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電力チューンの手綱捌きで暴れるCPUを乗りこなせ!【性能アップのカギは冷却にあり!冷却最前線⑩】

DOS/V POWER REPORT 2023年夏号の記事を丸ごと掲載!

MTPや電圧設定の変更がカギ 電力チューンの手綱捌きで暴れるCPUを乗りこなせ!

 CPUを冷やすためにCPUクーラーを強化するのは鉄板だが、費用や冷却性能の限界がやってくる。だが第13世代CoreやRyzen 7000シリーズの上位モデルは、定格設定自体が爆熱仕様。そこをちょっと緩めてやることで、発熱量を一気に抑制することができる。そのとっかかりを紹介しよう。

MTP=無制限運用は冷却とは真逆の設定

 第12世代Core以降のCPUでは、TDPに代わりPBP(Processor Base Power=PL1)とMTP(Maximum Turbo Power=PL2)という指標で発熱量や消費電力を規定している。そしてZ690/Z790マザーではMTPを常時キープできるように回路やUEFIが設計されているだけでなく、多数の製品がMTPの上限が事実上“なし”に設定されている。

 こういった環境でMTPの大きいCore i9-13900KとCore i7-13700Kの2モデル(下表参照)を全力で運用しようとするから、CPU温度が一気に上がってしまうのだ。

製品名コア数/スレッド数PBPMTP
Core i9-13900K24(8P+16E)C/32T125W253W
Core i7-13700K16(8P+8E)C/24T125W253W
Core i7-1370016(8P+8E)C/24T65W219W
Core i5-13600K10(6P+4E)C/16T125W181W
Core i5-1340010(6P+4E)C/16T65W154W
Core i3-131004(4P)C/8T60W89W

 これを解決するにはシンプルにMTPを定格、あるいはそれ以下にすればよい。下げるほどにクロックのブーストも抑制されるため発熱も下がる。無制限運用だと速攻でサーマルスロットリングに入ってしまうなら、まずはMTPを絞ってみよう。多くのマザーではUEFIでIntel定格値に抑える設定があるほか、CPUクーラーの種類を指定することで最適なMTPに設定するものもある。

「HWiNFO」では「PL2Power Limit」が4,095Wであれば事実上のMTP無制限設定と判断できる。左の画像はCore i9-13900Kの場合。P L1が本来のP L2の値、253Wに設定されているのも性能をより引き出すためだ
ASUSTeK「ROG MAXIMUS Z790 HERO」の例。初回起動時に“ASUSMulticore Enhancement(下図)”設定を“Auto”にしておくとMTPが無制限(4,095W)に設定される
ASUS Multicore Enhancementの設定。よく見ると、CPUを90℃にとどめつつ最大の性能を発揮する設定が一番下に用意されている
MSI「MPG Z790 CARBON WIFI」では、CPUクーラーの種類を指定すると、それに釣り合うMTP設定が自動的にセットされる。空冷ならMTPは最初から低めになるのだ

Intel XTUでMTPを思いのままに操る

Intel XTUはインテル公式から最新版をダウンロードして使おう。6月下旬時点ではバージョン「7.11.1.5」が最新版となる

 Intel公式のOCツール「Intel XTU」を利用すればWindows上で直接MTP設定を変更できるのでオススメだ。Intel XTUでは「Turbo Boost Short Power Max」と呼ばれるのがMTP(PL2)設定だ。これをより小さい値にするほどCPUの消費電力と発熱が減少する。

左上の簡易UIで「Advanced View」→下の詳細UIで「Advanced Tuning」と進み、「Turbo Boost Short Power Max」を任意の値に設定して左下の「Apply」をクリック。右のTurbo Boost Power MaxはTurbo Boost Short Power Maxと連動する

 今回はCore i9-13900KのMTPを無制限/253W / 243W / 233Wの4種類の設定にして検証。MTPを下げるほどに計算性能は下がるが、CPU負荷の高い「CINEBENCH R23」の下げ幅は最大5%。CPU負荷の小さいPCゲームではさらに下げ幅が小さくなる。

 そして消費電力は無制限時よりも大幅に減り、無制限を定格(253W)にするだけで平均にして62W、233Wなら84Wも低下。CPU温度も無制限時は一瞬で100℃に到達したものがMTPを243Wに下げることで90℃以内に封じ込めることができた。Intel XTUで設定を変え、軽くテストしながら性能と温度低下の最適バランスを探っていこう。

Ryzenはエアコン感覚で使いたい温度を設定する

 Socket AM5を採用したRyzen 7000シリーズのうち、TDP 105W以上のモデルでは、CPU温度が最大95℃になるまでブーストしまくるという特性がある。ゆえに強力な簡易水冷クーラーを使っても、この仕掛けを知らないとフルロード時のCPU温度に悩み続けることになる。

