あなたのPC大改造計画

「マインクラフトの実況PC」を快適に!
現役高校生の悲願は3万円+αで達成できるか?(前編)

text by 加藤勝明

東京都在住の高校生Uさん……こと「りんごさん」(ハンドルネーム)が今回の依頼者(未成年なので今回は顔出しナシ)。学業と運動部の部活もこなし、さらにゲーム実況動画撮影から編集までこなす……若さっていいなぁと改めて認識した次第

 AKIBA PC Hotline! 読者のPCが抱える問題を、編集部とライター陣が解決する読者参加型企画「あなたのPC大改造計画」も気がつけば第6回目を迎えた(5回目までの模様はこちら)。

 今回の依頼者「りんごさん」(ハンドルネーム)は東京都在住の学生さん。卓球部で活躍しつつYouTubeにゲーム実況動画を投稿したりするという現役バリバリの高校生で、もちろん本企画における最年少依頼者である。

 リア充遭遇の予感に内心ビクビクしていたが、ここで臆して帰る訳にはいかない。PCすら使えない若年層が増えている中、りんごさんはそれとは正反対の存在。むしろりんごさんのような若人(すでに年配者の表現)をきっちり育てるのも我々の仕事なのだ。とりあえずはりんごさん宅にお邪魔し取材が始まった。

りんごさんはYouTubeにてゲーム実況動画を多数投稿するチャンネル「LingoGamesWorks」も運営している
あなたのPC大改造計画:記事一覧
第1回:「3万円で組んだスタイリッシュPC」は
「快適RAW現像+最新ゲームPC」になるか?
[前編後編]
第2回:「奥さんのストレス軽減用PC」は
ちゃんと安定して動くのか?
[前編後編]
第3回:TITAN XのSLIで最強ゲームPCに!
ただでさえハイスペックなPCを
「フル水冷」のモンスターマシンへ強化
[前編後編道のり編]
第4回:Skylake + Win 10なPCはこう作る!
7万円で強化する「多趣味人のためのPC」
[前編後編]
第5回:6年前のCore 2 Duoマシンを
今風な快速マシンに大改造
[前編後編]
第6回:「マインクラフトの実況PC」を快適に!
現役高校生の悲願は3万円+αで達成できるか?

[前編後編]
第7回:「ドラクエXをAPUで快適に!
ゲーム機を超える快適さを目指せ!!
[前編後編]
第8回:勉強部屋でひっそりと使っていたPCを
ゲーミング&静音仕様に大改造!!
[前編後編]
第9回:女子高放送部に快適な動画編集用PCを!
快適環境で「目指せ全国!」
[前編後編]

マインクラフトのパフォーマンスが問題

 何はともあれまずは用途と主訴の確認だ。りんごさんはPCでマインクラフトを中心に遊んでおり、実況動画もマインクラフトを題材にしたものを主に作成している。ゲーム画面の録画は“BandiCam”、動画編集およびエンコードは“AviUtl”と、定番ツールをきっちりと揃えているようだ。

りんごさんのPCデスクまわり。実況は自身の肉声で行うため、マイクもしっかり固定できるものを選んでいる。ご両親は映像関係の仕事をされているというが、りんごさんは全くの独学でここに到達したというから恐れ入る

 しかしマインクラフトはヴァニラ(Modなし)状態なら動作が非常に軽く、CPU内蔵GPUでも十分に遊べる。この時のマインクラフトのフレームレートは120~130fps。これなら少々オブジェクトが詰まってきても全く問題はなさそうだ。

マインクラフトがどんなゲームか説明する必要はないだろう。ヴァニラな状態だと描画は非常に軽快。ウィンドウモードだが120~130fps程度は軽く出ていた。

 だがりんごさんはマインクラフトに“影Mod”を導入して、より奇麗な画面で遊びたいという。ここで言う影Modとは「Sonic Ester's Unbelieveable Shaders(SEUS)」のこと。ブロックのグラフィック自体は変わらないが、空や水、光源や陰影処理がぐっとリアルになる。

 確かに影Modを導入した後のマインクラフトのフレームレートは良くて20fps台、悪い時だと10fps近くまで落ちる。明らかにGPUパワーが不足しているのだ。影Modを入れて実況動画を作りたい、というのがりんごさんが応募した動機のひとつだ。

影Modを入れるとレンダリングが一気にゴージャスになるが、フレームレートは激減してしまう。画面を録画すればさらに数fps下がることを考えれば、これでプレイするには少々無理があるというものだ

