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世代交代で熱と性能のバランス競争は激化、2022年ベストCPUはどれだ!?【PCパーツ100選 CPU編】

DOS/V POWER REPORT 2023年冬号の記事を丸ごと掲載!

Raptor Lakeは製造プロセスは変えずに性能を底上げ

 AMDの「Ryzen 7000シリーズ」の直後に投入された“Raptor Lake”こと第13世代Coreプロセッサは、前世代で採用されたIntel 7(10nmプロセス)やLGA1700を継承しつつ、さまざまな改良を重ねることで高性能化に成功した。

第13世代CoreはLGA1700を継承。物理的形状も第12世代と共通であるためソケット装着時の“CPUの反り”問題もそのまま継承している

 特筆すべき変更点はEコアクラスタ(Eコア4基分)を全モデルで倍増し、現状もっとも下位のCore i5-13600Kでも8基のEコアを搭載したことだ。これにより最上位のCore i9-13900Kでは論理コア数が32スレッドとなり、ライバルであるRyzen 9 7950Xに肩を並べた。

第13世代CoreのPコアは“Raptor Cove”なるアーキテクチャに進化。半導体の構造を見直すことによりV-Fカーブが大きく改善された

 さらにトランジスタの構造を改良することでV-Fカーブ特性が向上し、結果として最大600MHzの動作クロック向上を達成。そのほかキャッシュアルゴリズムに機械学習の成果を取り入れたり、2次キャッシュ増量など数多くの改良が加わった。

 チップセットはUSB 20Gbpsのポート数を増やした「Z790」が登場したが、CPU性能に直結する部分ではZ690と本質的に共通である。

Eコアクラスタを2倍にしたほか、共有2次キャッシュも1.25MB→2MBに増量された。2023年登場の下位モデルにもEコアが標準で装備されるとの噂だ
第13世代Coreの性能向上はEコア数の増加や動作クロックに加え、2次/3次キャッシュのアルゴリズム改善によるところが大きい

高性能だがCPU温度や消費電力もアップ傾向

 第13世代Coreは前世代よりも最大600MHzの動作クロック向上を達成し、結果としてパフォーマンスは大幅に向上した。しかし、MTP(Maximum Turbo Power)は181〜253W(モデルにより異なる)に増加したことで、消費電力や発熱も大幅に増えている。

 下のグラフは「HandBrake」によるエンコード時のCPU温度(Tcase)やCPUの消費電力(EPS12V×2)を追跡したものだが、MTP253WのCore i9-13900Kでは36cmクラスのラジエータを備えた簡易水冷クーラーでもCPU温度が100℃に到達し、サーマルスロットリングが発生。消費電力が低下していることからも、温度リミット到達でクロックが絞られていることが確認できる。

 36cmラジエータならばCore i7-13700K以下はサーマルスロットリングの心配はないが、それなりに強力なCPUクーラーの利用がオススメだ。

 また、UEFIでV-Fカーブを定格よりも低電圧方向に調整したり、CPUの反り防止フレームを装着したりするというテクニックも有用だ。ただし反り防止フレームはマザーの保証が切れてしまう(改造にあたる)ので覚悟の上で利用しよう。

TDPを大幅に下げても旧世代より高速

今世代のCPUはIntel/AMDともに前世代よりも消費電力が大幅に増えているが、同時にTDPを制限して運用しても旧世代と同等かそれ以上であるという点も共通している。

 Core i9-13900Kの場合、MTP を115W まで下げてもCore i9-12900K の定格MTP状態より高速だし、シングルスレッド性能はMTP定格時と変わらない。

Intelの資料ではCore i9-13900KをTDP 65Wまで下げても12900Kと同等のパフォーマンスを出せるとあるが、これは理想的な例でしかないので過信は禁物
【検証環境】
マザーボードASUSTeK ROG MAXIMUS Z790 HERO(Intel Z790)
メモリG.Skill Trident Z5 Neo F5-6000J3636F16GX2-TZ5N(PC5-48000 DDR5 SDRAM 16GB×2 ※PC5-44800で動作)
システムSSDCorsair CSSD-F1000GBMP600[M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB]
電源Super Flower LEADEX PLATINUM SE 1000W(1,000W、80PLUS Platinum)
OSWindows 11 Pro
CINEBENCH R23各CPU環境においてPower Limit制限を有効化し、Short Duration Package Power LimitおよびLong Duration Package Power Limitを65W/115W/241W/253Wに設定して計測

