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最新世代CPUはさらに熱く、CPUクーラーの冷却⼒が性能を左右する時代が到来【PCパーツ100選 CPUクーラー編】

DOS/V POWER REPORT 2023年冬号の記事を丸ごと掲載!

第13世代Core&Zen 4はより高い温度で動作する

 最新の第13世代Core(Raptor Lake)とZen 4では両者ともに動作クロックが大幅に向上した。コア数の増加、そして動作クロック向上とそれに伴う電圧値の上昇によってCPUの発熱は過去最高と言っても過言ではないほどに増大している。

 第13世代Coreにおいては、高い動作クロックで安定動作させるために、定格電圧のマージンが大きく取られているためCPU温度が上がりやすい。Core i9-13900Kにおいては36c/42cmクラスの簡易水冷クーラーでもマルチスレッド負荷でCPU温度が100℃に達するほどだ。そのため、ユーザーの間ではCPU電圧を手動で下げる低電圧化チューンが流行している。

 Zen 4においては、温度リミットが95℃へと引き上げられたことと、自動OC機能であるPrecision Boost Overdriveが標準で有効になり、ブーストの制御がより緻密になったことの影響が大きい。CPU自体の発熱が上がったのではなく、CPU温度が95℃に張り付く動作が通常の挙動になっているのだ。こちらも電圧や消費電力、温度リミットの設定を行なえば状況を変えることは可能だ。

第13世代Core&Zen 4世代でもクーラー互換性は継続
Intel環境は形状が完全に共通なのでLGA1700対応製品であれば問題なく使える。AMD環境は穴の位置とヒートスプレッダ外周が共通のため大半の製品が使用可能。ただ、標準バックプレートを取り外せないため、独自バックプレートを使用するタイプの製品は使用できない

 このような変化こそあるが、クーラーの互換性においては両社ともに確保されている。IntelはLGA1700を継続しているので12世代と共通だし、AMDも基本的にAM4対応クーラーがAM5でも使える。ただ、AM5のほうが若干高さが低く、バックプレートが着脱不可なので、一部のモデルでは別途リテンションキットが必要となるものもある。

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ASSASSIN Ⅲ発売以降、継続的にヒットを飛ばすDeepcoolの勢いがうかがえる結果だ。とくに2022年はAK400の大ヒットに加え、LS720が水冷でも高評価を獲得したところが大きい。また、水冷が急速に普及している一方、まだまだ空冷人気が根強いことも伝わってくる投票結果となった。

空冷 Best3
順位製品名投票数
1位DeepCool AK400470
2位DeepCool AK620396
3位Noctua NH‐D15366
水冷 Best3
順位製品名投票数
1位DeepCool LS720318
2位DeepCool LS520212
3位ASUSTeK ROG RYUJIN Ⅱ 360196

2023年のCPUクーラー選びではCPUの低電圧化も一つの選択肢

 これまでもCore i7やRyzen 7以上は簡易水冷必須と言われてきたが、第13世代CoreのKモデルにおいてはCore i5であっても24cmクラス以上の簡易水冷が望ましい。これは定格電圧が高いことが原因なので、第12世代がそうであったように今後より低電圧な個体が出回る可能性がある。ただ、手動で低電圧化すればCore i7はハイエンド空冷、Core i5はミドル空冷で冷却可能なので、空冷で使いたい場合には挑戦するのも手だろう。

 Zen 4においてはクーラー性能を上げると、温度に余裕ができた分ブーストクロックが高くなるのでRyzen 5 7600Xであっても簡易水冷を使うメリットがある。しかし、こちらも低電圧化や消費電力リミットの引き下げをすれば、実はRyzen 9 7950Xでさえハイエンド空冷で冷却可能になる。CPUクーラーの強化だけでなく、CPUの発熱を減らすというアプローチも頭に入れておきたい。

 最新世代CPUが出てきてもCPUクーラー選びの基本は変わらない。自分の環境が許す限り大きなCPUクーラーを搭載するのが空冷・水冷ともに王道だ。もちろん予算などの個別の条件もあり、同クラスでも性能がかなり異なるので、次項からのベンチマーク検証や下のチャートを参考に、その中から自分に最適な一品を見つけてほしい。

チャートで分かるオススメCPUクーラー

LGA1700の反り防止フレームって効果ある?

LGA1700におけるCPUの歪み問題を気にする人も多い。LGA1700になってからCPUの形状が縦長になり、固定圧が高まったことが原因とされている。ソケット強化フレームなどで対策する方法があるが、マザーボードやCPUの保証がなくなるため注意が必要。効果があるかどうかはCPUの個体差/マザーボードの基板剛性/クーラーの加工精度などによって変わってくる。ものによっては最大で5℃前後の温度低下が見られる場合もあるので挑戦する価値はあるが、殻割りなどと同じ上級者向けテクニックと言える。

空冷・水冷注目のCPUクーラーを一斉比較 新時代を乗り切れる最強のCPUクーラーはどれだ?

