特集、その他

自作のプロの答えはこれだ!MISSION2「小型・高冷却×ゲーミングPC」【今、本当に欲しい自作PC③】

DOS/V POWER REPORT 2023年秋号の記事を丸ごと掲載!

コンパクトでも冷却性能に妥協のないゲーミングPCを作れ!

 パワレポ編集部から「小型で高冷却のゲーミングPCを作れ!(25万円ぐらいで)」というミッションが届いた。小ささと冷却性能の両立は難しいところだが、ココは受けて立たねば。ゲーミングPCではビデオカードの性能が最重要だ。そして、現在のPCにおいて強烈な熱源となるのもビデオカード。上位GPUではカード単体で300W以上の消費電力に到達しているので、そりゃ熱くもなるってもんだ。そのためコンパクトなPCケースでもビデオカードにガンガン風を当てられる構造のものを探し出したい。そして、冷却強化を意識しながらも予算の大半はビデオカードに突っ込む。最新ゲームが快適にプレイできなければゲーミングPCの意味がないからだ。

 また、CPUの冷却は空冷にすることにもこだわりたい。予算的な問題から簡易水冷クーラーの導入が厳しいのもあるが、大型の空冷クーラーがPCケースの中央に「ドン!」と鎮座する様子が好きなのも大きな理由だ。どうしたって水冷には冷却力でかなわないのは分かっているが、巨大なヒートシンクにロマンを感じてしまうのだ。

 小型でも組み込めるパーツに制約が少ないとなれば、microATX環境が一番だろう。ゲーミング性能のチェックはもちろん、ファンの数や設置場所で各パーツの温度がどうなるか、大型の空冷CPUクーラーとCPU付属のクーラーで性能はどこまで違うのかなど冷却に関するテストも行なうことにする。

Step1 全面メッシュケースとRTX 4070 Tiで決まり

全面メッシュ仕様と冷却重視のmicroATXケース。33Lのコンパクトなサイズながら、最長33.8cmのビデオカードも設置可能と拡張性にも優れる
天板と底面にファンを追加できるので、下から上に抜けるエアフローを作れる。ビデオカードに直接風を当てられるのが今回導入の決定打に
前面に電源を置くというユニークな構造によって上下へのファン設置を実現。電源コネクタを背面に出すためのケーブルが付属している

 小型で高冷却ということなら、まずは条件を満たせるPCケース選びを真っ先にするべきだろう。コンパクトなmicroATXで大型のビデオカードと空冷のCPUクーラーが搭載でき、エアフローの強化もしやすいとなかなかのよくばりぶりだが、完全に合致するのがASUSTeKのPrime AP201だった。電源を前面に設置するというユニークな構造によって、底面にファンを設置して、ビデオカードに直接風を当てるという筆者の理想を実現可能。天板にもファンを追加できるので、排気も強化できる。そもそも全面メッシュで冷却重視なことなどなど、今回のプランに都合がよすぎるだろうと思ったほど。シンプルでスマートなデザインもナイスだ。

両側面、天板、前面のパネルともツールレスで簡単に外すことができるので、パーツの組み込み作業をやりやすいのもポイント
このカードは厚さ3.25スロット分。底面にファンを設置した状態でも約2.3cmスペースに空きがあるので安心だ
カード長は30.5cmなので、前面に設置する電源とのスペースにもまだ余裕がある。取り付けに苦労することはない

 ビデオカードは、25万円という予算から考えると12万円前後で購入できるGeForce RTX 4070 Ti搭載カードが最上位で最適解。WQHD解像度までなら多くのゲームで高いフレームレートを出せるのはもちろん、DLSSなどアップスケーラを活用すれば、4K解像度でもゲームを楽しめるのも魅力的だ。今回は冷却力を重視しているため、3連ファンで3.25スロット厚相当の大型クーラーを搭載し、ミリタリーグレードのコンデンサを採用するなど耐久性を重視したASUSTeKの「TUF」シリーズの製品をチョイスした。

ゲーミングならGPUに予算投入
25万円という予算から逆算するとRTX 4070 Tiが選べる最上位のGPUと言える。厚みや色の統一感からASUSTeKのTUF Gamingをチョイス

Step2 人気Core i5を大型クーラーで使う

CPUは3万円程度でなるべくコア数が多いもの!となれば、Pコア6基とEコア4基で合計10コア16スレッドのCore i5-13400Fしかないだろう
バックプレートをスペーサでしっかり固定できるので、マザーボードをPCケースに入れた状態でもリテンションキットを組みやすいのがナイス
デュアルファン搭載と冷却重視のハイエンドCPUクーラーながら低価格で今回のプランにピッタリ。大型だが高さは15.4cmと抑えめ
今回のPCケースは高さ17cmまでのCPUクーラーに対応なので、FUMA3は問題なく組み込める。ケース内での存在感がステキだ

