ボクたちが愛した、想い出のレトロゲームたち

シンキングラビットのミステリアドベンチャー『鍵穴殺人事件』

パッケージに使われているイラストは、イラストレータ米田朗氏の手によるものです。タイトルの“件”の部分が、血が滴るように赤色で描かれているところが印象に残ります。

 当時の懐かしい広告とゲーム画面で、国産PCの歴史とノスタルジーに浸れる連載コーナー。今回は、当時は『倉庫番』が有名だったソフトハウス・シンキングラビットが、満を持して世に送り出したディスクアドベンチャーシリーズNo.1『鍵穴殺人事件』を取り上げます。

 1980年代前半の流行りはアドベンチャーゲームで、さまざまなソフトハウスが数多くのタイトルをリリースしていました。そんななか、今林氏が制作した『倉庫番』が大ヒットしたことで一躍有名ソフトハウスに躍り出たシンキングラビットが発売した、同氏による傑作ミステリアドベンチャーゲームが『鍵穴殺人事件』です。そのプロローグは、以下のようになっていました。

タイトル画面でも、パッケージと同じく“件”の一部分のみが赤色で描かれます。これだけで、ワクワク感が上がるというもの。

 1955年9月4日、殺人予告を受けたギルズ・ウィルコック氏の護衛のためにロンドン警視庁から派遣された主人公は、郊外にある彼の別荘に来ていた。ウィルコック氏は2階の書斎に、あなたはその部屋に通じる唯一のドアの前で殺人者の手から彼を守るべく、予告時間の午前0時がくるのを待っている。現在、この家にいるのは秘書・メイド・客・コック・使用人・ウィルコック氏、そしてあなたの7人のみ。予告通りに殺人が行われるなら、犯人はこの中にいるはず……その時、部屋の中から“バン!”とピストルの音と共に、悲鳴と人の倒れる音が! 急いでドアを開けようとするものの、鍵がかかっていて開かない。そこで、とりあえず鍵穴から部屋の中を覗くと、そこには……。

 プレイヤーは、ロンドン警視庁から派遣された探偵として、事件を解決に導くことが目的です。プロローグ部分の最後にあるように、鍵穴から部屋を覗くとウィルコック氏の死体が見つかるのですが、この部分に関してはマニュアルに「それでは“カギアナ ノゾク”と入力してください」と親切に書かれていました。

 操作方法は一般的なコマンド入力式となっていますが、英語ではなくカナで打ち込むため、ある程度は単語探しから逃れることができます。また、コマンド入力時に“2”“4”“6”“8”を入れることで、それぞれ後・左・右・前へと移動しました。画面は常に正面が北なので、分かってしまえば方向感覚を掴みやすいのはありがたい部分です。

 移動できる場面数は全部で20ちょっとと少な目ですが、『ミステリーハウス』のように一本道で攻略していくのではないというのが大きな違いでした。しかも、入れる部屋や移動できるシーンへはいつでも行けるだけでなく、別荘にいる5人の関係者を「×× ヨブ」と入力するだけで、好きな時に尋問することができるのも当時としては目新しかったと思います。新たな証拠を見つけるたびに、それを見せて手掛かりを掴んだり、あるいはアリバイを崩していくわけですが、一筋縄ではいかないのが難しいところでした。この尋問シーン以外では、人物は登場しないのも本作の特長と言えるでしょう。

ウィルコック氏の別荘はそれほど広くありませんが、所々に打ち付けられたドアなどがあるため、すぐには建物内すべてを調べることはできません。まずは、行けるところから謎を解いていきましょう。ちなみに、3枚目の画面写真に写っている青い物体ですが、階段でも椅子でもなく、踏み台です。踏み台と言えば、これを使えば高くて手が届かなかったあそこにも!?

 通常のゲーム中は線画で進行していきますが、「イロ ツケル」と入力すればカラーの画面に、その状態で「イロ ケス」と打ち込むとモノクロ画面に変わります。これは実際にプレイすると分かるのですが、塗っている場所がそれほど多くないにもかかわらず、ペイント時間が非常に遅いためだと思われます。

 肝心のグラフィックですが、それほど描き込まれているわけではないため、コマンドを入力する際に“これは何だろう?”となる物体がいくつか存在します。この辺りについては月刊ログイン1983年11月号に、グラフィックに凝らなかった理由として「今林さんはあまりグラフィックを重要視してないんだ。ないよりはある方がいいっていう程度。だから絵を描くスピードが遅くても構わない。」と書かれていました。

「×× ヨブ」または「×× ジンモンスル」と入力すると、いつでも関係者に話を聞くことができます。客のロバート・メイズが一番細かく描かれているようで、反対にメイドのメアリー・スチュアートは顔の部分がかなり簡素な描画でした。

 同じ号にはゲーム完成まで6カ月間かかったことも記されていて、「もともと推理小説の下描きがあったんだ。だけど小説は書けないからっていうんでゲームにした。ディクスン・カーの小説が好きだそうだ。だから舞台もイギリス。」と解説されています。

広告のバリエーションはいくつかありますが、発売直後(左)はテープ版でのリリース予定や、PC-8001mkII用も検討されていたのがわかります。クリアした人数が掲載されたことがあるほか(中央)、85年頭にはプレイ出来る全機種が載った広告(右)も登場しています。

 余談ですが、本作と同じ時代に発売されていたアドベンチャーゲームとして主に挙げられるのは、『惑星メフィウス』(T&E SOFT)、『ポートピア連続殺人』(ENIX)、『ホラーハウス』(日本ファルコム)、『あどべんちゃーインはかた』(リバーヒルソフト)、『不思議の森のアドベンチャー』(ボンドソフト)、『熱海温泉アドベンチャー』(BASIC SYSTEM)などでした。そのラインアップを見ると、本作の完成度はさまざまな面において高いことが分かるかと思います。

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