パワレポ連動企画

マザーや水冷クーラー付属のアプリを活用してみよう【性能アップのカギは冷却にあり!冷却最前線⑪】

DOS/V POWER REPORT 2023年夏号の記事を丸ごと掲載!

CPUクーラーの冷却強化のはじめの一歩 マザーや水冷クーラー付属のアプリを活用してみよう

 CPUクーラーの冷却力強化にはファンの交換など物理的な手段もあるが、マザーボードや簡易水冷クーラーに付属するアプリを利用する方法もある。基本ファンやポンプの回転数を調整するというものなので、劇的な変化は望めないが、手軽に挑戦できるのがメリット。ここでは、独自のプリセットを作ってCPU温度がどう変化するのか試していく。

ASUSTeK「FanXpert」を例にカスタムプロファイルを作成

 マザーボードに接続したファンの回転数はプロファイルに従って制御されている。この設定はUEFIメニューから変更可能だが、各メーカーが用意しているアプリを使うのが便利だ。ここでは、ハイエンド空冷のDeepCool「AK620」とCore i7-13700Kを組み合わせた環境で、アプリの回転数調整を独自のプロファイルにすることで、どこまで温度が変わるか試してみる。CPUのMTPはマザーボードのデフォルト設定とした(PL1:253W、PL2:4,095W)。

総合アプリ「Armoury Crate」に収録
「FanXpert」は、ASUSの総合管理アプリ「Armoury Crate」の左側にあるキーボードとマウスのアイコンから起動できる。「オートチューニング」を実行することで管理が有効化される
お手軽なのは、右上にある風のようなアイコンのプリセットを利用すること。サイレント、標準、ターボ、フルスピードの4種類がある
ファンリストから「CPU Fan」を選び、グラフにある丸印をクリックしてドラッグすることでどの温度でどの回転数にするか決められる。ここでは、40℃ /30%、50℃ /60%、60℃ /80%、70℃ /100%と早めに回転数を上げるプリセットを作った。平均温度を下げることはできたが、劇的な変化ではない。マザーボードメーカーの自動調整の優秀さが分かる結果でもあった

 基本的な狙いはCPU温度に合わせ、早めにファンの回転数を上げて温度上昇をなるべく抑ること。ただし、CINEBENCH R23のような全コアに100%負荷がかかるようなテストでは一瞬で100℃に到達してしまうので、どの設定でも変化はほとんどない。そのため、CPU温度の測定にはCPU負荷の高いゲームであるサイバーパンク2077を10分間プレイする方法を選択した。CPUクーラー自体の性能は変わらないので、最大温度は同じだが平均をわずかに下げることができた。

ASRockは「FAN-Tastic Tuning」で調整

グラフのy軸がファン回転数、x軸が温度だ。上と同様のチューニングでは画面のようになる。画面右にある「Apply」で設定完了だ。接続されているファン個別に設定が行なえる

 ASRockは、「A-Tuning」アプリ内にある「FAN-Tastic Tuning」で、ファンをコントロールできる。ここでは、同社の「Z790 Taichi」を使ってテストした。「A-Tuning」を起動。上部のメニューから「FAN-Tastic Tuning」を選び「Start FAN Test」を実行。左上のプルダウンメニューからCPUのファンを接続しているコネクタ名を選ぶ。ここでは「CPU FAN 1」だ。あとは丸をドラッグして温度別の回転数を設定する。

GIGA-BYTEは「FAN Control」で制御

右側グラフのy軸がファン回転数、x軸が温度。上と同じ温度と回転数に設定したのがこの画面だ。右下の「適用」をクリックで設定完了だ。プロファイルとして保存もできる

 GIGA-BYTEのマザーボードでは「GIGABYTE Control Center」アプリの「FAN Control」でファンを制御可能だ。ここでは同社の「Z790 D DDR4 (rev. 1.0) 」を使用した。「GIGABYTE Control Center」のホーム画面にある「FAN Control」をクリック。手動でチューニングする場合は左側のメニューから「手動」をクリックし、ファンのプルダウンメニューから「CPU」を選択。オレンジの丸をドラッグして温度別の回転数を設定できる。

MSIは「MSI Center」で回転数変更

グラフのy軸がファン回転数、x軸が温度を示している。p.46と同じ制御設定にすると左の画面になる。右上の×をクリックすれば設定終了だ

 MSI製品は総合管理アプリ「MSI Center」でファン調整が行なえる。同社の「MPG Z790 CARBON WIFI」で試した。画面右上の機能セットをクリックし、「User Scenario」をインストールして起動。右上のソフトウェアコントロールモードのFanを有効する。続いて、「Customize」→「CPUファン」とクリック。これで温度別にファン回転数を調整できる画面を呼び出せる。白い丸をドラッグして温度別の回転数を設定可能だ。

Corsairの簡易水冷は「iCUE」を見直そう

Corsair製デバイスを総合管理できる「iCUE」アプリ
Corsair製品のLEDやファンなど一括で管理できる「iCUE」アプリ。簡易水冷クーラーでは接続しているファンや水冷ヘッドごとにプリセットを適用できる

 空冷のCPUクーラーでは、ファンのコントロールにマザーボードの機能を利用するのが一般的だが、簡易水冷クーラーではメーカー独自のコントロールアプリを用意しているものが少なくない。その一つがCorsairの「iCUE」だ。これは簡易水冷クーラーだけではなく、メモリやマウス、キーボードなど同社製デバイスを総合管理できる。

