ボクたちが愛した、想い出のレトロゲームたち

日本文芸社『Hacker(ハッカー)』~想い出の“20世紀パソコン雑誌”たち~

最初はイラストを使用した表紙でしたが、後には写真を掲載するようになりました。キャッチコピーは、創刊してからしばらくは「あなたのパソコンが生まれ変わるグレードアップ機能付き裏情報誌」ですが、その後は色々と変わっていきます。

 現在ではあまり見かけなくなってしまったものの、20世紀には数多くのマイコン・パソコン雑誌が発売されていました。中には、その当時に読者だった雑誌に影響を受けて後の人生が決まった、という人もいるかもしれません。ここでは、それら20世紀に発売されたマイコン・パソコン雑誌を取り上げ、紹介していきます。第6回目は、刊行されたパソコン雑誌の中でも一際違った路線を歩んだ、日本文芸社の『ハッカー』を取り上げました。

 1980年代前半は、パソコン用ゲームソフトというとカセットテープでの供給が一般的で、遊べるようになるまで数分から10分ほど待たされるのは当たり前でした。しかし1985年1月に、パソコン業界の流れを大きく変えることとなるNECのPC-8801mkIISRを始めとした機種が登場すると、そのあたりの時期から数多くのゲームソフトが(他機種を含めて)次々とフロッピーディスクで発売されるようになります。それらのタイトルに対して、既存のパソコン雑誌は紹介や攻略といった形で誌面で取り上げていたのですが、それとはまったく違う、いわゆるアンダーグラウンドな路線の各種ソフトを掲載して誌面を構成していたのが、今回取り上げた雑誌・週刊漫画ゴラク増刊『Hacker(ハッカー)』でした。

 発行していたのは日本文芸社ですが、記事の編集プロデュースは株式会社ハッカーが行っていたことが初期の奥付に書かれています。なお、同一住所には“あの”ハッカー・インターナショナルもありました。“増刊”と銘打ちつつも刊行体系は月刊誌と同じで発売日は毎月18日、定価は当初550円からスタートしたものの、途中で600円へと一度値上げを行っています。版型は、創刊から休刊まで変わることはありませんでしたが、数回ほど袋とじが入ったことがありました。

バックアップツールやハードの広告が目立ちましたが、解析関連の書籍広告やパソコンの通販・買い取り広告、さらにはフロッピーディスクを販売するショップ広告なども入っていました。

 オーソドックスなパソコン雑誌であれば、雑誌広告はハード会社だったりソフトハウスだったりするのですが、『ハッカー』の場合は広告出稿元が当時話題になったバックアップツールやディスク解析ツールを提供しているソフトハウスだったり、パソコン本体の通販メーカーなどが多数を占めています。そのため、一般的なソフトを取り上げた際には歯に衣を着せない形での文章が掲載されていました。

 また、『ハッカー』本誌を含む、発売されているパソコン雑誌に対してのレビュー記事も載せていたのですが、極端な場合は良い点:悪い点の割合が1:9ということも……。あまりにもストレートに書きすぎていると、読む方としてもイヤな気分になってくるので、今見返すと“うーん”となる部分も多いように感じました。これに関しては、筆者も若い頃はソフトレビューで悪い点ばかりを取り上げたこともあったので、ある意味では若気の至りかもしれません。

 この時代のソフトには(それ以前もですが)、購入したユーザーが簡単にバックアップ(コピー)を取ることができないよう、コピープロテクトがかけられています。そこで『ハッカー』では、そういったプロテクトの仕組みがどのようになっているのかを解説したり、各種バックアップツール用のプロテクト解除プログラムを掲載するということも行っていました。

 他にも、徳間書店から発売されていた月刊誌『テクノポリス』などでもお馴染みの、市販ソフトの改造プログラムの掲載や、業界の裏事情を覆面座談会形式で紹介するなど、一般的なパソコン雑誌ではほぼ不可能と思える記事が多かったのも特徴と言えるでしょう。

目立つ裏表紙の広告には、3Mや東京ニーズが出稿していたほか、ソフマップも広告を掲載していた時期がありました。ソフマップは本誌内の白黒ページなどにも広告を出していて、この当時の勢いがうかがえるというものです。

 ジャンルを問わずこのようなスタンスの雑誌は、どうやら大手や有名どころに噛みつくのが方針(?)のようで、『ハッカー』もご多分に漏れずいわゆる“アンチ任天堂”のような記事を掲載していたほか、当時のファミコンディスクシステム向けに独自ソフトを販売するといったことも行っています。

 刊行時の記事を挙げてみると「多機能6502用2パス逆アセンブラ」「これが噂のファミコンだめ!ソフトベスト10」「コピーツール業界のウラとパソコン・クラブの実態」「IPL解析講座」「がんばれ8801/mkII」「斬り捨て御免!ソフト御意見番」「パソコン12誌+αバトルロイヤル」「スーパー改造マニュアル」「バックアップツールのアルゴリズムを徹底解析」「おもしろPDSカタログ」という感じでした。一時期はマンガも掲載されていて、後に成人向けマンガ家としてブレイクする“遊人”が作画を担当した、「ザ・ハッカー」などが連載されています。

 さまざまな意味で業界に一石を投じた『ハッカー』ですが、1986年8月18日に創刊された9月号から3年と少しが経過した1989年12月16日号(No.40)をもって、残念ながら休刊となってしまいました。