ボクたちが愛した、想い出のレトロゲームたち

J.B.ハロルドがもう一つの謎に挑む「キス・オブ・マーダー 殺意の接吻」

『マンハッタンレクイエム』と同じ大きさのパッケージを採用していますが、タイトルと本作の立ち位置が英語で綴られている他は、右下に一輪の薔薇があるだけど、より渋いのが特徴です。

 当時の懐かしい広告とゲーム画面で、国産PCの歴史とノスタルジーに浸れる連載コーナー。今回は、『マンハッタンレクイエム』のグラフィックデータを使いながらも、また別のシナリオを楽しむことができる『KISS OF MURDER 殺意の接吻 another story of MANHATTAN REQUIEM』を取り上げました。

大判パッケージには、広げるとA2サイズを一回り小さくした感じのマニュアルが収められていました。そこには、ジャドが今回の事件をJ.B.に頼むまでのいきさつや、スタート時点までに集められた情報がぎっちりと書き込まれています。プレイする前に目を通しておくと、捜査の役に立つことでしょう。

 RPGブームが起きていた1980年代後半は、それまでアドベンチャーゲームをリリースしてきたソフトハウスも方針を転換したことで、市場からはアドベンチャーゲームの影が薄くなっていきます。しかし、そんな中でもアドベンチャーゲームを発売し続けた一部のソフトハウスの作品は、それまで以上に洗練された完成度の高いタイトルを市場に送り出しインパクトを与えていきました。そんなゲームのうちの1本となるのが、リバーヒルソフトが発売していた「J.B.ハロルド」シリーズです。

 1986年に登場した1作目『殺人倶楽部』で、“情報は足で稼ぐ”を見事に落とし込んだゲームシステムと、練り込まれたハードボイルドなシナリオがヒットし、ゲームの主人公だったJ.B.ハロルドは一躍時の人となります。そんな彼が次に活躍したのが、ニューヨークなどを舞台にしたシリーズ2作目『マンハッタンレクイエム』でした。1作目で起きたビル・ロビンズ殺害事件の関係者だったピアニスト、サラ・シールズの死に事件の匂いを感じ取ったJ.B.は、真相を求めて再び捜査を始めます。

ゲーム起動時には、キーボードまたはバスマウスかシリアルマウスのどれを使うのかを選択します。当時はマウスを持っていなかったのでテンキーでしか遊んだことがありませんが、今ならばマウスでのプレイを体験してみるのも良いかもしれません。

 その作品で使われたデータをそのまま流用し、別のシナリオとして1987年11月下旬に発売されたのが、本作『KISS OF MURDER』でした。パッケージに書かれていた文字のおおよその英訳は「マンハッタンの殺人事件、その裏にもう一つの事件があった。マンハッタンレクイエムのキャラとステージを再構成し、異なる物語が綴られている。あなたは真実を、どこまで見通すことができるか? あなたは自分自身をもう1人のJ.B.に投影し、再び騒がしい街を歩き始め真実を探す」となっています。そんな本作のストーリーは、このような感じでした。

ゲームシステムは、コマンド選択式のアドベンチャーです。表示されるコマンドをテンキーから選んでいくなので、何も迷うことはありません。ただし、コマンド数と登場人物を掛け合わせた総当たり数は莫大になってしまうので、推理を働かせてある程度絞り込んでいかないと、大変な労力を支払うことに……。

 刑事としてのかつての先輩で、今は相棒としてマンハッタンで保険調査員をしているジャド・グレゴリーから、新年を迎えたばかりのある日に電話がかかってくる。話を聞くと、以前リバティタウンに住んでいた女が、マンハッタンで殺されたという。しかも、それには高価な宝石の盗難事件が絡んでいるとのこと。J.B.は、彼女の死の真相を追って、ジャドの待つマンハッタンの街へと向かうこととなる。

 主人公J.B.ハロルドやジャド・グレゴリー、その娘ジェーンたちと共に、マンハッタンの街でサラ・シールズという女の殺人事件の捜査をするという設定はそのままに、その他のキャラクターたちや背景は、その名前や役柄を変えて再登場。もう1人のJ.B.が、もう1人の謎に包まれた死の真相を追う、アナザーストーリーがここに始まる。

前作同様、渋いグラフィックは健在です。大人びたタッチのCGが、当時も大勢のプレイヤーの心に刺さったことで、本作も『マンハッタン・レクイエム』に続いて好評を得ました。データをセーブするときや捜査の進捗確認にはBARブレスに入りますが、ここではバーボンを片手にタバコを吸っているJ.B.の姿が見られました。

 プレイヤーは、前作『マンハッタン・レクイエム』と同じく主人公のJ.B.ハロルドとなり、もう一つのサラ・シールズ殺人事件の謎を解明すべく捜査に赴きます。システムも同一ということで、画面右上に表示されているコマンド一覧をテンキーで選ぶのみという、非常に簡単な操作になっていました。基本的には右手のみで操作出来るものの、キャンセルはスペースキーを押さなければならないため若干ながら面倒でしたが、マウスでの操作も可能となっています。マウスを使うことで、左手で優雅にタバコを吸いつつコーヒーを飲みながら、右手のマウスで全操作を行う、なんてこともできました。とはいえ、今と違いマウスがまだまだ普及していなかった時代なので、どれだけのプレイヤーがその恩恵に預かれたのかは不明ですが……。

 基本的には前作同様、行ける場所へはすべて行き、出会った人物からは話を聞きまくって情報を集め、それを元に捜査を進めていくことになります。とはいえ、全部で30人以上もいる登場人物達から聞き込みをしなければならないため、こういった細かい地道な作業が好きではないという人にとっては、あまり良い印象を残していないかもしれません。反対に、これこそ実際の捜査と同じだ!と入り込めるユーザーであれば、間違いなく楽しめたかと思います。

 捜査が進行していくと、これまでは事件と無縁だと思われていた人が怪しく思えてきたり、逆に疑わしかった人物の容疑が一気に晴れたりと、さまざまな展開を見せていくのでプレイする手が止まらないという事態にも!?

広告は、発売直前のバージョンと発売直後のバージョン、シリーズ1作目やそのほかの作品と合わせて紹介されるパターンなどがありました。

 現在ではプロジェクトEGGやNintendo Switchなどでもプレイすることができるので、今作での真犯人は誰なのか? 動機は? など、気になった人は新たな事実を明らかにして、この難事件をぜひ解決に導いてください。

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