あなたのPC大改造計画

「勉強部屋でひっそり」だったPCをゲーミング&静音仕様に大改造!!(前編)

text by 加藤勝明

本企画8回目の依頼者Mさん。今は音楽や動画を楽しむだけだが、今後ゲームにも挑戦してみたいという。音楽は特にPerfume、中でもあ~ちゃんがイイ! とのことだ

 PCの問題点を解決したくても最新パーツの知識がない、あるいはアップグレードを完遂できる自信がない! というAKIBA PC Hotline! 読者の悩みを編集部とライター陣、およびASUSのバックアップで解決する読者参加型企画「あなたのPC大改造計画」は今回で8回目を迎えた(7回目までの模様はこちら)。

あなたのPC大改造計画:記事一覧
第1回:「3万円で組んだスタイリッシュPC」は
「快適RAW現像+最新ゲームPC」になるか?
[前編後編]
第2回:「奥さんのストレス軽減用PC」は
ちゃんと安定して動くのか?
[前編後編]
第3回:TITAN XのSLIで最強ゲームPCに!
ただでさえハイスペックなPCを
「フル水冷」のモンスターマシンへ強化
[前編後編道のり編]
第4回:Skylake + Win 10なPCはこう作る!
7万円で強化する「多趣味人のためのPC」
[前編後編]
第5回:6年前のCore 2 Duoマシンを今風な快速マシンに大改造
[前編後編]
第6回:「マインクラフトの実況PC」を快適に!
現役高校生の悲願は3万円+αで達成できるか?
[前編後編]
第7回:「ドラクエXをAPUで快適に!
ゲーム機を超える快適さを目指せ!!
[前編後編]
第8回:勉強部屋でひっそりと使っていたPCを
ゲーミング&静音仕様に大改造!!

[前編後編]
第9回:女子高放送部に快適な動画編集用PCを!
快適環境で「目指せ全国!」
[前編後編]

 8回目の応募者は千葉県在住のMさん。

 MさんもかつてはCeleron 300AのOC等も楽しんできた歴戦の自作erだったという。今使っているPCは2011年頃組んだものだが、その後起動ドライブのSSD化等をしても基本性能の低さ等が気になっていた……というのが応募の理由だ。

 Celeron 300Aを知る自作erともなれば、それなりにパーツ選定の基準も厳しいはず。いつもとは違った緊張感でMさん宅にお邪魔させていただいた。

良い物を長く使うにも限界が出てきた

Mさんのストレス解消の場もであるPCデスク周辺。お子さんの勉強用スペースの奥にコンパクトにまとまっていた

 Mさんが最後にPCを組んだのは2011年。昔Celeron 300Aを手に入れてOCして遊んだとか、ナナオ(現EIZOブランド)の液晶が理想だったが買えなくて他メーカーの普及品にしたとか、懐かしい話も飛び出したが、基本的に低予算のパーツを集めて組むことに楽しみを見いだしていたようだ。

 MさんのPCの用途は音楽や動画の観賞、あるいはCD資産のデジタル化がメインとのこと。1回の使用時間が1時間程度と短いのは、お子さんの勉強スペースがすぐ後ろにあるためだと言う。PCを長く使うのは土日中心にするなど工夫をされているが、一緒になったとしても音が漏れないよう密閉型ヘッドフォンをするなど、色々と気を遣っているのが見受けられた。

PC本体のすぐ横とディスプレイ横にそれぞれUSB接続の外付けHDDを配置。本体にはSSDのみ入っているが、この理由は後述
ヘッドフォンはオーディオテクニカ製の密閉型『ATH-A700X』で、後ろに誰かいても音漏れがないように配慮している

 だが最近、CPUのパワー不足を感じるようになったという。

 特に今差し迫った問題はないらしいが、YouTubeで超高画質動画を観賞するとコマ落ちしそうになってきた(これはMさんの回線事情も多分に影響していそうだが)というのが応募に踏み切った理由だ。

 実際にPCのスペックを確認してみると、CPUは内蔵GPU非搭載型のAthlon II X4 631、ビデオカードはRadeon HD 4850と、ビデオカードの方の世代がかなり古い(CPUは2011年、GPUは2008年)。

 Athlon II X4を使ったのもコストパフォーマンス追求の結果というが「4コア8スレッドのCPUってどんなものか使ってみたい」との希望も頂いた。パーツの世代を最新に合わせ、Core i7を中心に据えたシステムにグレードアップ、将来YouTubeで4K配信が当たり前になっても大丈夫なマシンにしたいというのがMさんの考えだ。

