ本改造企画のようにPCパーツをまとめて買って頂く進行だと、悠長なことも言ってられない(締め切りの問題もある)。よって劣化してそうなパーツをごっそり交換してしまうのが一番だろう。

 特別思い入れのあるパーツはないようだったが、今まで使ってきたPCケースは設計が古いもののフルアルミ製、出来も非常に良い。

 そこでPCケースや光学ドライブは流用し、中のパーツをごっそりリフレッシュすることに決めた。今回Mさんが提示された予算は12万円。さらにスポンサーのASUSTeKと編集部からの補助もある。12万円あれば完全に一台組めてしまうが、今回は信頼性重視ということで、バリューゾーンではなくミドル~ミドルやや上のゾーンのものを狙っていくことになるため、予算の配分には注意が必要だろう。

【今回の方針】

【目標】
・不安定の原因になりそうなパーツはすべてリフレッシュする
・FF14を快適に遊べる環境を再構築する
・システムは安定度を優先するため、定評のあるメーカー、信頼性の高いパーツで固める

・CPU
トラブルの元凶のひとつと考えられるマザーを交換するため、CPUも自動的にHaswell世代へ更新する。内容的にCore i5でも十分な感じだが、これまでCore i7を使ってきたことに加え、将来的にFF14の負荷増大を見越して、今回もCore i7にすべき。ただ発熱量は抑えておきたい。

・マザー
PCのトラブルの原因のひとつと考えられるため、問答無用でリニューアルする。高耐久性を謳うマザーが狙いどころだが、CPUやメモリ、電源ユニット等にもある程度予算が必要なのでちょっと耐久性にも配慮したミドルレンジマザーが良いだろう。OCもしない様子なので特にOC向けの割高な製品は使う必要はない。

・メモリ
従来のFF14は32bitアプリだったが、「蒼天のイシュガルド」から64bit対応になるためメモリ消費量も増えることが予想される。ゲームに合わせてOSを64bit化するとなれば、メモリもガッツリ増やしたい。ちょっと良いブランド品メモリを使っておきたいところ。

・ストレージ
安定動作にストレージはあまり関係ないが、OSとゲームの起動ドライブはSSDにしておきたい。万が一プレイ中にPCが落ちたとしても、SSDなら起動時間が短くて済み、そのぶんゲームへ速やかに復帰できるからだ。

・ビデオカード
静音性は特に意識していないというが、準ファンレス仕様のGTX900シリーズ以外のものを買うメリットがない。性能はあった方がよいが、電源ユニットの負担の低いGTX960が今回はベストな選択か。

・電源ユニット
元の電源ユニットは750Wと容量に余裕はあるが、経年劣化によって今回のトラブルを招いている可能性も否定できない。変換効率の高いものを使い、発熱量を減らしてやるのがベストだろう。CPUやGPUの構成から、容量は500Wもあれば十分足りるが、信頼性重視で選ぶためここにもしっかり予算を割いておく。

・その他
ダンジョンの攻略情報とFF14を(ある程度)同時に見られるような環境にすれば、余暇の時間をより効率的に使えるはず。

 第1回目は「最新ゲームにおける描画性能」という分かりやすい目標があったが、第2回目はFF14ベンチが何ポイント以上ではなく、安定性という数値化しにくい(落ちなければよいだけの話だが)目標となった。そのためパーツは負荷が少なく、かつ信頼性の高いものを選ぶ必要がある。

 基本方針も決まったのでMさんとともに秋葉原へ赴き、新生PCに適したパーツを買い集めてくることにしよう。それでは後編に請うご期待だ!

負荷を下げるためにゲームとWebブラウザを同時に開くことはせず、攻略情報は全部メモにしてチェックするという。
猫も2匹いたのだが、人見知りするせいか取材中はてちっとも姿を見せてくれなかった。

後編はこちら

[制作協力:ASUS]

(AKIBA PC Hotline!編集部)