 そしてりんごさんを応募に駆り立てたのは動画編集作業の待ち時間。前述の通り動画編集には“AviUtl”に“x264guiEx”を組み込んでH.264形式に書き出すという定番の環境を使っているが、エンコード待ち時間を含め全体をスピードアップしたいようだ。

↑編集環境も独学で構築。録画したゲーム画面の上にイラスト(友人に描いてもらっているそうだ)や文字を載せてからx264guiEXでMP4へ出力。エンコードや操作時の待ち時間を短くするのも重要な目標となる

 ちなみに今回の応募は、りんごさんが自力でこの改造企画にたどり着き、資金を確保し応募したという。りんごさんが未成年であるため取材や打ち合わせには必ずご両親の同席や同意を得た上で進めているが、ご両親曰く“ある日突然この話を持ってきて……”とのこと。

 行動力あるヤング(死語)って凄い……。

ベースマシンは改造企画初のメーカー製PC!

PCケースの前面に貼られたステッカーを見るだけでこれはメーカー製PCだとわかる。しかも結構新しい。2~3年前に購入したとのこと。

 ここまでのヒアリングでCPUとGPUのパワー不足を解決すれば、りんごさんの主訴は解決可能だという目星はついた。ならばPCの検分といこう。

 ここでりんごさんが机の影から出してきたPC本体は、明らかに自作ではなくメーカー製PC。

 別に本企画は自作PCでなくとも応募可能だが、メーカー製PCは時として改造を阻む。自作PCでは普通使わない規格のパーツを使っていたり、パーツ交換に制約のある構造(スロット位置が特殊、あるいはバックプレートが外せない、など)を採用している場合があるためだ。

 取材陣に一瞬緊張が走ったが、幸いにして今回ベースとなるPCは、いわゆるホワイトボックス系PCで、特殊なパーツはほとんど使われていない。緊張は杞憂に終わった。

使用歴も浅いPCだけあって中身はキレイだった。5インチベイが多く3.5インチベイが少ないあたりが今っぽくないが、ごく普通の設計だ。
メーカー製PCで一番怖いのはバックプレートがシャーシと一体化していることだが、幸いこのPCは普通のはめ込み式。

【今回のアップグレード対象PC】

■スペック
CPU:INTEL Core i5-4430(4C4T、3GHz、最大3.2GHz)
マザー:ECS B85H3-M4(Intel B85)
メモリ:DDR3-1600 12GB(4GB×1+8GB×1)
グラフィック:GeForce GTX 650
ストレージ:Crucial CT256MX1SSD1(256GB、Serial ATA 3.0)、Western Digital WD10EZEX(1TB、7200rpm、Serial ATA 3.0)
電源:AcBel PC7014(510W)
PCケース:不明(MicroATX)
CPUクーラー:Cooler Master製
OS:Windows 7 Home Premium 64bit版

■主な用途
・ゲーム(マインクラフトなど)
・ゲーム実況動画の作成・編集

 ハードを検分して改造対象となるPCのスペックを洗い出してみたが、いくつか標準スペックにない部分があることに気がついた(赤字部分)。

メモリは標準の8GBに4GBを1枚追加済。シングルチャンネル動作となるので性能的には不利だが、性能をどうにかしたいというりんごさんの試行錯誤の跡が伺える。

【加藤】SSDは本来の構成にないパーツのようですが、これは一体……?

【りんごさん】SSDは起動を速くしたくて自分で増設しました。あとメモリも8GBだったので自分で4GB追加しています。

【加藤】すると、OSの引っ越し作業も自力で済ませたと?

【りんごさん】はい。HDDのシステムをそのまま移して、HDDはデータ保存用として使っています。

 HDD→SSDへの環境移行など、今は少し検索すれば作業工程を教えてくれるWebサイトに容易に到達できるが、完全なPC初心者がそれを実行に移すには相応の覚悟と気合いが必要。

 りんごさんの期待には全力を持って応え、自作PC沼へ引きずり込み………もといパーツ交換の面白さに目覚めて頂きたい!

CPUクーラーはBTOマシンではお馴染みのCooler Master製。大型クーラーに交換したいところだが、周辺パーツとのクリアランスが非常に厳しく(ファンがコードを噛みそうだ)、さらにクーラーの高さ制限も実測130mm前後と厳しい。

 一通りパーツを確認したところ、PCケースがmicroATXなためCPUクーラーの制限がキツいとか、HDDとCPUクーラーの距離が非常に近いなどホワイトボックス系PCにありがちな要素はあるものの、物理的に改造を拒む要素は見当たらない。物理的には……。

予算は30,000円ASUS+編集部の提供パーツでなんとかなるか?

