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自作のプロの答えはこれだ!MISSION5「ハイエンドCPU×コンパクト」【今、本当に欲しい自作PC⑦】

DOS/V POWER REPORT 2023年秋号の記事を丸ごと掲載!

クリエイティブワークで使えるCore i9搭載コンパクトPCができるまで

 動画編集や映像制作などで使うクリエイター用PCというのは高性能PCに分類されるものが多い。高性能PCと言えば大型のタワーケースにハイエンドパーツというイメージが浮かぶが、今回はこれをコンパクトにまとめるというのがお題。実用に堪えるクリエイター用PCを小型筐体で実現するのは非常に挑戦的だ。もちろん、クリエイティブワーク用のアプリをただ動かすだけならミドルレンジCPU+内蔵GPU機能でも問題ない。今回はそこに妥協せず、実際にクリエイティブワークで高いパフォーマンスが出せ、快適に業務ができるかという生産性も重視する。ならばもちろんメモリは潤沢に搭載したいし、ストレージは大容量、ゲームはせずともビデオカードによるアクセラレーションは利用したい。机上に置くなら静かさも重要だ。

クリエイター用PCではマルチスレッド性能が求められる。思い切って24コア32スレッドのCore i9-13900を搭載してみよう

 最近は小型PC用のパーツも豊富に存在する。これらを厳選して組み立てていけば、クリエイティブワークで高性能を発揮するPCを、机の上にポン置きできるサイズで実現できるはずだ。そしてその性能の要になるのはCPU。存分に性能を発揮できるようこれをハイエンドのCore i9-13900に決め打ちし、それを軸にPCの構成をビルドしていった。

Step1 Mini-ITXだけじゃないコンパクトPCの選択肢

 昨今は冷却性能を強化したMini-ITXケースも豊富で多彩だ。しかしベクトルとしてはゲーミングPC向けで、それら大型ビデオカードを搭載可能なMini-ITXケースは実物を見るとかなり大きい。それに動画編集や映像制作などで使うPCの場合、3D性能よりGPUコンピューティングやハードウェアエンコーダなどの機能のほうが重要で、巨大なビデオカードに固執する必要はあまりない。

Mini-ITX向けゲーミングケースは見た目もよく魅力的。ただし大型ビデオカード搭載前提のため大きく圧迫感を感じる(左はCorsair 2000D Airflow)

 一方、小型PCにはベアボーンという選択肢もある。選択肢の幅は狭まるが、独自設計ゆえのコンパクトさやコストパフォーマンスの高さが人気で、ビデオカードを搭載できるものもある。カード長に制限はあるものの、コンパクトなビデオカードを組み合わせればよいのだ。とくにASRockのDeskMeetシリーズはサイズ感の「ちょうどよさ」が今回のミッションにぴったりで、最大200mmまでのビデオカードに対応している。クリエイター用PCのベースとすることが可能だ。

第12世代Coreの頃の発売だが現在のBIOSは第13世代Coreもサポート。同社のDeskMiniシリーズにはB760モデルが登場しているが、ビデオカードに非対応のため今回はこちらに。500W電源を内蔵

Step2 ビデオカードは何を使う?

 昨今の映像制作向けアプリケーションではGPUで並列処理したりGPUに内蔵されたハードウェアエンコーダなどを利用したりする。CPUに内蔵されたGPUでも可能だが、ビデオカードを搭載することで処理速度がより向上する。DeskMeetでは長さ20cmまでのビデオカードを搭載可能。主にシングル~デュアルファンのモデルとなるので選択肢が限られるものの、現行世代で10製品程度の候補を絞り込んだ。GPUの種類で言えば、GeForce RTX 4060または4060 Ti。旧世代まで拡大すればもう少し選択肢が広がる。

 価格とコンパクトさを考えればGTX 1650辺りだが、さすがにGPUの世代が古く、3D性能だけでなく機能の差が大きい。用途を考えるとゲーミング性能は重要ではないので上位の4060 Tiを採用する意味もあまりない。ここでは4060にしておくのが無難だろう。

9cmファンを1基搭載し全長163mmを実現。高さも2スロット厚に抑えられておりサイズ的にDeskMeetにぴったりだ。補助電源端子は8ピン×1基で消費電力は115W(推奨電源は500W)と、電力面でも不安がない

Step3 意外と重要なメモリ選び 16GB? 32GB?

