ボクたちが愛した、想い出のレトロゲームたち

名作ミステリーアドベンチャー『オホーツクに消ゆ 北海道連鎖殺人』

末弥純氏によるパッケージイラストが非常に渋い印象を与えます。機種ごとの差異は左上に貼られているシールのみで、表面のイラストやパッケージ裏面は共通でした。

 当時の懐かしい広告とゲーム画面で、国産PCの歴史とノスタルジーに浸れる連載コーナー。今回取り上げたのは1984年12月21日に発売された、堀井雄二氏が原作とシナリオを担当したタイトルとなる、社会派推理アドベンチャー巨編『オホーツクに消ゆ』です。本記事がメインとしているMSX版は翌年、85年にリリースされました。

広告は複数バージョンが用意されていて、その種類の多さを鑑みるにかなり気合いが入っていたものと思われます。

 1980年代前半、新たなジャンルとして流行が始まったアドベンチャーゲームはその後、多数の作品が市場へと送り出されます。ファンタジーものからミステリもの、宝探しものとさまざまな冒険を繰り広げるストーリーが展開される中、『ポートピア殺人事件』で一躍注目を浴びた堀井雄二氏の次なるタイトル『オホーツクに消ゆ』を、今回は取り上げました。本作は多数の機種に移植されましたが、今回はグラフィックが他機種とは違うMSX版を中心に見ていきます。

 『オホーツクに消ゆ』は“社会派ミステリアドベンチャー巨編”と銘打たれていて、パッケージ裏には「パソコン用ミステリードラマを初めて実現!」とも書かれていました。そんな本作のストーリーは、以下のようになっています。

 「さて、何から話したものやら……」。老人の重い口から、しだいに事件の全貌が明らかになりつつあった。部下の猿渡俊介が、供述書を書き進めている。

 思えば、何と悲惨な事件だったのだろうか。たった1週間の間に、7人もの人間が死んでしまった。私は、内ポケットに1本だけ残っていた煙草を取り出しながら、これまでの捜査のことを思い出していた。

 そう、あれは1週間前。東京湾、晴海埠頭にあがった男の死体。それこそが、この事件の発端であった。単純な殺人事件だと思っていたのだが、それがオホーツクを舞台にした連鎖殺人になっていこうとは……さて、何からお話ししたものやら……

1985年にMSX版が発売されると、MSX版に特化した広告が掲載されました。

 プレイヤーは、警視庁捜査一課のベテラン刑事である新田哲二(愛称・ボス)として、東京湾にあがった男の死体を発端とした事件を調査し、その真相へと迫っていきます。マニュアルのイラストは、「ウィザードリィ」シリーズでもお馴染みの末弥純氏、付属している北海道観光マップのイラストを横山宏氏、さらにはプログラムをゲヱセン上野氏こと上野利幸氏と、シナリオの堀井雄二氏だけでなく豪華なメンバーがスタッフを担当していました。

 本作の特長は、なんといってもコマンド入力方式ではなく、コマンド選択式を採用したことでしょう。これにより、MSX版やPC-6001シリーズ版は、電話番号や人物名入力時以外はすべてジョイスティックでの操作も可能となっていました。

ゲーム開始直後の、晴海埠頭の現場シーンです。見慣れているのはPC-88版かもしれませんが、MSX版のグラフィックも緊迫感のあるものになっています。

 ただし、このシステムには、すべてのコマンドを試してしまうとクリア出来るという弱点があります。そこで本作では“ハマり”が用意されていて、マニュアルにも「意味もなく××をしてしまうと◯◯になり二度と取り返しがつかなくなる。ある物をとってしまうと◯◯で××なことが聞き出せない(もちろん、なぜそうなのか納得出来る理由をつくってあります)」と書かれていました。さらに「いったい今は、取り返しの付かない状況になっているのか、そうでないのか、プレイヤーである刑事にはわからないということです。

