ボクたちが愛した、想い出のレトロゲームたち

名作ミステリーの第1弾「J.B.ハロルドの事件簿#1 Murder Club(殺人倶楽部)」

タバコをくわえたJ.B.の横顔と、関係者全員が記されたメモが描かれた、渋いパッケージです。J.B.のシルエットは、このまま2作目の『マンハッタン・レクイエム』でも使われます。

 当時の懐かしい広告とゲーム画面で、国産PCの歴史とノスタルジーに浸れる連載コーナー。今回取り上げたのは、後にシリーズ化もされる、J.B.ハロルドが活躍する作品の1作目、本格派ミステリアドベンチャー『Final Mystery J.B.ハロルドの事件簿#1 Murder Club(殺人倶楽部)』です。

 1980年代中盤、アドベンチャーゲームブームが一段落してRPGが人気を博すと、多くのソフトハウスはRPG作品をリリースするようになります。しかし、アドベンチャーゲームは廃れたわけではなく、それまで以上に良質なタイトルが市場デビューするようになりました。今回取り上げた『殺人倶楽部』もそのうちの1本で、本作をきっかけにリバーヒルソフトはメジャー街道を走り出すことになります。

発売同時期に掲載された広告は、いかにもゲームゲームした感じでしたが、、PC-88版などが発売されたタイミングでJ.B.を前面に出した渋いバージョンへと変わっています。ちなみに、初期広告には発売前に撮影したと思われるタイトル画面が掲載されていますが、英語ではなく日本語(漢字)がメインで表示されているのが分かります。

 自動車販売のロビンズ商会社長ビル・ロビンズが、何者かによって殺された。駐車場を警備しているガードマンが不審車を見つけ、確認のため車内を検査しようとしたところ、車中より死体を発見したとのこと。本件を担当するのは老刑事ジャド・グレゴリーだったが、彼の相棒であるJ.B.ハロルドが捜査を引き継ぐこととなった。捜査が行き詰まりを見せている中、果たしてJ.B.は事件を解決することができるのだろうか……。

A、B、Cの各地区を歩き回り、関係者に細かく話を聞いていきます。聞き込みをすればするほど、被害者を殺そうとした動機を持っている人物が多いことに頭を悩ませることでしょう。

 それまでのリバーヒルソフトは『手掛りを探せ!』『白バラ連続殺人事件』『黒猫荘相続殺人事件』のようなミステリアドベンチャーをリリースはしていたものの、大ヒットしたとまではいきませんでした。そんななかで発売された『殺人倶楽部』は、従来のアドベンチャーゲームとは一線を画す人間関係を綿密に描いた重厚なシナリオ、これまでには見られなかったリアルタッチなグラフィック、ただ闇雲にコマンドを選ぶのではなく“推理を働かせた結果として選択する”という、実際に捜査をしている感じが得られる没入感などが好評を博し、大ヒットを記録することになります。結果として息の長いシリーズとなり、以降各機種へ移植されたほか、後年にはコンソール機でも発売されました。

ゲームの進捗を、グラフで見ることもできます。捜査の進み具合が可視化されるからこそ、やる気が起きるというものです。

 プレイヤーは敏腕刑事J.B.ハロルドとして、ビル・ロビンズ殺人事件の捜査を行うことになります。ただし、実際に行動するのはJ.B.単独のため、自分一人で各所に赴いて調査を行い、容疑者を取り調べなければなりません。登場人物は全部で30人ほどですが、彼ら全員に関係者の話を聞くことができるので、そのボリュームはとんでもないものになります。そこで、殺されたビル・ロビンズに近い人間から調査を始め、絡んだ糸を少しずつほぐしていくような感じで次の関係者を問いただす……と進めていくのが手間という面からも大事でした。しかし、捜査が進行するにつれて“誰も彼もが容疑者なのでは?”と思えるほど、登場人物たちに数々の動機が出てくる事態に混乱を憶えるかもしれません。

パッケージ内にはマニュアルだけでなく、地図や関係者調書、さらには実際に使用可能な鉛筆まで同梱されていました。なお、本作の企画・構成・絵コンテを手がけたのは、以前に紹介した『手掛りを探せ!』を世に送り出した鈴木理香さんです。

 そこで怪しい関係者が出てきたら、そのタイミングで検察へ出向き逮捕状を申請します。各種フラグが成立していれば検察から逮捕令状が出されますので、今度は取調室での攻防が始まることになります。とはいえ、容疑者の口は硬く、そう簡単に真相を語ってはくれませんが……。

30人ほどの登場人物がいますが、その誰もがリアルタッチに描かれているため、従来のアニメ絵調のアドベンチャーゲームとは一線を画す雰囲気を持っていました。

 本作のポイントは、情報がドンドンと変わっていくところでしょう。それまでは知らぬ存ぜぬで押し通していた関係者が、新たな登場人物の話を聞くことで態度が変わり、真実を語ってくれる……。そのためには、一度話を聞いただけで終わりにするのではなく、何度も足繁く現場に通い会話を重ねることが重要になります。まさに、現実の捜査と同じ“現場百回”が求められるところなどが、本シリーズの人気に繋がったと言えるでしょう。

 この後、J.B.ハロルドシリーズは『マンハッタンレクイエム』『D.C.コネクション』とシリーズを重ねていくことになります。

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