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冷却重視型が市場を席巻 水冷や大型ビデオカードへの対応も進む【PCパーツ100選 PCケース編】

DOS/V POWER REPORT 2023年冬号の記事を丸ごと掲載!

ファンは大型化し、低価格モデルでも搭載数が増加

 ここ数年、CPUやビデオカードの高性能化と発熱の増大はとどまるところを知らない。しっかりと冷却できる環境を整えることで性能はさらに向上するという特性もあり、PCケースにも高い冷却性能が求められているのが現状である。

 こうしたことを踏まえて2022年発売のPCケースを眺めると、冷却性能を強化するためにケースファンを大型化し、搭載数を増やしているモデルが目立つ。2021年は14cm角以上のファンを複数搭載するモデルはそれほど多くなかったが、2022年は18cm角や20cm径という超大型ファンを、それも複数搭載するモデルが増えている。実際の検証結果でも、大型ファンを多数搭載するモデルは冷却性能に優れる傾向があった。パーツの性能を100%引き出したいユーザーにとっては、魅力的な選択肢になる。

14cmを超える巨大ファンを搭載するモデルが増加
HAF 500では、20cm径という非常に大きなファンを2基も搭載している。今回の検証でも高い冷却性能を示した
Torrent Compactも18cm角という大型ファンを前面に2基装備し、前面から背面に一直線に流れるエアフローを構築する

 またファン搭載数の増加は、とくに低価格モデルで目立っている。2021年まで、1万円台前半で購入できるモデルでは前面と背面に1基ずつ、という構成がほとんどだった。2022年はそうした価格帯のモデルでも、前面に3基、背面に1基といった構成が多く、自分でファンを追加する必要性は低下した。

 また、ほぼすべてのモデルでメッシュ構造の前面パネルや天板などを搭載するようになった。これは通気性を高めてケースファンの効果を上げるためのギミックであり、やはり冷却性能重視の傾向を反映した装備と言える。密閉型に近い静音性重視型やバランス型もわずかながら存在するが、こうしたモデルでも天板や前面パネルをメッシュ構造のパネルに変更できるようにしていることが多い。

前面の構造は冷却性能に影響する
View 300 MX Snowでは、前面パネルの構造を変更できる機能がある。比較してみると、メッシュ構造のパネルのほうが温度が低かった

ラジエータの対応サイズはさらに大きく、付けやすく

天板付近のスペースに注目
天板とマザーボード短辺の隙間が広いと、組み込み作業がしやすい。今回検証したPCケースの中では、Pop XLシリーズが約7cmとかなり広かった

 下の表は、今回検証を行なった注目度の高い8機種のラジエータ対応状況を整理したものだ。筐体がコンパクトなH5 Flowを除けば、どのモデルでも36cmクラス以上の大型ラジエータに対応する。前面だけではなく、天板や右側面などにも組み込めるモデルが増えており、配置の自由度も高くなった。

大型ラジエータの対応状況
製品名主な対応サイズと取り付け可能場所
Antec DP505 White36cmクラスまで(前面、天板)
Cooler Master HAF 50036cmクラスまで(前面、天板)
Fractal Design Pop XL Air RGB White TG Clear Tint36cmクラスまで(前面)
Fractal Design Torrent Compact Black TG Dark Tint36cmクラスまで(前面)
Lian Li LANCOOLⅢ RGB42cmクラスまで(前面)、36cmクラスまで(天板、電源ユニット上)
NZXT H5 Flow28cmクラスまで(前面)
Thermaltake View 300 MX SNOW CA-1P6-00M6WN-0036cmクラスまで(前面、天板、右側面)
ZALMAN Z10 Duo36cmクラスまで(前面、天板)
今回検証で取り上げた8モデルのラジエータ対応サイズをまとめた。36cmクラスの大型モデルを、さまざまな場所に取り付けられるようになってきていることが分かる

 また簡易水冷型CPUクーラーを利用する場合、ラジエータを装着する天板や前面のファンマウンタが着脱できるタイプだと取り付け作業がしやすい。PCケース内部で作業をしなくてもよいからだ。また天板に取り付けるつもりなら、マザーボード短辺との隙間にも注目したい。これが広いモデルだと、マザーボード上部の周辺がファンやラジエータで隠れないため、ケーブルを挿したり整理したりといった作業がしやすい。