 だが今回の最大の障壁はりんごさんが提示した予算「30,000円」だった。

 依頼者が本企画史上最年少であると同時に予算も最低額。りんごさんは学校でアルバイトが禁じられているため、小遣い等の貯金から予算を捻出している。これを“予算不足ですね”で切り捨てる訳にはいかない。幸いASUS JAPANおよび編集部よりパーツ提供もあるので、これを最大限に活してなんとかできないか挑んでみたい。

【今回の方針】

【目標】
■マインクラフトで影Modを使用しても、快適なフレームレートが出るGPUパワーを確保する
■動画のエンコード時間も可能な限り短縮する
■メモリやストレージといったパーツはそのまま流用
■改造予算は30,000円

▼CPU
予算が厳しいこと、さらにマザーがLGA1150対応ということを考えると、Haswell Refresh世代のCore i5の上位モデル、あるいはCore i7から選択するのが順当な選択。しかし、この世代のCPUは既に型落ちであり、どうせ新しくするならSkylakeのパワーを体験して欲しい、ということで最新第6世代CoreからCPUを選択する。

CPUの世代を新しくするならマザーやメモリの互換性問題が発生するが、肝心なのは予算30,000円でどれだけのパワーアップができるか?という点だ。予算30,000円ならCore i5-6600がズバリ予算で購入できる最速モデルだが、Core i5-4430からCore i5-6600への乗り換えでパワーが実感できるか?というとかなり怪しい。

▼マザー
旧マシンのマザーはLGA1150で、新調するCPUはLGA1151。そのためマザーの張り替えも必須となる。だが普通にLGA1151マザーへ乗り換えてしまうと、メモリもDDR3からDDR4への乗り換えが発生するため予算が足りなくなってしまう。

幸いなことに、LGA1151マザーでもDDR3メモリに対応したマザーはいくつか存在する。そういったマザーは搭載機能が控えめなエントリークラスが中心となるが、別にOCは行わないためハイエンド製品を選ぶ必要はない。今回は編集部予算で提供することにした。

▼ビデオカード
バニラなマインクラフトならビデオカードの強化は不要だが、影Modを入れるとGTX 650では性能が不足し、フレームレートがガタ落ちする。コストパフォーマンスの良い現行GeForceのミドルレンジへ乗り換えるのが良いだろう。

ここでは価格帯が20,000円台中~後半のGTX 950にするか、30,000円前後のGTX 960にするかで悩むところ。どちらのGPUでも影Mod入りマインクラフトは快適に動きそうだが、今後ほかの画質向上系Modを入れることや、他のゲームに挑戦する可能性も考えると、MOBA系ゲーマー向けのGTX 950は将来的に不安が残る。今回ビデオカードはメーカーからご提供頂くので、遠慮なく格上のGTX 960を狙っていきたい。

▼OS
改造そのものには関係ないが、CPUはおろかマザーまで張り替えてしまうと、インストールされていたOSはライセンス的に使えなくなってしまう。そこで今回編集部の予算枠でOSも提供することにした。世の中の情勢的にはWindows 10でぜひ!と言いたいところだが、りんごさんが「操作系が変わるのはちょっと……」ということでWindows 7 DSP版を新たに買い増し。インストールされていたものと同じHome Premium版は現在入手が難しいので、Professional版へとグレードアップした。これなら期間限定とはいえWindows 10への無償アップグレードが可能なので、新しいOSが使いたくなってもカバーできる。

予算が厳しいのは当たり前だが、今回はどうすれば効果を実感できるだけの改造が可能なのかPCを前に考え込んでしまった。突破口はあるのか?

 今回パーツの入手性に関しては心配する必要はないが、上述の通り予算30,000円で買えるCPUで“速くなった感”が味わえるかが一番の心配どころ。エンコード時間はCPUパワーに応じて短くなる(はず)だが、30,000円かけただけの満足度が得られるかはまた別の話。Core i5-6700KでOCする手もあるが、OCはユーザのリスクに対する理解と正しい知識、さらに十分な投資があって初めて成立するもの。今回OCは使えない。

 りんごさんが満足する結果を得るためには、“プラスαの何か”が必要だ。これは次回までになんとかしたい。

 わずか予算30,000円でりんごさんのゲーム実況者ライフを激変させるようなマシンにすることは可能なのか?この改造は単なるパワーアップだけでなく、定期考査や部活の大会等で大忙しな現役高校生りんごさんのQOLアップに欠かせないものとなる(はず!)。次回後編に請うご期待だ。

後編はこちら

[制作協力:ASUS]

(加藤 勝明)