ファンの回転数と連動するセンサーは通常「冷媒」、つまりラジエータの冷却水の温度が対象だがCPUのパッケージやコア別、GPUを対象にすることも可能だ
冷却プリセットで「+」をクリックするとオリジナルの設定が作れる。白の丸をドラッグすることで温度別の回転数を決められる仕組だ。ここではセンサーをCPU温度(パッケージ)にして、40℃ /50%、45℃ /60%、50℃ /80%、55℃ /90%、60℃/100%と早めにファンの回転を高めるプリセットを作った

 ここでは、「iCUE H150i RGB PRO XT」を使ってファンと水冷ヘッドのポンプの回転数を調整してみる。iCUEでは、ファンとポンプ個別にプリセットを適用できる。ただし、オリジナルのプロファイルを作れるのはファンだけ。ポンプは、静か/安定/最速と用意されたプリセットしか設定できない。

 ファンの回転数調整でポイントになるのはターゲットにするセンサーだ。通常は「冷媒温度」、つまりラジエータ内の冷却水が対象となっている。CPU温度が一気に上がっても冷却水の温度はすぐには上昇せず、ゆっくりと上がっていく。そのため、ファンの回転数が上がるのもCPU負荷が一番高い状態と必ずしも一致するわけではない。そこで、冷却水とCPU温度のそれぞれをターゲットにしたファンの独自プリセットを作ってみた。どちらも早めにファンが回るセッティングにしたのでデフォルトのプリセットよりも温度が下がったが、より効果的だったのはCPU温度をターゲットにした場合。ただし、CPU温度は負荷によって変化が激しいため、ファンの回転数も変わりやすく、動作音はちょっと耳障りになる点は覚えておきたい。

使用した簡易水冷クーラー
2018年発売で36cmクラスのラジエータを備える簡易水冷クーラー。手頃な価格で、高い冷却力を持っていたことから人気があった。LGA1700リテンションキットもあり、現役でも十分使える

NZXTの簡易水冷は「CAM」で管理

システム総合管理の「CAM」アプリ
水冷ヘッドにあるポンプの回転数を制御できるのがNZXTの「CAM」アプリ。CPUやGPUの温度や動作クロックといったシステム情報の表示も可能だ
LEDの色やパターンの設定もCAMで可能だ。同社のキーボードやマウス、キャプチャユニットの管理にも対応する総合管理アプリとなっている
独自の回転数制御は左側のメニューから「冷却」を選び、ポンプのプルダウンメニューを「カスタム」にすることで行なえる。5℃きざみで回転数を決められる仕組だ。温度の参照はCPU、GPU、冷却水から選べる。ここではCPUをターゲットにし、25℃ /70%、30℃ /90%、45℃ /100%のプロファイルを作った

 NZXTの簡易水冷クーラーを制御できるのが「CAM」だ。同社製のデバイスを一括管理できるアプリで、ライティングの変更も行なえる。今回は、28cmクラスのラジエータを採用する「KRAKEN X63 RGB」を使って、オリジナルのプリセットを作ってみる。ちなみに、CAMにはクラウドに設定を保存できる機能があったが、最新版ではセキュリティを高めるという理由から削除された。起動時にアカウントにログインを求められるのが面倒と感じていた人にはうれしい変更だろう。

 CAMだと回転数を制御できるは水冷ヘッドのポンプだけだが、独自のプロファイルを作ることが可能。ファンはマザーボード側で制御する(同社のファンコントローラを導入すればCAMから制御することも可能)。なお、同社ではCAMでポンプもファンも制御できる製品も用意している。CAMでも、回転数制御のターゲットを変更可能で、CPU、GPU、冷却水から選べる。そこで、CPUと冷却水を温度センサーに選んだ独自プロファイルを作った。温度が低めの状態から回転数を上げるという冷却強化としてはオーソドックスな方法だ。ファンの制御はUEFIのデフォルト設定に任せることにした。結果としては、ポンプの回転数を早めに高めればCPUの最大温度も平均温度も下げられるが、効果はわずか。デフォルトプリセットのサイレントとパフォーマンスと大差はなかった。これ以上の冷却強化を考えるなら、マザーボードのファン制御を使って、簡易水冷クーラーのファン回転数を高めるようにしよう。

使用した簡易水冷クーラー
ここで使用した簡易水冷クーラーはNZXTの「KRAKEN X63」。28cmクラスのラジエータを採用し、ファンや水冷ヘッドにはアドレサブルRGBを内蔵。見栄えと冷却力の両方を求める人に向いている
【検証環境】
CPUIntel Core i7-13700K(16コア24スレッド)
マザーボードASUS ROG STRIX Z790-F GAMING WIFI(Intel Z790)
メモリMicron Crucial Pro CP2K16G56C46U5(PC5-44800 DDR5 SDRAM 16GB×2)
ビデオカードZOTAC GAMING GeForce RTX 4070 Ti Trinity OC(NVIDIA GeForce RTX 4070 Ti)
システムSSDWestern Digital WD_BLACK SN850 NVMe WDS200T1X0E-00AFY0[M.2(PCI Express 4.0 x4)、2TB]
CPUクーラーDeepCool AK620(12cm角×2、サイドフロー)
電源Super Flower LEADEX V G130X 1000W(1,000W、80PLUS Gold)
OSWindows 11 Pro
CPU温度サイバーパンク2077を10分間プレイしたときの値、3DMark StressTest(TimeSpy)を10分間動作させたときの最大値

[TEXT:芹澤正芳]

最終号「DOS/V POWER REPORT 2024年冬号」は絶賛発売中!

 今回は、DOS/V POWER REPORT「2023年夏号」の記事をまるごと掲載しています。

 なお、33年の長きにわたり刊行を続けてきたDOS/V POWER REPORTは、現在発売中の「2024年冬号」が最終号となります。年末恒例の「PCパーツ100選 2024」や「自作PC史&歴代パーツ名鑑」など、内容盛り沢山!是非ご覧ください!