 GeForce RTX 4070 Tiの実力を引き出すためには、CPU性能もそれなりに必要だ。予算の割り振り的に3万円程度が限界となった場合、筆頭候補は10コアCPUとしては最安値クラス「Core i5-13400F」だろう。ゲーミングPC用としては十分な性能があり、末尾が「F」なので内蔵GPUを持っていないが、今回はビデオカードがあるので問題なし。そしてCPUクーラーには、サイズの人気ハイエンド空冷クーラー「風魔」シリーズから久しぶりに登場した新モデル「FUMA3」を選択。デュアルファンの大型クーラーながら価格が手頃なのが決め手だ。天面がブラックと今回選択したパーツのカラーリングとマッチする
のもよいところ。

最新世代のチップセットを使いたい、でも予算は抑えめという条件からB760で最安値クラスの本製品を選択。低価格でもちゃんとM.2スロットにヒートシンクを搭載しているのがうれしい。ドスパラ専売モデルであることに注意

 マザーボードは、Core i5-13400Fが確実に動作する最新世代のチップセット搭載モデルから選びたい。第13世代CoreのCPUはZ690/B660など前世代のチップセットでも動作するが、UEFIの対応が必要になる。マザーボードのUEFIバージョンが古い場合、認識しない可能性があり、サポート窓口に持ち込むなどの手間が発生する。また、上位CPUではないので強力な電源回路は不要と判断し、B760チップセット搭載のmicroATXマザーボードで最安値クラスのMSI「PRO B760M-P DDR4」を選択した。非常にシンプルな製品だが、ビデオカードを搭載するPCI Expressx16スロットが強化されていたり、M.2スロット1基にヒートシンクが付くなど、安いだけの作りではないのもポイントだ。Wi-FiやBluetoothの対応が欲しい場合は、5,000円ほどアップするがMSIの「PRO B760M-A WIFI DDR4」を選ぶのもよいだろう。

付属クーラーと冷却力を比べてみる
予算を抑えるならCore i5-13400Fに付属するクーラーを利用するのも手だが、大型クーラーとは冷却力に大きな差がある

Step3 ファン4基追加でCPUもGPUも強力冷却

手頃な価格で高い冷却力と静音性を合わせ持つ12cm角のケースファンとして人気。今回のプランでは4基追加する
天板には排気方向で2基装着した。ちなみに、天板には36cmクラスまでの簡易水冷クーラーの装着も可能だ
底面には吸気方向で2基設置した。大きな熱源になるビデオカードをがっつり冷やそうという考えだ。吸気強化で内部も冷えるはずだ

 今回のプランで重要なポイントになる冷却力の強化を考えていく。PCケースは標準だと背面に12cm角ファンが1基だけだが、底面に12cm角ファンを2基、天板には12cm角ファンを3基または14cm角ファンを2基追加が可能だ。なお、天板には最大36cmクラスの簡易水冷クーラーも取り付けられる。そこで今回は、1,300円前後の手頃な価格で高い冷却力を持つことから人気となっているARCTICの「P12 Max」を4基導入し、底面と天板に2基ずつ追加することにした。底面から強力に吸気した風をビデオカードにバンバン当てて冷やし、熱を持った風を天板からガンガン排気しようというわけだ。

ファンの分岐ケーブルを忘れずに用意
今回のマザーボードにはファンの電源コネクタが2基しかない。そのため、底面用の2分岐、天板と背面ファン用に3分岐のファン分岐ケーブルが必要になる

 冷却の効果を確かめるべく、天板と底面の両方に追加、天板だけに追加、底面だけに追加、追加なしの4パターンを試し、CPU、GPU、VRMの温度を測定してみた。天板と底面の両方に追加が一番冷え、とくにVRMの温度は大きく下がった。内部温度を下げるのに貢献できていると判断してよいだろう。次点で冷えたのが底面に2基追加した場合。追加ファンを2基だけにしたい場合は、底面設置がよいだろう。ただし、底面は振動が発生しやすいためか、天板設置時よりも動作音は大きめになる点は覚えておきたい。

完成!