【今回のアップグレード対象PC】

■スペック
CPU:Athlon II X4 631(4C4T、2.6GHz)
マザー:GIGABYTE A75-D3H(AMD A75)
メモリ:DDR3-1333 16GB(4GB×4)
グラフィック:MSI R4850 2D1G-OC(Radeon HD 4850)
ストレージ:Kingmax SME35 Xvalue(SSD、128GB)
光学ドライブ:BD-ROM×1、DVDマルチ×1
電源:玄人志向 KRPW-L4-600W
PCケース:Zalman Z9(ATX)
OS:Windows 7 Home Premium 64bit版

■主な用途
・動画観賞(BD/DVD/YouTube)
・音楽鑑賞
・CD資産のデジタル化

旧構成のままでもエクスペリエンス・インデックスは平均約7.4ポイントと比較的高めだが、今回の改造でもっと上の世界を見てみたいという。Core i7を熱望するのもこれが理由のようだ
ケースの中を空けてみると、3.5インチのシャドウベイが完全に空っぽ。これはドライブ類を固定するためのゴム足を紛失してしまったから、とのこと。SSDは5インチベイに固定している
Socket FM1で最初のAthlonブランドである「Athlon II X4 631」は、APUベースの製品では非常に珍しい内蔵GPUを持たないタイプ
メモリはDDR3-1333の4枚挿しだった。使い回してもよいが、1333だと性能的に見劣りするし、将来メモリ事情が変わった時に対応しやすくするため、新PCではDDR4に移行しておきたい
ビデオカードはRadeon HD 4850のOC版。かつての大人気GPUの一つだが、さすがに今となってはもう古い。4KやH.265の再生支援のついたモダンなGPUに乗り換えることにしよう
よく見たらサウンドカード(SoundBlaster 5.1 VXあたり?)もあった。少しでもよい音質で聴こうとしたMさんの工夫だろう

 話は逸れるが、取材陣が感銘を受けたのがMさんのPCに接続されていたインプットデバイスのチョイスの渋さだ。

 キーボードはIBM「KB-8920」、マウスはロジクール「MX Revolution」、さらにマイクロソフトのトラックボール「Trackball Explorer」という組み合わせ。「スペック的に良いもの」は今ならもっと溢れているが、この3品は今でも立派に通用する逸品ばかり。どうやらMさんは良いものを長く使う傾向にあるようだ。今回の改造もこの方針を最大限尊重したい。

IBMロゴを見た瞬間オッと声が出た「KB-8920」。メンブレン式だが鉄板が入っており、がっしりとした作り。メカニカルや静電容量式とは違う、軽いタッチと独特のクリック感が心地よいキーボードだ。
最近トラックボールというと親指で小玉を操作するタイプがメジャーだが「Trackball Explorer」は大玉を人差し指~薬指で操作するタイプ。残念ながら後継機に恵まれなかった製品だが、使いやすさは今でも一級品だ。

興味はあるが飛び込めない

 現在のPCの使い道は音楽や動画観賞に絞られているが、Mさんはゲームにも挑戦してみたいと語る。日ごろからGAME Watch等の情報サイトをチェックしているが、ハード面の弱さが気になって手が出せない……とのこと。最近のゲームは要求スペックが高いものが多いだけに、さぞハードルが高いと感じていたことだろう。

 FF14のベンチマーク等も動かしてもらったが、GPUの世代が古いせいか動きももっさり。最新のミドルレンジGPU程度に強化すればパワー不足は解消できるはずだ。また、「オススメのゲームも教えて欲しい」とのことだった。

 普通なら「World of Tanks」といった基本プレイ無料のゲームを奨めるところだが、Mさんの通信環境がADSL+室内の通信は無線であるためオンライン対戦必須の今どきのゲームはオススメしにくい。オフラインがメインでも遊べ、サクッと気楽に遊べるゲームは何か……Civilizationシリーズ等はどうだろうか……。

FF14ベンチを回してもらったが、高品質設定で2400ポイント弱。画面解像度が1,920×1,200とやや高めなせいもあるが、どうせPCでゲームするなら最高画質で6000ポイント以上出せるスペックにしたいところ
「CrystalDiskMark」のアイコンもあったのでSSDの速度をチェックしてもらったが、リードは十分速いがライトが遅い。コスパ重視のSSDではありがちな性能だ
何より不安なのは起動ドライブの空き容量が少ないこと。どんなゲームで遊ぶのか不明だが、ゲームを視野に入れている以上、SSDはもう少し容量を増やしておきたい

もうひとつの問題点

 しかしMさんのPC環境には、処理性能以外の問題点もあるという。前述の通りMさんのPCデスクのすぐ後ろには、子供の勉強用スペースが控えている。ヘッドフォン常用で音は消せても、PC本体のファンノイズは常時聞こえてくる。

[加藤]後ろでお子さんが勉強している時にPCを動かしていると、文句が出てきたりしません?

