ボクたちが愛した、想い出のレトロゲームたち

対戦ゲームの先駆け!?通信対戦にも対応した『森田和郎の将棋』

どちらのパッケージにも、森田氏本人の顔写真が大きく掲載されています。このあたりは、氏の名前を冠するタイトルならではといったところではないでしょうか。

 当時の懐かしい広告とゲーム画面で、国産PCの歴史とノスタルジーに浸れる連載コーナー。今回取り上げたのは、1985年に16ビット機種対応版が、そして1986年に8ビット版が発売された『森田和郎の将棋』の両タイトルです。

PC-98版は1985年に発売されましたが、当初は2D版も用意されていたのを見ると時代を感じてしまいます。PC-88版の発売時には「僕は、人工知能が好きです。」とのキャッチも追加されました。

 テーブルゲームのジャンルは、マイコン・パソコンゲーム黎明期から数多く作られてきました。囲碁や将棋、チェスといったタイトルは本来、プレイヤー1人では遊べず、対戦する相手が揃ってこそ初めて成り立つゲームでしたが、その相手をコンピュータが代わりにつとめてくれるため、一人で遊ぶことができるようになったことが大きかったと思われます。

 ただし、初期の頃は思考ルーチン的にあまり複雑ではないバックギャモンやオセロ、そして詰め将棋といったたぐいのゲームが数多くリリースされていました。これは、ルールが複雑になるほど思考ルーチン構成の敷居が上がるといった理由のほか、その思考ルーチンも先を深く読むようにすると時間がかかってしまい、結果的にプレイヤーを待たせるためゲームにならないという悩み所もあったからです。

 そのため、コマを取ったり取られたりせず盤面上に置いていくだけのオセロや、コマの数が減ることはあっても増えはしないチェスのような作品は、比較的早くからコンピュータとの対戦が実現していました。

PC-98版とPC-88版のマニュアルを見比べてみると、このような感じでメニュー項目が整理されているのがわかります。

 そんな中にあって囲碁や将棋は、対局してもまだまだコンピュータが弱すぎる時代でしたが、そこへ颯爽と現れたのが『森田のバトルフィールド』で一躍有名になった森田和郎氏でした。将棋5段、囲碁3段、オセロ2段も実力を持つ氏が、「人工知能を兼ね備えたコンピュータ史上最強の将棋ソフト!」とのキャッチコピーと共に1985年6月下旬にリリースしたのが、PC-9801シリーズ向けの『森田和郎の将棋』です。その1年半後となる1986年12月下旬には、8ビットマシンであるPC-8801シリーズに対応した『森田和郎の将棋 8ビット版』も発売しています。

 『森田和郎の将棋』の特徴は、この当時としては非常に強い思考ルーチンを持っていたこと、そしてRS-232Cを用いた通信機能により、電話での遠隔地対局が行えたことでした。思考ルーチンに関しては、PC-98版は「対局将棋ではもちろんコンピュータ史上最強の強さを誇ります」と書かれていて、この部分はPC-88版でも「対局将棋では、もちろん、8ビット史上最強の強さを誇ります」とあり、いかに森田氏が思考ルーチンに自信を持っていたかがうかがえます。PC-98版の広告では、「圧倒的強さで市販将棋ソフトを一蹴。2枚落ちでも楽勝」とまであったほどでした。

ゲーム自体はオーソドックスな将棋なので、通常はコンピュータ相手に対局を行いますが、コンピュータ同士の対局も可能です。“まった”は何度でも使えるので、旗色が悪くなるとつい押したくなります。

 なお、PC-98版では40以上用意されていたサブメニューですが(その中にはなんと、「もりたんのプロフィール」と題した項目も)、PC-88版は整理されたのと、定石編集や最善手変更といったメニューがなくなり、少なくまとめられています。

 実際にプレイしてみると、将棋を少々かじった程度の人では確かに勝つのは難しく、思考ルーチンも当時としては早く・確かに強かった記憶があります。実際に今プレイしてみましたが、昔は3級程度の腕前を持っていたもののすっかり衰えた筆者程度の腕では、もはや勝つには駒落ちしてもらわないと厳しいほどです。もう少し実力のある人に対局してもらえれば、『森田和郎の将棋』の実力がわかるかもしれません。

新聞などに掲載されている詰め将棋の盤面を入力して、コンピュータに解かせるということもできました。手数が増えるほど、思考時間は長くなっていきます。

 そんな同タイトルですが、時代の最先端をいっていたのが“通信対局”というメニューです。PC-98版がリリースされた1985年6月と言えば、いわゆる通信自由化が行われてからわずか2ヶ月後のことでしたが、ユーザーが電話回線に手を加えることがヨシとされてこなかった時代が直前まで続いていたため、この時期に電話回線を使用して対局するためには音響カプラと呼ばれる機器が必要でした。しばらくすると、モジュラジャックを備えたモデムが登場するので、通信対局はよりハードルが低くなっていくことにはなります。

 通話料金ですが、市内通話は1970年1月30日に3分10円になったものの、この時代は通話相手との距離が遠くなるほどに10円で話せる時間が短くなっていくため、遠距離通信対局をしようものなら電話代があっというまに高騰することに……。そもそも、対局が5分や10分で終了するわけはないので、のめり込むほどに必然的に高額な料金をNTTに支払うことになるのでした。ちなみに本作が登場した1985年の電話料金ですが、100km以上160kmまでの場合、10円で話せるのは18.5秒です。

実際に通信対局をする際に必要となる機材を集め、セッティングしてみました。家族で住んでいた場合、当時の電話機は玄関に置かれることが多かったので、その場合は電話線を伸ばして電話機を部屋に持ってくるか、または非常に長いRS-232Cのケーブルを使う必要がありました。一人暮らしであれば自由が効くため、そのような心配とは無縁だったかと思われます。

 本作以降、森田氏はさまざまなプラットフォームで思考ゲームに限らず幅広いジャンルのゲームをリリースしていきますが、特に彼の名前を冠した一連の「森田将棋」はこの後も発売され続け、2009年にはiPhone向けとしても登場するほどメジャーになりました。

通信対戦を行う場合、あらかじめ対局相手と電話を繋いでおき、対局メニューから人間やコンピュータを選ばずに、“通信300”や“通信1200”を選択します。通信量はたいしたことはありませんが、通信時間は大変な長さに……。

ボクたちが愛した、想い出のレトロゲームたち 連載一覧