ラジエータの組み込みでは、主に前面や天板のファンマウンタを利用する。そこでこれら部分を着脱可能にして、ラジエータやファンを簡単に組み込めるようにしているPCケースが増えている

ビデオカードの冷却や固定を強化するギミックも

 GeForce RTX 4090/4080といった最新のGPUを搭載するビデオカードは、いずれも大きく、重い。マザーボードのPCI Express x16スロットにもよい影響は与えないだろうし、作例を見ると先端部分が垂れ下がって歪んで見えるものも少なくない。

 しかし最近のPCケースの中にはそうしたことを防ぐために、ビデオカードの先端部分を支えるためのガイドやホルダーを装備するモデルも見かけるようになってきた。こうした機能を利用すれば、重量級のビデオカードも安心して利用できる。また前面ファンだけではなく、「ビデオカード周辺のエアフローを強化するためのファン」を搭載するモデルも登場している。

重量級のGPUクーラーで基板が歪むのを防ぐ、ビデオカード用のスタンドやホルダーを搭載するモデルが増えてきた
HAF 500ではビデオカードに近い場所にファンを設置し、冷却を強化している

ExtendedATXマザーボードへの対応が進むも注意が必要

 最近の一般ユーザー向けハイエンドマザーボードでは、ATX対応モデルよりも横幅の広いExtendedATX対応モデルが徐々に増えている。こうしたトレンドを反映して、PCケース側でもExtendedATX対応モデルが増えているのだが、実はちょっと注意しなければならないことがある。と言うのも、スペック欄に「ExtendedATX対応」と記述されていたとしても、ExtendedATXの規格上限である33cmいっぱいまで対応しているPCケースばかりではないからだ。

同じExtendedATX対応でも微妙に違う
製品名対応フォームファクター実際に対応する横幅
Antec DP505 WhiteExtendedATX33cm
Cooler Master HAF 500ExtendedATX33cm
Fractal Design Pop XL Air RGB White TG Clear TintExtendedATX28cm
Fractal Design Torrent Compact Black TG Dark TintExtendedATX27.4cm
Lian Li LANCOOLⅢ RGBExtendedATX28cm
NZXT H5 FlowExtendedATX27.2cm
Thermaltake View 300 MX SNOW CA-1P6-00M6WN-00ExtendedATX33cm
ZALMAN Z10 DuoATX24.4cm
検証した8モデルの対応フォームファクターと、実際に対応するマザーボードの横幅のサイズをまとめたものだ。同じExtendedATX対応モデルでも、対応サイズは微妙に異なる

 その辺の事情を、今回検証した8モデルで調べたのが上の表である。今回取り上げた中では、8モデル中7モデルがExtendedATX対応だ。しかし規格上限の33cmまで対応するモデルは、わずか3モデル。そのほかのモデルでは、そこまで幅の広いマザーボードは利用できないのだ。こうした制限は、スペック表には必ず記載されている。ExtendedATXフォームファクターでPCを作る場合は、こうした制限事項もよく確認しよう。

LANCOOLⅢでは、組み込むマザーボードに合わせてケーブルを引き込むカバーの位置を調整できる

小型ケースでも簡易水冷型CPUクーラーへの対応を強化

 microATX/Mini-ITX対応の小型PCケースの分野では、構造的な変化が徐々に進みつつあるようだ。2022年にとくに目立ったのは、ライザーケーブルを積極的に活用することでビデオカードの組み込み位置などを工夫し、大型のビデオカードや簡易水冷型CPUクーラーを組み込めるようにした小型ケースである。Mini-ITX対応PCケースではこうした傾向が顕著で、一般的なサイドフローの空冷型CPUクーラーの搭載はほぼ想定していない、「水冷特化型」とも呼ぶべきモデルが主流になりつつある。

小型PCケースの新しいスタイル
内部構造を工夫することで、大型の水冷ラジエータを天板や側面に組み込めるようにした小型ケースが増加中

 とはいえ、ミドルタワーケースの高さを抑えて小型化したミニタワータイプの小型PCケースもまだまだ現役だ。こうしたタイプの小型ケースは、内部構造がミドルタワーケースによく似て組み込みやすいため、ユーザーからは依然として高い支持を集めている。

スタンダードなミニタワースタイルを採用するTorrent Nanoのようなモデルもまだ多い

2022~2023年のトレンドを反映した8モデルを徹底検証!!