 捜査が行き詰まった時、信念を貫き通すか、いちから捜査をやり直すか、それは刑事の判断次第(このくらいおどしておけば大丈夫なんだよね)」ともあり、安易に全選択肢を試すのはよろしくないですよ、ということも記されています。

キャバレー・ルブランのチラシやルナちゃんも、PC-88版とMSX版では印象が大きく異なります。PC-88版は美人で、MSX版はカワイイという形容詞が似合いそうです。

 とはいえ、コマンド入力式で言葉探しで散々な目に遭ったプレイヤーが多かったこの時期、コマンド選択式は謎解きに集中できるため好意を持って受け入れられ、以降はコマンド選択式を採用したアドベンチャーゲームが多数を占めるようになりました。

 なお、PC-88版などではテンキーでの入力となりますが、PC-6001版やMSX版ではフルキーの数字キーを使用します。また、PC-8801版などでは巻物が開くような形で画面が描画されますが、MSX版はライン&ペイント方式を採用していました。ただし、画面が表示される速度は非常に速いので、遊んでいてもストレスは感じないでしょう。

摩周湖で出会う野村真紀子も、大人びたPC-88版に対して可愛らしいMSX版となっています。

 システム面以外に目を向けると、ストーリーが2時間のサスペンスドラマを見ているかのような怒濤の展開をみせるため、プレイしていて「次は?次はどうなるの!?」という感じで引っ張られ、なかなや止められない盛り上がりがありました。コマンド選択式の恩恵もあり、行き詰まる場面があまりないというのもゲームに釘付けになる要因です。

 ただ、PC-6001用やMSX用はテープ版(2本組み)のため、明確な区切りがありました。最初はテープ1本目のA面をロードしてプレイし、舞台が北海道に移るところでパソコン本体をリセット。続きを遊ぶために改めて1本目のB面を読み込むといった具合です。

ボス?と表示されている時にコマンドの数値を入力すると、続いて「なにを?」と聞かれるので、画面右に表示されている選択肢から選んで数字キーを押すと、何らかの展開があるという仕組みになっていました。

 進行データはどうするの?と思った人もいるかと思いますが、この2機種はパスワード形式を採用していて、テープ1本目のA面やB面、そして2本目のA面に入っている内容をクリアするごとにパスワードが表示されました。これを、次のシーンを読み込んだ時に入力することで、続きがプレイ出来るようになっています。

 誰かからパスワードを聞いてしまえば自由に先の場面を遊べるのですが、そんな事をしてはストーリーが繋がらなくなってしまうため、自分自身が損するだけでした(笑)。

北海道で、次々と起きる殺人事件。その全貌を知った時、「そういう話になっていたのか!」となること間違いなしです。

 アドベンチャーゲームという都合上、本編ストーリーを紹介することは出来ませんが、果たしてプレイヤーは北海道の地を踏むことが出来るのか?立て続けに起きる第2、第3の殺人事件の関連性を見いだして、その背後にある大きな闇を明かすことができるのか?今プレイしても面白いので、ぜひ何かの機会に体験してみてください。

マニュアルには登場人物の紹介のほか、本作がどのようにして完成したのかを簡単に説明したページも用意されていました。詳細に関しては、雑誌『ログイン』1983年12月号に書かれています。また、84年に発売された機種のマニュアルと、MSX版のマニュアルは、一部が異なっていました。

 ちなみに、PC-8801版、PC-9801版、FM-7版、PC-6001版、MSX版が発売された後、1992年にはLOGiN DISK&BOOKシリーズとしてグラフィックを刷新した『オホーツクに消ゆ98』が書籍としてソフト同梱で出版されていますが、後半部分のストーリーが若干異なりますので、まずはオリジナル版でのプレイをオススメします。

パッケージ内には、北海道観光マップも同梱されていました。北海道へ旅行に行く際には、大いに参考になるかもしれません?
こちらが、グラフィックが一新されて1992年に発売された『オホーツクに消ゆ98』です。原作者である堀井雄二氏のインタビューも掲載されていました。

 5/17 13:12更新 初掲載時、末弥純氏の説明に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。

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