忍者増田のレトロゲーム忍法帖

『Mr.Do!』の制作がきっかけで開発者の上田和敏氏はユニバーサルを退社!?

~『Mr.Do!』対談編 中編~

ゲストの上田和敏氏(写真左)と、忍者増田氏(写真右)。
(C)1995 IMAGINEER /(C)1982 UNIVERSAL Co.,Ltd.

 ユニバーサル在籍時に『Mr.Do!』の企画を担当した、現サウザンドゲームズ取締役の上田和敏氏と、忍者増田氏の『Mr.Do!』対談第2回をお届けします。

 『ディグダグ』を参考にしたゲームを制作して欲しいと社長から指示を受けた当時の上田氏。そして“パワーボール投げ”というオリジナル要素を入れて出来上がった『Mr.Do!』の企画書を見た社長の反応は……!?



辞表を書いてでも自分の思う『Mr.Do!』を作り上げたかった情熱

上田和敏氏。1954年7月26日生まれ。1977年ユニバーサルに入社、処女作となる『Lady Bug』を制作し、第2作『Mr.Do!』が完成したところで退社。その後もテーカン(後にテクモと改名)では『ボンジャック』『ソロモンの鍵』『スターフォース』、アトラスでは『女神転生』『ダンジョンエクスプローラー』『キングオブキングス』など、多数の人気タイトルの企画を担当。現在、サウザンドゲームズ取締役。

[忍者増田](以下、忍増):上田さんが書かれた『Mr.Do!』の企画書をご覧になった社長の反応は……?

[上田和敏](以下、上田):社長に呼ばれた私は、社長から「余計なことは考えんでいいから、良いものはマネろ!」と言われました。その言葉はよく覚えているんですが、そのあと私はどういう態度を取ったか、全然覚えていないんです。ただ、このあとしばらくして私は辞表を書いて、「このゲームを作らせてください。作り終わったら辞めますから」と言いました。いやあ、若かったですね(苦笑)。この言葉通り、『Mr.Do!』を作り上げた直後にユニバーサルを辞めました。岡田社長には可愛がってもらったのに、今思えば本当に申し訳なかったです。

[忍増]:なんと……。上田さんとしては、やはりアレンジ部分は譲れないこだわりだったのですね。

[上田]:この企画書は自信があったんで、作りたい……。その気持ちだけだったと思いますね。

[忍増]:社長としては企画書を見て、「もう少し『ディグダグ』に近くしてほしい」という考えだったのでしょうか?

[上田]:今となってはわからないですね。スーパーボールのアレンジ部分が、つまらなく感じたのかもしれないですけどね。でも当時の時代背景って、そんな感じだったのかなと。当時は企画の専門職なんかもいなかったんですよ。デザイナー、プログラマー、ハード屋さんみたいな人たちが集まって、どんなゲームを作ろうかと話し合っている時代で、その中に企画の専門職は一人もいなかった。だから、そういう企画書もなかなか目にしないような時代だったような気もするんです。

[忍増]:辞めるといっても、周囲の方々には相当引き止められたのではないでしょうか?

[上田]:すごかったです、引き止め工作が(笑)。でも結局会社を辞めてしまった。若気の至りだったと思います。

[忍増]:完成してすぐ退社されたということは、その当時の『Mr.Do!』をプレイした方々の反響というのは……。

[上田]:はい、まったく私の耳には届いていないんですよ。あの有名な、主人公が255人に増えるバグのことも後から知って、うわ、大変だったんだなぁ、と。本当、ゲームセンターの方々には悪いことをしました。

[忍増]:初期バージョンのみ、そのバグがあったそうですね。もし拙者が子供のころにそれを見つけていたら大喜びだったと思います(笑)。意図的に仕込んだアイデアではなく、バグだったのですね。

[上田]:そうです。それからは決してそういうことが起こらないよう、ゲーム制作ではより念入りにデバッグするようになりました。

[忍増]:意図的かバグかという点でいうと、もう一つ有名なのは、チェリーを4方向から少しずつ食べると薔薇の形になるというのは、意図的だったのでしょうか?

[上田]:あれは、がっつりと意図的にやっていました。

[忍増]:やはり意図的だったんですか。いろいろと『Mr.Do!』の謎が解けてうれしいです。

[上田]:ゲームセンターでプレイできるようになった頃には私は会社を既に辞めていたから、メーカーとしても情報の出しようがないですよね。当時は、スタッフ数人くらいしかそのあたりの真実を知らなかったかも……。

当時の制作者である上田氏の前で、緊張気味にスーパーファミコン版『Mr.Do!』をプレイする増田氏

「息の長いゲームを作りたい」という上田イズム

[忍増]:拙者が『Mr.Do!』をやりたいと思ったきっかけは、やっぱり『ディグダグ』が大好きだったんで、似ているこのゲームもやってみようという単純な考えからだったんです。でも、実はまったく違うゲームですよね。

[上田]:おお、違うと感じていただけたんですね。よかった(笑)。

[忍増]:例えば前回、「『ディグダグ』の岩の要素は変えられなかった」とおっしゃっていましたけど、『Mr.Do!』のリンゴは1段の落下なら割れなかったり、自分で押せたりするところに、きちんとオリジナル要素が入っています。

[上田]:やっぱり一生懸命作っている感じはしますよね(笑)。

[忍増]:『Mr.Do!』で、上田さんが特にこだわったところといいますか、当時のプレイヤーに一番アピールしたかったところは何でしょう?

