ボクたちが愛した、想い出のレトロゲームたち

スクウェアの処女作はハードボイルドアドベンチャーだった!『デス・トラップ』

銃とグラスに注がれた酒、メモ、タバコ、そして灰皿と、ハードボイルドに必要な要素をまとめて撮影した実写写真の上にゲームロゴが書かれたパッケージでした。シールに隠れていますが、SQUAREのロゴがカラフルに印刷されています。色順は緑まではPC-8801のCOLOR番号と同じですが、Rが黄色でEが水色と、そこだけ逆になっていました。

 当時の懐かしい広告とゲーム画面で、国産PCの歴史とノスタルジーに浸れる連載コーナー。今回取り上げたのは1984年9月20日に発売された、スクウェアのデビュー作となったハードボイルドアドベンチャーゲーム『デス・トラップ(THE DEATH TRAP)』です。

発売元がアスキーだったため、雑誌『ログイン』には発売直前から広告が掲載されていました。発売後は、ゲームストーリーをなぞるように小説形式で物語が掲載されていたため、行き詰まった人の中には助けられた人もいたのではないでしょうか。

 今やスクウェア・エニックスといえば、さまざまな大ヒット作品をリリースする巨大な会社ですが、元々は「スクウェア」と「エニックス」という別々の会社だったのは、この連載を読んでいる人であれば誰もが知っている事実かと思います(?)。そのうちの1社「スクウェア」は、四国電力の送電線工事を請け負う電友社という会社の一部門として、1983年10月に横浜市に設立されました。

 そこに、当時のアルバイト雑誌『from A』を見て1984年3月にスクウェアへとやってきたのが、あの「ファイナルファンタジー」シリーズなどでお馴染みの坂口博信氏です。春休みだった3月中をプログラマとしてアルバイトで過ごしたのですが、作っていたゲームのプランが“ぽしゃって”しまい、このままではお金がもらえないというピンチに……。

 そこで、4月からシナリオを考え始めて6月よりプログラムに取りかかり、9月に完成し同月20日に発売されたのが、スクウェアの処女作となったハードボイルドアドベンチャーゲーム『デス・トラップ』です。最初の潰れたプロジェクトに関わっていたグラフィック担当の3人とプログラマ2人など、氏を含めた総勢11人で制作を行ったと、当時の雑誌『テクノポリス』1986年3月号のインタビューに書かれていました。そんな『デス・トラップ』のプロローグは、以下のようになっています。

入力は英語でもカタカナでも、それらが混在していても問題ありません。ローマ字かな変換も行ってくれるので、ローマ字入力に慣れた現代人でも楽にプレイ出来ます。アクションにアイテムを必要とする場合は、コマンドを入力後[WITH WHAT]と聞かれるので、そこでアイテム名を指示します。

 198X年、世界各地で紛争の火の手が上がる中、東アフリカのB国でも自由主義国家側の支援を受けた政府と、社会主義大国からの軍事協力を得た反政府ゲリラとの内戦が繰り広げられていた。政権奪取を焦るゲリラ側は、状況を打開すべく新兵器の開発を目指し、細菌兵器の分野では世界的権威と名高いA国のジタン博士を強引に拉致する。A国はB国政府の要請を受け、国家中央情報部ナンバーワンと称されるリチャード・H・ベンソンを派遣することを決定。表だった救出作戦は社会主義国家との間に決定的な亀裂を生むため、すべては極秘で行わなければならない……。

 その頃、つかの間の休息を味わっていたベンソンの元に、一通の封書が届く。指令書を読み終えると、タバコをくゆらせながらしばらく会えなくなる恋人のジャスミンを思うベンソン。彼女を悲しませないためにも、任務を遂行し生きて戻らなければならない。しかし、今回の任務がどれほど危険で、かつ困難なものか、このときのベンソンは知るよしもなかった。

この時代のアドベンチャーゲームなので、深く考えずにアクションをおこすと即死というシーンが数多く待ち受けています。少しでもリスクのある行動だと思ったら、迷わずセーブ! ヒントを得る方法は複数用意されていて、例えば小屋に住む謎の男が出すクイズに答えても、遺跡の古代文字を解読しても同じキーワードが得られました。

 プレイヤーは主人公のスパイ・ベンソンとして敵国に侵入し、ジタン博士を救出することが目的となります。この時期のアドベンチャーゲームとしてはオーソドックスなコマンド入力式を採用していたのですが、入力方法はCAPSキーをロックした状態なら英語、カナキーロックであればカナ入力、そしてどちらのロックもオフになっていれば、ローマ字かな変換での入力が行えました。

 さらに、「ミル オトコ」「LOOK MAN」の他に「ミル MAN」「LOOK オトコ」という英語かな混在コマンドも可能です。マニュアルには「入力の不自由さという今までのアドベンチャーゲームにおける最大の欠点を次の3タイプの入力方法の採用で一挙に解消しました」と、誇らしげに表記されていました。ただし、受け付けてくれるコマンド自体はそこまで多くは無く、各シーンで的確な単語を入力しなければ、それ以外はハードボイルドっぽい台詞が表示されてスルーされてしまいます(笑)。

現地語を話す原住民や、謎の遺跡で見つける古代文字……これらはマニュアルに書かれた対応表を見ないと解読は難しいかもしれません。当時、パッケージもマニュアルも無く、ディスクのみでプレイしていた人はいませんよね?

 描画方法は、この時期に出始めていた瞬間表示やライン&ペイントではなく、左からじわじわとグラフィックが表示されていく方式となっていました。画面の右半分は地図が表示されているため、実際の描画範囲はそれほど広くなく、メインの画面は約3秒ほどで描かれます。

 本作は進行途中で原住民に出会ったり、謎の古代文字を見つけることがありました。原住民とは「TALK(ハナス)」コマンドで会話が可能ですが、相手の受け答えが現地語で表示されるため解読する必要があるほか、古代文字もアルファベットに対応させなければ意味不明で読むことができません。マニュアルを見れば現地語の翻訳が書かれてあるだけでなく、謎の古代文字もアルファベットに対応した表が掲載されているので、製品を購入したユーザーであれば何の問題もなかったわけですが……ディスクのみでプレイしていた人は、自力クリアはできなかったのではないでしょうか。

広告で“残念だね、少年たち!”というキャッチコピーを使っていましたが、実際にプレイヤーが少年の場合、ジャスミンに止められてるシーンのクリア方法を思いつかないかもしれません。

 現在は、プロジェクトEGGにて気軽に遊ぶことができますので、“あの”坂口氏が手がけた最初の作品を体験してみたいという人は、ぜひプレイしてみてください。難易度は少々高めなので、何人かで集まり知恵を出し合って進めていくのが良いかもしれません。

ゲームオーバー時には、「YOU FALL INTO THE DEATH TRAP!」の画面とメッセージが表示されました。ノーヒントで進むと、何度もこの画面を拝むことに……。

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