 クリエイター向けPCでは大容量メモリを搭載したい。グラフは高画素のRAWデータを50枚、Photoshopで開いた際のメモリの使用量だ。64GB環境のグラフのとおり、50枚開いた際のメモリ消費量は約28.5GB。16GB環境では物理メモリだけでは足らずストレージ上の仮想メモリを使用している。もちろん動作はするが処理は遅くなる。また、32GB環境ではまだ空き容量があるように見えるが、実は仮想メモリを一部使用している。昨今、メモリの標準搭載量が16GB×2枚に移行しつつあるが、それはあくまで一般用途で、クリエイター用PCなら余裕を持って64GB以上を搭載したい。

かつては高価だった32GB×2枚のメモリキットも、現在は2万円程度。GB単価で見ても16GB×2枚キットとそこまで変わらない

Step4 ストレージは重要ポイント

 映像を扱う場合はとくにストレージが重要になる。4K、8Kといった映像データを扱うには十分な容量と、作業の快適さに影響する十分な速度が必要だ。たとえば、複数のソースを同時にプレビューしながら編集を行なう際は、ソースを保存したストレージは速ければ速いほどよく、操作性やプレビューの滑らかさに差が生ずる。そして、アクセスの集中を避けたり、データ保護の観点からすると、映像制作用のPCでは用途別に複数台のSSDで運用するのが適していると言える。

大容量のSSDという点では4TBが現実的な選択肢になるだろう。本製品はPCI Express 4.0 x4接続の上限に近い7GB/sクラスの高速SSDだ

 DeskMeet B660はM.2スロットを2基搭載している。そのため、OS&アプリケーション用に1基、データ&キャッシュ用にもう1基といった複数台構成がとれる。よく検討したいのは、どちらのSSDをどちらのスロットに搭載するかだ。2基のスロットでも、1基はCPU直結、もう1基はチップセット経由となり、インターフェースはともにPCI Express 4.0 x4でもチップセットを介す側にはオーバーヘッドがある。今回の場合、とくに高速を求められるのがデータ&キャッシュ用途だ。高速のCPU直結スロットにはOS&アプリケーション用SSDを用いるのが一般的だが、今回はあえてデータ&キャッシュ用SSDをここ
に挿している。

 なお、DeskMeetはSerial ATA 3.0ポートを2基備えている。3.5インチHDDは1基、2.5インチSSD/HDDは2基まで搭載可能だが、メンテナンスのしやすさを考えると、外付けHDDやNASを活用したほうがスマートだろ
う。

Step5 コンパクトPCでは気を付けたい冷却まわり

まずはCPUクーラーを強化
一般的には背が低いリテールクーラーだが、Core i9-13900付属のものはこのとおり背が高くDeskMeetには搭載できなかった
最大で高さ54mmまでのCPUクーラーを搭載可能だが、高さ45mmのものでもCPUファンと電源とのスペースはこのとおり狭い

 小型の筐体ではいかに熱を制すかが重要だ。DeskMeetはCPUソケット上に電源を置くレイアウトで、CPUクーラーの高さが最大54mmというキツい制限が付く。そしてCPUソケット周辺のVRM回路部品との干渉も、ATX/microATXマザーボードと比べてシビアなので、CPUクーラーを選ぶ際はクーラー互換性リストを確認の上、サポートされているものを組み合わせるのがベストだ。

そのほかのパーツの冷却状況を確認
DeskMeetはビデオカードを上部に搭載するレイアウト。天板部には通気口があるためフレッシュな外気を直接取り込み冷却できる
一見すると一般的なATX電源だが、排気ではなく吸気として利用されている。これが直下のCPUクーラーにエアフローを供給する仕組だ

 DeskMeetにはケースファンが付属しない。唯一標準搭載されているのが電源のファンだ。一般的な電源ファンは排気ファンとして機能するが、DeskMeet付属の電源ファンは外気を取り込む吸気ファン。直下のCPUクーラーにエアフローを供給できるようアレンジされている。また、ビデオカードは搭載位置を上部とし、すぐ上の通気口からエアフローを取り込める。全体で見ると3基のファンにより正圧で運用される。

別途SSDヒートシンクを装着
センチュリーのCAHPS-M2を別途装着。マザーボード表面のスロット上には空間があるので、そこそこ高さのあるヒートシンクも装着可能だ
マザーボード裏面のM.2スロット。すぐ上にカバーパネルが来るため、今回は薄型のアイネックスHM-24を装着した

 注意したいのはM.2スロット。DeskMeetにはSSD用ヒートシンクが付属しないので、発熱の大きい高性能SSDを搭載する場合は冷却を補助する必要がある。今回は市販のM.2ヒートシンクを装着した。マザーボードの表面のM.2スロットは問題ない。しかし裏面のスロットについては高さのあるヒートシンクは装着できない場合が出るので要注意だ。

高さ45mmで9cm角ファンを採用、6mm径ヒートパイプを3本用いたCPUクーラー。DeskMeet B660の互換性リストにはまだ掲載されていないが問題なく搭載できた

完成!