 今回の検証では空冷から水冷まで合計14製品を集めた。検証システムには第12世代のCore i7-12700Kを用いたシステムを使用。これは現在販売されているK付き第13世代の定格電圧が高く、発熱が大き過ぎて空冷できちんと差の付く検証ができないためだ。温度テストは高負荷時としてCINEBENCH R23のマルチテストを10分間、FF14時にはFF14ベンチ3回連続で実行している。動作音はマザーボードや専用ユーティリティから回転数設定を行ない、20%/50%/100%で計測している。

 まずは空冷モデルのCPU温度からチェックしていこう。もっとも優秀な結果を記録したのはDeepCoolのASSASSIN Ⅲで高負荷時に82℃、FF14時に53℃を記録している。高負荷時でも安価な水冷モデルを上回る冷却性能を見せており、今なおさすがの性能。次に低い温度を記録したのはDeepCoolのAS500で、高負荷時に85℃を記録。大きさを考えるとASSASSIN Ⅲから3℃しか変わらないのは驚き。ProArtist BASIC5 Sは高負荷時に89℃を記録したが、3,500円前後で売られているAK400が91℃だったのを考えると、12cmツインタワーにしては少々もの足りない。AK400を基準にすると、実売価格の近いオウルテック Silent Cooler V2や旧王者だったサイズ KOTETSU MarkⅡ Rev.Bでさえも後塵を拝しているので、低価格帯はまさにAK400の独壇場となった。

 水冷クーラーの結果だが、42cmモデルが一番冷えるかと思いきや、75℃ともっとも低い温度を記録したのは36cmラジエータを搭載するDeepCool LS720だった。Corsair iCUE H170i ELITE CAPELLIXはハードウェアの基本性能こそ高いものの、動作制御ツールでの回転数制御を詰めないと最高性能が出ない点が仇となった印象だ。ZALMAN Reserator5 Z36は低価格モデルのわりに今回3位の冷却性能を見せている。後述する音の問題はあるがなかなか魅力的だ。

 最後に動作音の結果をチェック。全体的な傾向としては空冷よりもポンプを搭載する水冷のほうが動作音が大きくなる傾向がある。とくに20%時や50%時にポンプの動作音を拾いやすい。もっともポンプの動作音が大きかったのはZALMAN Reserator5 Z36で、アイドル時に40.9dBを記録している。

静音狙いなら大型ファンの空冷モデル
静音性を重視するならば、低回転でも風量を稼げる14cmクラスの大型ファンを搭載する空冷モデルがポンプ音もなくベター。回転数を抑えたファンコントロールができればなおよし

 もっとも優秀な値を記録したのはDeepCool AS500で100%時に45.6dBまでしか上昇していない。Noctua NH-D12Lも奮闘しているがこれには驚き。ヒット作のDeepCool AK400は全域でまずまず優秀で、DeepCool製品は全体的に冷却力と静音性のバランスがよい印象。ProArtist BASIC5 SとオウルテックSilent Cooler V2は50%回転時の動作音がほかの製品よりも大きいので、実用域では不利な印象。

外観にこだわりたいなら簡易水冷
見た目にもこだわりたいなら、アドレサブルRGBでLEDをコントロールできたり、水冷ヘッドにLCDを搭載するような簡易水冷クーラーが最適だ

 水冷クーラーはファンの個数が増えるほどに動作音も上がっている。今回の製品の中ではThermaltakeのTH240 ARGB Syncのファンが3ピン仕様のDC制御で、マザーとの相性か常時フル回転となっていた。なおDeepCool LS720は100%時でも24cmクラスの動作音なので静音性も優秀だ。

LGA1700世代のグリスはどう塗るべき?
LGA1700はCPUが縦長になったため気泡の混入や伸び不足が起きやすい。それを防ぐため以前のような中央に一粒ではなく縦長の×の字で塗るユーザーが増えた。ちなみに、Zen 4はグリスが垂れると拭い取りにくい形状をしているので、マスキングして薄く塗る方法も人気だ。
【検証環境】
CPUIntel Core i7-12700K(12コア20スレッド)
マザーボードMSI MAG Z690 TOMAHAWK WIFI DDR4(Intel Z690)
グラフィックス機能MSI GeForce RTX 3060 Ti GAMING X TRIO(NVIDIA GeForce RTX 3060 Ti)
メモリMicron Crucial CT2K8G4DFS832A(PC4-25600 DDR4 SDRAM 8GB×2)
SSDWestern Digital WD Blue SN570 NVMe WDS500G3B0C[M.2(PCI Express 3.0 x4)、500GB]
電源MSI MPG A1000G(1,000W、80PLUS Gold)
OSWindows 11 Pro
グリス親和産業 OC Master SMZ-01R
室温25℃
暗騒音28dB
アイドル時OS起動10分後の値
FF14時ファイナルファンタジーXIV:暁月のフィナーレ ベンチマークを3回連続で実行した際の最大値
高負荷時CINEBENCH R23 Multi Coreを10分間連続実行した際の最大値
CPU温度HWiNFOのCPUPackageの値
動作音測定距離ファンから20cm

[TEXT:清⽔貴裕、多賀ひろし]

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