[上田]:何だろう? いろんな要素をたくさん盛り込んであるところかな。

[忍増]:当時のゲームとしては要素がてんこ盛りですよね。クリア方法が4つあるゲームなんて、他になかったんじゃないかなと。あのころのゲームとして、奥深さはかなりのものでした。

[上田]:あと、私は「息の長いゲームを作りたい」というのがテーマだったんですよ。それで『Mr.Do!』も長く愛され続けたんじゃないかなと思うんですね。当時は売り上げを上げるために、「平均3分程度でゲームオーバーにしなければならない」という制約がアーケードゲームにはありました。短い時間でそのゲームの面白さを伝えなければならなかったので結構大変でした。私の作るゲームは結構遊べちゃうゲームが多くって導入時点の売り上げは今一……。でも長続きしたゲームが多かったことは、自慢です(笑)。そしてのちに、ファミコンゲームの制作が、このヤキモキから私を解き放ってくれたんです。楽になったなあと思いましたね。もう主人公を殺すように作らなくていいんだ、と(笑)。

スーパーファミコン版『Mr.Do!』で、ダイヤモンドが出現した瞬間

[忍増]:素敵なお話です。長く遊べるといえば、ダイヤモンドは上田さんのアイデアなんでしょうか?

[上田]:はい、そうです。

[忍増]:当時、お小遣いの少ない田舎の少年としては、ステージクリアもできて、さらにクレジットも増えちゃうというのは、もう狂喜乱舞だったんです。大英断といいますか、すごいサービスですよね。

[上田]:私はピンボールが好きだったので、1クレジット入るというのは普通の感覚でつけたんですけどね。『Lady Bug』もSPECIALの文字を揃えると、1クレジット入っていたんですよ。『Lady Bug』には、ボーナスとEXTRAとSPECIALが入っているんです。ピンボールから全部もらってきているんですよ、これらのアイデア。そういえばダイヤモンドに関しては、『Mr.Do!』のロケテストに行ったとき、1ゲーム目の1面目の1個目のリンゴからダイヤモンドが出ちゃったことがありました。これ、バグじゃないかと思ってびっくりしましたね。でも、それから出なかったんで。

[忍増]:そんなタイミングでたまたま出るというのがすごいですね。ダイヤモンドの出現は完全にランダムでしたでしょうか?

[上田]:ランダムです。私、ランダムが大好きなんですよ。我が心のライバルのナムコさんのゲームは、『パックマン』や『ディグダグ』などパターンゲームだったので、そうではないゲームを目指しました。

[忍増]:なるほど。言われてみると『Mr.Do!』も『ディグダグ』みたいなパターンクリアは……。

[上田]:できないはずです。

[忍増]:そういえば、リンゴの位置なんかも毎回プレイするたび微妙にズレていますしね。

[上田]:あっ、ランダムなんだ、リンゴの位置も。そこはすっかり忘れてました(笑)。

上田氏の処女作『Lady Bug』のチラシとインストラクションカード(ゲーム文化保存研究所所蔵)


 次回は、『スターフォース』や『ギャラクシーウォーズ』など、上田氏が制作に関わった『Mr.Do!』以外のゲームについても貴重なエピソードをお届けします。お楽しみに!

 ※次回掲載は2月13日(火)を予定しています。

注釈

  1. 主人公が255人に増えるバグ
    主人公が残り1人のときに、敵を最後の1匹にし、リンゴの下で待つ。敵が来たら、リンゴが落ちてくる状態でボールを投げ、敵を倒しながら自分もリンゴに潰される。すると、主人公が255人に増えているというバグ。のちのバージョンで修正された。

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スーパーファミコン版(中古品)4,000円前後
X68000版(新品)2,000円前後
Wii/バーチャルコンソールアーケード版800 Wiiポイント
※2018年1月調べ

(C)1995 IMAGINEER /(C)1982 UNIVERSAL Co.,Ltd.

増田厚(ペンネーム:忍者増田)

 茨城県生まれ。漫画『ゲームセンターあらし』や『マイコン電児ラン』の影響を受け、中学2年生のときにパソコンをいじり始める。東京の大学入学と同時に、パソコンゲーム誌『ログイン』にバイトとして採用され、6年間在籍。忍者装束を着て誌面に出る編集者として認知度が高まる。その後、家庭用ゲーム雑誌『週刊ファミ通』に3年在籍したあと、フリーライターとなる。現在はおもに、雑誌やWeb、攻略本などでゲームのレビュー記事や攻略記事を執筆しつつ、ゲーム以外のライティングも。得意なゲームは、『ポケモン』、『ウィザードリィ』、『サカつく』など。