 DeskMeetを選んでよかったのがメンテナンス性のよさだ。通常なら筐体を開けるだけでもネジ数本。前面インターフェースの配線なども必要なうえ、小型のケースではさまざまな作業の難易度がさらに増す。ところがDeskMeetはネジ1本外せばガバっと中身が引き出せるし、前面インターフェースは基板上に実装されていて配線不要だ。電源さえ外せば各パーツの組み込みもラク。一方、インターフェースの速度面は不満が出るかもしれない。USBは最大でも10Gbps止まりでLANは1000BASE-Tだ。ここが将来への懸念と言える。なお付属電源のスペックは出力500Wで80PLUS Bronzeというこのクラスとしては一般的なもの。これ以上は増設することも出来ないが、十分な出力でもある。

最終的なパーツ構成

ハイエンドの貫禄! Core i9-13900でエンコードが速い

 ここまで小さな筐体でCore i9-13900を搭載するのはチャレンジングだったが、DeskMeet B660は空冷CPUクーラーを組み合わせた場合、PBP 65W、MTP 129Wという控えめな設定が適用されることもあり、PCMark10のような通常のワークロードであればサーマルスロットリングは発生しなかった。

 24コア32スレッドという仕様は、とくにソフトウェアエンコードで恩恵が得られる。クリエイターにも人気のDaVinci Resolve、Premiere Proという二つの動画編集ソフトでエンコード時間を計測してみたが、Core i7-13700と比べても明確に高速で出力できることを確認できた。筐体などがボトルネックになってはいないということだ。これだけコンパクトで高速なクリエイター用PCが自作できたことは有意義な結果と言えるだろう。

カスタマイズでさらなるクリエイティビティを

128GBの大容量を実現できるが、32GBのメモリは2ランクなので4本挿すとCPUの仕様により製品本来よりも低いクロックで認識されてしまった

 さらに高性能化できる余地があるかどうかも検討してみた。まず4本あるメモリスロットをすべて埋めれば最大で128GBという大容量環境が実現可能だ。ただしそのまま挿すだけではDDR4-2133動作になってしまう。これは使用した32GBメモリがデュアルランクであるため、4本挿すと今回の環境では製品本来よりも低いクロックに落とされてしまうからだ。保証外にはなるが、メモリ電圧を引き上げるなど設定を行なえばメモリモジュール定格のクロックで動作させることができるが、オーバークロック動作であることも覚えておこう。

本製品は1ランク上の4060 Tiと16GBのビデオメモリを搭載。全長199mmで、CPUクーラーや電源を一旦取り外すことが必要だが、DeskMeet B660に搭載可能

 また、3Dモデリングや生成AIのためにビデオカードを強化したいという需要もあるだろう。筆者が確認した範囲では、GeForce RTX 4060 Ti 16GBモデルで長さ199mmのカードを搭載できた。AI用途も視野に入れている方はチャレンジしてほしい。

編集部から

ベアボーンという着眼点。コンパクトさは正義!

 小さなPCと言えば当然のようにMini-ITXを使ったPCが来ると思っていたが、ビデオカードを搭載可能なベアボーンを使うことで想像以上にコンパクトに仕上がっています。映像制作や動画編集といったクリエイティブワークに使うPCとして不満のない出来でしょう。

【検証環境】
CPUIntel Core i9-13900(24コア32スレッド)
ベアボーンASRock DeskMeet B660(Intel B660)
メモリMicron Crucial CT2K32G4DFD832A(PC4-25600 DDR4 SDRAM 32GB×2)
システムSSDWestern Digital WD_Black SN770 NVMe WDS100T3X0E[M.2(PCI Expr ess 4.0 x4)、1TB]
データSSDNextorage NE1N4TB/GHNEL[M.2(PCI Express 4.0 x4)、4TB]
OSWindows 11 Pro(22H2)
各部の温度HWiNFO64を使用。CPUはCPUパッケージ、GPUはGPU温度の値、SSDはディスク温度

[TEXT:石川ひさよし]

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 今回は、DOS/V POWER REPORT「2023年秋号」の記事をまるごと掲載しています。

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