[Mさん]子供が勉強している後ろでPCを使う状況はないですが、子供から「ファンの音が……」と言われたこともあります。重い処理はほとんどやりませんが、可能ならもっと静かにさせたいですね。

 音楽再生程度ではファンはそれほど回転しないが、CPUとGPUがパワー不足気味なまま放置すれば、今後動画再生時にウルサイと文句が飛んでくる可能性はある。予算も限られているため完全ファンレス動作のパーツ構成は難しいが、静音性の高いパーツを集める、あるいはケースファンを入れ替える等で対応すべきだろう。

【今回の方針】

【目標】
■全体的にパワー不足のマシンをCore i7を使って今風にパワーアップ
■将来YouTubeがもっと高画質化してもコマ落ちの不安のないようにする
■PCゲームにも挑戦できるような描画性能を確保
■そばに誰かがいても気になりにくいよう、静音性も十分確保する
■改造予算は70,000円

▼CPU&メモリ
今回はMさんの“憧れ”であるCore i7を使用する。旧構成のマザーとは互換性がないため、第6世代Coreに乗り換えてしまうのが上策。OCは予算的に厳しいうえに、今のお手軽OCだとCeleron 300A時代ほどの劇的な伸びは得られないため、Kなしモデルで十分であろう。

またメモリは従来のDDR3メモリを使い回すことも考慮したが、ヒアリングを通じてPCのハード更新頻度は高くないと思われたため、今後を見越してDDR4メモリに乗り換えて頂くことにした。

▼マザー
CPUを最新にするためにマザーも張り替えることになるが、現在の用途が音楽や動画観賞がメインであること、さらに静音性を強化したいとのことなので、こうした要素の強いマザーを選択したい。マザーの音質や静音性は、はっきりした基準はなく質もピンキリだが、最近メインストリームで出回っているゲーミングマザーが適切なチョイスだろう。

▼グラフィック
Radeon HD 4850は非常に人気の高かったGPUだったが、今どきのゲームに挑戦するならビデオカードはもっと今風のものに交換すべきだろう。準ファンレスモデルにすれば懸案だった静音性もバッチリ解決できる。

ただゲームも軽く遊ぶことが前提であるため、あまり強力なものを組み込んでも無駄になる可能性もある。ミドルレンジでコストパフォーマンスの高めのものを試して頂き、道を踏み外したらもっと強力なものにアップグレードして頂く、というのが正しい導き方と感じた。

▼ストレージ
Mさんが増設したSSDをそのまま使ってもよいが、残容量が40GBを下回っている。このまま使うなら問題はなさそうだが、そのうちPCゲームを導入したいというMさんの希望を汲み取れば、SSDはもう少し容量の大きいものに交換すべきだ。

また別の視点としてMさんが導入したSSDは書き込みが(今となっては)非常に遅いタイプであるため、そこがボトルネックになる可能性も考えた。せっかく新調したシステムが、激安SSDがボトルネックとなって性能が出ない、では興醒めもよいところだ。

▼電源ユニット
最近のパーツは省電力化が進んでいるため、電源ユニットの使い回しに(昔ほど)気をもむ必要はない。実際旧構成の電源容量は600Wとスペック的には十分だ。

しかし、もうすぐ5年経過しようとしていること、ケース内部の状態から多量のホコリを吸い込んでいる可能性も多々あること、さらに変換効率の高いものに変更すれば静音化も期待できること等の観点から今どきの電源にチェンジすることに。80PLUS Goldあたりがよい目標となるだろう。

今回は時間の余裕もあまりない、ということでその場でネットで価格を調べ改造の基本方針を決定。筆者がつまらないミスをしなければ後編取材までスムースに到達できるはずだ。請うご期待!

 70,000円という予算でCore i7はかなり厳しいが、本連載では編集部とASUSのパーツ提供がある。これをフル活用して今後数年戦い抜けるようなマシンに仕上げたい。幸いPCケースは安価だが良いものを使っているし、光学ドライブも複数台組み込んであるため、これらは動かさず改造のベースとする。

 果たして改造してMさんを満足させられるPCはできるのか? 次回後編をお待ち頂きたい。

後編はこちら

【“大改造計画”イベントを秋葉原で開催します】

 当企画の内容をテーマにしたイベントを、12月19日(土)に秋葉原、ソフマップ 秋葉原 リユース総合館で実施します。

 セッションは13時からと15時からの2回で、13時の回は連載第6回「マインクラフト&動画実況PC」の内容を、15時の回は今回の「静音なゲーミングPC」の内容を解説、現在取材中の第9回のさわりを解説します。

 第6回の内容では、影MODを使ったハイエンドなマインクラフト環境や、動画実況を行うために必要な構成、考え方、今回の内容では静音な高スペックPCのポイントををライター加藤勝明氏が余すところなく解説します。興味のある方は、ぜひご来場ください。

[制作協力:ASUS]

(加藤 勝明)