 SSDは複数のゲームをインストールできるように2TBモデルをチョイス。予算に余裕があるなら4TBモデルを選ぶのもよいだろう。ゲームはとにかく大容量化が進んでいるので、SSDは速度よりも容量優先で選ぶことをオススメしたい。電源はRTX 4070 Tiとの接続性を考え、Corsairの定番「RM」シリーズのATX 3.0対応版となる「RM850e ATX 3.0」を選んだ。

 仕上がりは非常に満足だ。多数のファンがぎっしりと入った内部は力強さがあり、ロマンが感じられる。ブラックで統一されているのも渋くてナイスだ。各パーツの冷却強化にも成功しており、ミッションをみごとにクリアしているのではないだろうか。

最終的なパーツ構成

人気ゲームも4Kで楽しめる仕上がり

 最後に完成したPCのゲーミング性能をチェックしておこう。サイバーパンク2077は、レイトレーシングを有効にすると描画負荷が非常に高いゲームだが、RTX 40シリーズだけで使えるDLSS 3に対応しているため、4Kでも快適にプレイできるフレームレートを出せている。また、DLSSに対応していない人気ロボットアクションの「ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON」でも、4Kかつ最高画質でも十分プレイできるフレームレートを出しており、小型ながらパワフルなゲーミングPCに仕上がっていると言ってよいだろう。ファンの数が多いので、動作音が気になる場合は、UEFIのファンコントロールでCPU温度が60℃以下のときのファン回転数を少し落とすと低負荷時はかなり静かになる。こういうチューニングも楽しいものだ。

低負荷時の回転数を抑える
ケースファンの動作音が気になるならUEFIのHardware MonitorまたはWindowsのMSI独自ツール「MSI Center」のSmart Fan ModeでCPU温度が60℃以下のファン回転数を少し下げよう

予算を抑えるならCPUとマザーを見直そう

4コア8スレッドとCore i5-13400Fよりもコア数はガクッと減ってしまうが、ビデオカードが同じならゲーミング性能への影響はそれほど大きくない
ほぼ同価格でWi-Fi搭載を選べる。前世代のB660チップセット搭載マザーボードなら、1,000円程度安いものや、今回と同価格帯でWi-Fi搭載モデルもあるなど選択肢が広がる

 ゲーミングPCである以上、ビデオカードをRTX 4070 Tiから変えることは避けたいところ。そうなると予算を削減できるポイントは限られてくる。大きく減らせるのはCPUだ。4コア8スレッドのCore i3-13100Fにすれば、14,000円ほど安くできる。ただし、10コアから4コアに大きく減るので、フルHD解像度で軽めのゲームなど、ビデオカードの性能が十分足りているシーンではCPUパワー不足でフレームレートが低下する可能性はある。それでもビデオカード変更よりも、ずっと影響は小さい。

 また、マザーボードを前世代のB660チップセット搭載のモデルを選ぶことでも若干予算を減らせる。その上、同価格帯でWi-Fi搭載などより高機能なものを選べるのがポイントだ。UEFIが第13世代Core対応になっているか確認は必須だが、B660にすることで機能的な選択肢を広げることができる。

編集部から

ファンを11基備えた冷却モンスター!

 計5基のケースファンをはじめ、CPUクーラー、ビデオカード、電源まで合わせるとmicroATXケース内になんとファン11基!?ファンユーティリティで回転数設定を詰めるのが快適度アップのポイントですね。

【検証環境】
CPUIntel Core i5-13400F(10コア16スレッド)
マザーボードMSI PRO B760M-P DDR4(Intel B760)
メモリMicron Crucial DDR4 Pro CP2K16G4DFRA32A(PC4-25600 DDR4 SDRAM 16GB×2)
ビデオカードASUSTeK TUF Gaming GeForce RTX 4070 Ti 12GB GDDR6X(NVIDIA GeForce RTX 4070 Ti)
SSDMicron Crucial P3 Plus CT2000P3PSSD8JP[M.2(PCI Express 4.0x4)、2TB]
OSWindows 11 Pro
CPU温度CINEBENCH 2024を10分間実行時の値
各部の温度推移サイバーパンク2077を10分間実行時の値

[TEXT:芹澤正芳]

最終号「DOS/V POWER REPORT 2024年冬号」は絶賛発売中!

 今回は、DOS/V POWER REPORT「2023年秋号」の記事をまるごと掲載しています。

 なお、33年の長きにわたり刊行を続けてきたDOS/V POWER REPORTは、現在発売中の「2024年冬号」が最終号となります。年末恒例の「PCパーツ100選 2024」や「自作PC史&歴代パーツ名鑑」など、内容盛り沢山!是非ご覧ください!