Intel Thread Directorの進化でコアの処理分散が効率的に

 第12/13世代CoreプロセッサはP(Performance)コアとE(Efficient)コアを使い分けることで、マルチタスクな状況におけるレスポンスのよさを武器にしている。

 この使い分けとは、使用する命令やフォア/バックグラウンド処理といったタスクの種類で判別されるが、さらにユーザーが最前面で使っているアプリの処理はPコアを優先的に使うといった判別も含まれる。

第13世代CoreのITDはWindows 10でも一応動作するが、最適な振り分けにはWindows 11 22H2以降の環境で動かすことが推奨される
BlenderとUnreal Engineを行なったり来たりしながら作業を進めるようなタスクでは、第13世代は前世代よりも30%前後作業時間が短縮する

 下は「Blender」のレンダリングから「Excel」での作業へスイッチした際のCPU負荷の推移を示したものだが、切り換え後にBlenderの処理がEコアにのみ集中することが分かる。

 この機能がないCPU(Ryzen)では、裏に回ったBlenderにCPUパワーが食われ、Excelの操作が重くなる。いくつものアプリを並列で作業するシーンでよりメリットを感じられるCPUとなっている。

BlenderでCPUを使いレンダリングすると、P/Eコアの区別なく全力で動作。ここでほかのアプリ(例:Excel)を最前面に持ってくると(右の画像へ)
数秒後レンダリング負荷がEコア(下半分のグラフ)だけになり、Pコアはフリーに。Blenderのウィンドウが一部でも見えているとこうはならない

 この使い分けの機能は第12世代以降のCoreプロセッサに搭載されたITD(Intel Thread Director)によるものだが、第13世代Coreでは振り分けの判断に機械学習の成果を利用するなど、第12世代よりもよりスマートな挙動となっている。

メモリはDDR5-5600に

第13世代CoreのDDR5対応はDDR5-5600まで引き上げられた。ただし、5200より上のクロックでは、メモリコントローラがメモリの1/2クロックで動作する“Gear 2”動作となる。DDR4対応は従来どおりDDR4-3200までを正式にサポートする。

第13世代CoreのDDR5対応はDDR5-5600まで引き上げられた。ただし、5200より上のクロックでは、メモリコントローラがメモリの1/2クロックで動作する“Gear 2”動作となる。DDR4対応は従来どおりDDR4-3200までを正式にサポートする。

Ryzenも世代交代が一気に進む!

 Zen 4世代のRyzen 7000シリーズは物理コア数は前世代(5000シリーズ)と同じ6〜16基だが、5nmプロセスを採用しさらに待望の内蔵GPU(RDNA 2世代)も標準搭載。フロントエンドの改良や2次キャッシュ倍増に加え、全モデルでブースト5GHzオーバーを達成した。

 さらに、メモリはDDR5(5200が定格上限)専用となり、PCI Express 5.0に標準対応。チップセットはX670E/X670/B650E/B650の4種類が用意される大リニューアルとなった。残念ながらPCI Express 5.0対応を達成するためマザーが全体的に高額となったが、2025年以降もSocket AM5を使うと予告されていることを考えれば、第14世代で再びソケットが変わるIntelよりも割安なこともあるかもしれない。

Ryzen 7000シリーズはLGA1718パッケージ(SocketAM5)を採用。ヒートスプレッダは表面のキャパシタをまたぐような形状になった。CPU自体の面積は従来と同じだ

 またHEDT向けにはZen 3世代のコアを使用した「Ryzen Threadripper PRO 5000WXシリーズ」が登場した。基本性能は向上したものの、物理コア数は前世代から引き続き64コアが上限となる。次はZen 4の“Genoa”世代のEPYCがベースになると思われるが、詳細は不明だ。

本誌&AKIBA PC Hotline! 読者はコレが気になった!!