 下のグラフは、今まで紹介してきた2022年のトレンドを強く反映する注目の8台をピックアップし、実際にPCとして利用できるだけのパーツを組み込んでCPUとビデオカードの温度を計測したものだ。

 CPU温度がもっとも低いのは、LANCOOLⅢ RGBで68℃。69℃で二番手につけたのがHAF 500とTorrent Compactだ。GPU温度については、HAF 500とLANCOOLⅢ RGBが68℃でもっとも低く、Pop XL AirとTorrent Compactが70℃で続く。

 Pop XL Air以外は、いずれも14cm角以上の大型ファンを複数台搭載する強力な冷却重視型PCケースであり、Pop XL Airも12cm角ファンを4基も搭載している。ファンの口径や搭載数が、冷却性能に大きく影響することがよく分かる。

 こうした冷却性能の高さと、最新トレンドをいち早くサポートする先進性を考えて、今回はHAF 500とLANCOOLⅢ RGBをゴールドレコメンドとしたい。また、二番手グループながら一歩抜きん出た冷却性能を示したPop XL AirとTorrent Compactを、シルバーレコメンドとする。

本誌&AKIBA PC Hotline! 読者はコレが気になった!!

ExtendedATX&ATX部門の1位には少々驚きを隠せなかったが、このモデルに限らずオープンフレームケースには注目が集まっている。microATX&Mini-ITX部門ではスタンダードなミニタワーモデルが軒並みランクインしており、水冷特化型モデルの認知度はまだまだ低いようだ。

ExtendedATX&ATX Best5
順位製品名投票数
1位アユート ATXオープンフレーム・ホワイトエディション改164
2位NZXT H5シリーズ142
3位Fractal Design Torrent Compactシリーズ141
4位NZXT H7シリーズ127
5位Lian Li O11 Dynamic EVO120

メンテナンス性のよさが評価されたか、オープンフレームタイプが1位。スタイリッシュなデザインに定評があるNZXTのH5シリーズやH7シリーズも存在感を示した

microATX&Mini-ITX Best 5
順位製品名投票数
1位Fractal Design Defi ne 7 Miniシリーズ162
2位Fractal Design Torrent Nanoシリーズ115
3位NZXT H1 Version 2103
4位Fractal Design Defi ne 7 Nanoシリーズ96
5位ASUSTeK AP20185

1位のDefine 7 Miniと2位のTorrent Nanoも含め、スタンダードなミニタワーケースが人気を集めた。組みやすさとその充実した装備が評価されたのだろう

【検証環境】
CPUAMD Ryzen 9 5900X(12コア24スレッド)
マザーボードASUSTeK ROG STRIX B550-F GAMING(AMD B550)
メモリCFD販売 W4U3200CM-8G(PC4-25600 DDR4 SDRAM 8GB×2)
ビデオカードGIGA-BYTE GeForce RTX 3070 EAGLE OC 8G(NVIDIA GeForce RTX 3070)
SSDWestern Digital WD Black SN750 NVMe WDS500G3X0C[M.2(PCI Express 3.0 x4)、500GB]
電源ユニットCorsair RM750x 2021(850W、80PLUS Gold)
CPUクーラーサイズ MUGEN5(サイドフロー、12cm角)
室温21.2℃
アイドル時OS起動10分後の値
高負荷時OCCT 11.0.18のPOWER SUPPLYテストを10分間実行したときの最大値
Fan Xpert 4標準
温度使用したソフトはHWMonitor1.48で、CPUはTemperaturesのPackage、GPUはTemperaturesのGPUの値

[TEXT:竹内亮介]

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