ボクたちが愛した、想い出のレトロゲームたち

リアルな挙動で話題を呼んだPC-9801伝説のピンボール『ムーンボール』

以前に取り上げた『WOOM』と同じく、8インチディスクも入る大きな厚紙のパッケージが採用されています。描かれているのは台のイメージイラストで、最下段には同梱メディアが分かるよう5インチまたは8インチと書かれていました。

 当時の懐かしい広告とゲーム画面で、国産PCの歴史とノスタルジーに浸れる連載コーナー。今回取り上げたのは、あのマーク・フリント氏が手がけたゲームの第2弾となったピンボールマシンシミュレータ『MOON BALL』(ムーンボール)となります。

マニュアルには、いかに挙動にこだわっているのかという部分の解説が、しっかりと書かれています。これを読めば、あのボールの動きも納得するというもの。

 1980年代前半といえば、アドベンチャーゲームがようやく国内でも流行し始める頃で、メインはまだまだ固定画面のアクションやシューティング、シミュレーションにテーブルといったジャンルです。テーブルゲームジャンルの中にはピンボールも含まれているのですが、当時のパソコンではピンボールの球の挙動を実機並みに再現するのは難しく、“ピンボールっぽい”感じのタイトルが多数を占めていました。

 そんな中、『VALIANT』で一躍名を馳せたマーク・フリント氏が手がけたピンボールゲーム『MOON BALL』が、1983年10月中旬にシステムサコムより発売されます。マニュアルには「超リアルなボールの動き、超立体感覚が体験できるピンボールマシンのシミュレータです」と書かれていて、ボールの挙動は「20種類以上のパラメータで微妙にコントロールされて」いるだけでなく、「もちろん、ニュートン力学には完全に従っています」ともあって、そのまとめとして「2~3時間の連続プレイ後に他のゲームとの違いが感じられると思います」と、力強いコメントで締められていました。

現在のピンボールと比べると約物が少なめで大人しい印象の台ですが、随所にさまざまな工夫が凝らされています。左右端のレーンにはボールが入りやすいものの、右下と左下にポケットがあるので、そう簡単には落ちていかないのが嬉しい部分です。

 実際にこの時期のピンボールゲームといえば、ボールの挙動にランダム性が入ったり、時としてあらぬ方向へ飛ぶ、ボールが壁にめり込むといったことが見られるものもあり、実機でプレイしている人にとっては物足りなさを感じることも多かったと言えます。しかし『MOON BALL』はPC-9801をターゲットにすることで、当時としてはパワフルな16ビットCPUを用いて計算を行い、そういった不自然な部分を極力なくすことに成功していました。

×1からスタートするボーナスを、×4までアップさせるのを最初の目標にするのが良いでしょう。対象の白いドロップターゲットにボールを当てて落とすか、フリッパーの近くにあるブラックホール(黒い穴)にボールを入れると、倍率がアップしていきます。

 本作は時代柄、PC-9801またはPC-9801Eの速度5MHz設定を対象として開発されていたので、ゲームスピードもそれに合わせてあります。そのため、それ以降のハードでプレイするとボールの速度がとんでもなく早くなってしまい、ゲームになりません。今回、残念ながら製品版の5インチディスクに付着しているカビ汚れが酷かったため、後に発売されたマーク・フリント氏の作品を集めた『ALL ABOUT MARK FLINT』というタイトルに収録されている『MOON BALL』を使用しての記事となっています。こちらはPC-9801とPC-9801E、PC-9801F、PC-9801Mでは起動しないため、手元にあるハードの中で一番遅い設定に出来たPC-9801UV11を使い、クロック8MHz設定にして撮影しました。

左側面中央部分または上面中央部分のマグネットトラッパー(えんじ色の穴)にボールを入れると、電磁石パワーでボールがトラップされ、2個目のボールがトラップされるか台中央の穴(ブラックホール)にボールを入れると2ボールマルチモードがスタート!

 ゲームを起動するとタイトル画面が表示され、ここで1を押すと1人プレイ、2ならば2人プレイ、3ではコンピュータによるデモを見る事ができます。それぞれのモードは、リセットするまで変更出来ません。ゲーム中はフルキーの“ESC”または“1”で左フリッパー、テンキーの“/”か“ー”で右フリッパー、SHIFTキーでプランジャーからの弾射出となっています。さらに、スペースキーを押せば台を揺らすことができますが、あまり使いすぎると“TILT”となり台の機能がすべて停止して、ボールが落ちていくのを見守るしか無い状態になってしまうのでした。

あまりにもスペースキーを叩きすぎると“TILT”と表示され、一切の操作を受け付けない状態になります。あとはボールが落ちていくのを、指をくわえてみているだけに……。使いすぎは禁物ですが、上手に利用すればピンチを脱出する手段にも。

 ピンボールなので、基本的にはボールを落とさないように打ち返せば良いのですが、それだけではこの台の面白さは味わえません。台の左上または真上に見えるえんじ色の穴の部分にボールを打ち込めばマグネティックトラッパーが発動し、電磁石の力でボールがホールドされます。そして、画面中央左寄りの穴から別のボールが出てくるのですが、さらに左上か真上の穴にボールを入れるか、画面中央左寄りのボールが出てきた穴にボールを打ち込むことができれば“2ボールモード”となり、2つのマルチボールでゲームが進行していきました。この状態で黄色丸の部分をボールが通過すれば、通常の倍となる得点をゲットすることが出来るので、なるべくマルチボールの時間を維持することがハイスコアへの道となります。

9月発売の雑誌には「立体感!=臨場感!」というキャッチコピーで予約受付中の広告を出していたほか、発売された10月以降もモノクロページに広告が掲載されていました。

 この当時、秋葉原ではESCキーと/キーの壊れたPC-98用キーボードが数多く出回り、その原因は『MOON BALL』だ! との逸話もあるほどPC-98ユーザーの間では流行したタイトルだったとのことですが、実際にプレイしてみると非常に良く出来ているのがわかります。フリッパーでボールをホールドするとガタガタ動いてしまったり、マルチボール時にはボール同士がぶつからないなどの惜しい部分もありますが、時代を鑑みれば驚くほどの完成度なのは間違いないでしょう。

 今となっては遊ぶのは難しいですが、ピンボールが好きな人であれば絶対に一度はプレイしておくべきタイトルなので、ぜひ機会を見つけて体験して、ボールの挙動に感心してください。

実際のボールの動きが分かるよう、実機を使い起動からゲームオーバーまでの動画を掲載しました。内容は、PC-9801UV11のV30/8MHzモードで『ALL ABOUT MARK FLINT』収録の『MOON BALL』をプレイしたものとなっています。当時の推奨スピードは5MHzなので、それよりは早く動いています。

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