Best5
順位製品名投票数
1位Intel Core i9-13900K596
2位AMD Ryzen 9 7950X552
3位Intel Core i5-13600K367
4位AMD Ryzen 7 5800X3D357
5位AMD Ryzen 7 7700X352

 AKIBA PC Hotline!の協力のもと実施した人気投票では、投票期間中ずっとIntelのCore i9-13900K とAMDのRyzen 9 7950Xという両社のメインストリーム向けCPUの最上位が熾烈な争いを繰り広げ、最終的にはIntelがトップに立った。

 3位以下はミドルレンジに集中。前世代ながら高いゲーム性能を発揮する5800X3Dが再評価されているのも見どころだ。

【検証環境】
<Socket AM5>マザーボードASRock X670E Taichi(AMD X670)
メモリG.Skill Trident Z5 NEO F5-6000J3038F16GX2-TZ5N(PC5-48000 DDR5 SDRAM 16GB×2 ※PC5-41600で動作)
<Socket AM4>マザーボードGIGA-BYTE B550 VISION D(rev. 1.0)(AMDB550)
メモリG.Skill Trident Z RGB F4-3200C16D-32GTZRX(PC4-25600 DDR4 SDRAM 16GB×2)
<共通>システムSSDCorsair CSSD-F1000GBMP600[M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB]
データSSDSilicon Power SP002TBP34A80M28[M.2(PCI Express 3.0 x4)、2TB]
CPUクーラーASUSTeK ROG RYUJIN 360(簡易水冷、36cmクラス)
OSWindows 11 Pro

最上位からエントリーまで24CPU一斉比較!CPUパワーと基本性能をチェック

 本誌連載「CPU定点観測所」に倣い、現行CPUを上から下まで一斉比較してみよう。今期追加された新CPUを中心に誌面の許す限り前世代のCPUも加えた(第12・13世代はDDR5のみ比較)。さらに旧世代として、Skylake世代のCore i7-6700Kを加えている。OSはWindows 11 22H2だ。

 CPUのシンプルなパワーは定番「CINEBENCH R23」で実施した。Threadripperの値が飛び抜けて高いが、現行メインストリームCPUのハイエンドがHEDTの下位モデルに迫るマルチスレッド性能を発揮する一方で、シングルスレッド性能は第13世代Coreがとくに高い点に注目だ。

 CPUの総合性能比較には「CrossMark」を採用した。CPU負荷が軽い処理も含まれるためここでは高クロック動作のCPUが強い。スコアトップは第13世代Coreだが、Ryzen 7000シリーズも旧世代から大きくスコアを伸ばしている。2023年に登場する廉価版モデルの性能も楽しみだ。

人気ゲームでフレームレートを計測ゲーム性能はどちらに軍配か

 ゲーム性能はGPU(RTX 3080)を共通とし、CPU側がどの程度のフレームレートを支えられるかに注目する。ゲーム側の画質設定もフルHD&最低設定でCPUに負荷が偏るようにした。

 チーム対戦FPS「オーバーウォッチ 2」では、Ryzen 7000シリーズの4モデルすべてがフレームレート上限(600fps)の近くまで出せている点に注目。Intel勢の平均フレームレート最速はCore i9-13900Kで、Core i5などは相応にフレームレートが下がっている。CPU設計とゲーム処理のかみ合わせという点では、オーバーウォッチ 2とRyzen 7000シリーズの相性はとくによい。

 一方レースシム「F1 22」でもRyzen 7000シリーズは8コアモデルが最速だが、旧世代のRyzen 7 5800X3Dに並ばれている点に注目。第13世代CoreはCore i5-13600Kが旧世代のCore i9-12900Kを上回るなど、全体に強い。2023年登場予定の下位モデルがRyzen勢にどこまで迫るか期待が高まる。