Ryzen Masterの簡易UI(左)から「Advanced View」→「Profile 1(または2)」と進み「Max Temperature」欄に運用したい温度を入力して「Apply」で決定。60〜95℃の範囲で設定できる
温度リミット機能を使うと、設定した温度でビタッと止めてくれる。HWiNFOなどでTctl/TdieやCPUパッケージ温度を確認すると1℃程度の誤差はあるようだ

 この温度を下げるにはIntelのMTP調整のようにPBO(Precision Boost Overdrive)で定格よりも低いTDPを設定する方法やEcoモード(ページ下部参照)があるが、「Ryzen Master」を使い温度リミットを直接操作するのがエレガントな方法だ。この温度より上げたくないという値を指定するだけで、難しい設定は一切不要なのが最大の特徴だ。

 IntelにおけるMTPと同様に、温度リミットで設定温度を下げればその分性能は低下する。しかしRyzen 9 7950Xの定格95℃から20℃下げてもCINEBENCH R23のマルチスレッド性能は4%しか下がらない。CPU温度は95℃から75℃に下がるだけでなく、フルロード時の消費電力も定格時よりも劇的に低下。エアコン感覚でCPUを運用したい温度を設定すれば、あとはシステムがすべて自動でやってくれるのだ。

チューンしたい上位モデル! 最新CPUラインナップ

 Intel製CPUでもっとも注意が必要なのはPコアを8基備えたCore i7以上、かつK付きのモデル。MTPがとくに高く設定されている上にZ690/Z790マザーで運用するとMTP無制限設定で回ってしまうことが多い。こうしたモデルは強力なCPUクーラーを使いつつ、MTPを絞るなどして発熱量を適宜抑え込もう。Kの付いていないPBP 65W版はK付きほど乱暴な発熱量ではないが、Core i9-13900のようなコア数の多いモデルだと高負荷時の温度は90℃前後まで上昇するので、強力なクーラーと併用したい。

 Ryzen 7000シリーズで冷却的に問題になりやすいのはTDP 170WのRyzen 9 7900X/ 7950Xの二つだが、これは前項の温度リミットを使うことで容易に制御できる。無印はTDP 65Wと低いのでエンコードのような作業は遅いが、発熱量も小さいので大型の水冷や空冷クーラーが使えないシチュエーションでは輝く。ただ現時点でTDP 65W版は妙に割高(CPUクーラーが付属しているため)なので、好きなCPUクーラーとセットにしたいなら、X付きモデルを温度リミット込みで運用するのが賢い選択と言える。

小型ケース環境で便利なEcoモード

Ecoモードの設定は65Wか105Wかの2択。Ryzen MasterのUIでは暗くなっている数値が設定値となる

 Ryzenの省電力機能「Ecoモード」は温度リミットと異なり、TDP 65Wもしくは105Wの2段階設定しかないためファインチューニングは難しい。Ryzen 9 7950Xの定格を100%とした場合、105WモードだとCINEBENCH R23のマルチスレッド性能は11%、65Wでは25%低下した。Mini-ITX ケースで運用する際にガッツリパワーを落としたいときなどに使うとよい。

【検証環境】
CPUIntel Core i9-13900K(24コア32スレッド)、AMD Ryzen 7950X(16コア32スレッド)
マザーボードASUSTeK ROG MAXIMUS Z790 HERO(Intel Z790)、ASUSTeK X670E-F GAMING WIFI(AMD X670E)
メモリG.Skill Trident Z5 NEO F5-6000J3038F16GX2-TZ5N(PC5-48000 DDR5 SDRAM 16GB×2 ※CPUの定格で動作)
システムSSDCorsair CSSD-F1000GBMP600[M.2(PCI Express 4.0 x4)、1TB]
電源Super Flower LEADEX PLATINUM SE 1000W(1,000W、80PLUS Platinum)
OSWindows 11 Pro
Call of Duty:Modern Warfare Ⅱ内蔵ベンチマーク再生中のフレームレートを「FrameView」で計測
CPU (EPS12V)の消費電力HandBrakで3分の4K動画を“Super HQ 1080p30 Surround”でエンコードした際の消費電力の最大値および平均値を「HWiNFO Pro」で取得
エンコード中のCPU温度HandBrakeにおけるエンコード処理中のCPUパッケージ温度を「HWiNFO Pro」経由で取得

[TEXT:加藤勝明]

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 今回は、DOS/V POWER REPORT「2023年夏号」の記事をまるごと掲載しています。

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