写真と動画編集を実行するクリエイティブ系アプリを制するのは

 写真編集系アプリの検証は「Photoshop」と「Lightroom Classic」で実際に処理を行なう「UL Procyon Photo Editing Benchmark」を利用した。シングルスレッド性能とコア数のバランスが重要なテストだが、この場を制したのはRyzen 7000シリーズ。とくにImage Retouchingのスコアを大きく伸ばしたことが勝因となった。ゲームでは非常に強かったRyzen 7 5800X3Dはコア数やクロックなりの凡庸な結果に終わった。

 動画エンコードは「HandBrake」を利用して検証。今回はCore i9-13900Kがサーマルスロットリングでクロックが下がる前に処理を終えるような処理内容にしている。ここでの最速はコア数の多いThreadripper系だが、Core i9-13900KやRyzen 9 7950Xといったメインストリームの最上位がかなり迫っている。基本的にコア数やクロックの高い順に性能が出ているが、ここに電力という要素を加えると非常におもしろい結果になる。次の項目で解説しよう。

高負荷時の消費電力をチェック消費電力を測定し、ワット効率を算出する

 CPUごとの消費電力の違いは、アイドル時とHandBrakeによるエンコード時(前項目)における安定値でそれぞれ比較。アイドル時はRyzen 7000シリーズとThreadripperのアイドル時消費電力が高く、Intel系は低い傾向がある。

 だがエンコード中の消費電力は第13世代Coreの上位モデルが突出して高く、とくにCore i9-13900KはThreadripperも超えた。Ryzen 7000シリーズも5000シリーズに比べ高負荷時の消費電力は高くなったが、それでも第13世代Coreより控えめだ。

 この高負荷時消費電力と、HandBrakeエンコードのフレームレートから算出したのがワットパフォーマンスとなる。ThreadripperやRyzen 7000/5000シリーズは上位CPUほどワットパフォーマンスが向上しているのに対し、Intelの第12・13世代CoreのK付きモデルは上位ほどワットパフォーマンスが下がる。Intel製のK付きモデルが消費電力度外視で性能を追求していることがよく分かる結果となった。

【検証環境】
<LGA1700>マザーボードASUSTeK ROG MAXIMUS Z790 HERO(Intel Z790、DDR5)
<Socket sWRX8>マザーボードASRock WRX80 Creator(AMD WRX80)
<Socket AM5>マザーボードASUSTeK ROG STRIX X670E-F GAMING WIFI(AMD X670)
<Socket AM4>マザーボードASRock X570 Taichi Razer Edition(AMD X570)
メモリG.Skill Trident Z5 NEO F5-6000J3038F16GX2-TZ5N(PC5-48000 DDR5 SDRAM 16GB×2 ※各CPUの定格で動作)
メモリサンマックス SMD4-U64G46MF-32AAR(PC4-25600 DDR4 SDRAM 8GB×8 ※Ryzen Threadripper PROの定格で動作)
メモリG.Skill Trident Z RGB F4-3200C16D-32GTZRX(PC4-25600 DDR4 SDRAM 16GB×2 ※Ryzen 5000シリーズの定格で動作)
<共通> ビデオカードNVIDIA GeForce RTX 3080 Founders Edition
システムSSDCorsair CSSD-F1000GBMP600[M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB]
データSSDSilicon Power SP002TBP34A80M28[M.2(PCI Express 3.0 x4)、2TB]
電源Super Flower LEADEX TITANIUM 1000W(1,000W、80PLUS Platinum)
OSWindows 11 Pro(22H2)
オーバーウォッチ 2マップ“Eichenwalde”におけるBotマッチを観戦した際のフレームレートを「CapFrameX」で計測
F1 22内蔵ベンチマーク(モナコ&ウェット設定)再生中のフレームレートを「CapFrameX」で計測
HandBrake時4K@60fps動画(約3分)をプリセットの“SuperHQ 1080p30 Surround”でMP4/MKV形式に書き出すのに要した時間
アイドル時OS起動10分後の安定値
HandBrake時HandBrake実行中の安定値
電力計ラトックシステム RS-WFWATTCH1 ※Intel系マザーボードのパワーリミットはすべて無制限に設定
オーバーウォッチ 2©2022 Blizzard Entertainment, Inc.

[TEXT:加藤勝明]

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