ボクたちが愛した、想い出のレトロゲームたち

ミステリの女王 山村美紗さん原作のアドベンチャー『京都龍の寺殺人事件』

五重塔を背景に、カラーの水墨画ライクに描かれたパッケージイラストがプレイヤーをミステリの世界へと誘います。裏面には、山村美紗さんの写真も掲載されていました。

 当時の懐かしい広告とゲーム画面で、国産PCの歴史とノスタルジーに浸れる連載コーナー。今回取り上げたのは、山村美紗さんが原作を担当し、1988年2月にタイトーから発売されたミステリアドベンチャー『京都龍の寺殺人事件』です。

白地に赤色を中心としたイラストとメッセージを使用して、印象づける広告を掲載していました。発売時期ですが、Webで検索すると1987年12月21日と表示される場合がありますが、MSX2版は1988年2月下旬です。

 アドベンチャーゲームの定番モノといえば、宝探しを行う探検モノや閉じ込められた場所から逃げる脱出モノなどがありますが、なかでも受けが良いものの代表例としてあげられるのが、ミステリアドベンチャーでしょう。そんなジャンルの中から、タイトーが2Mロムカートリッジを使用し、1988年2月末に5,800円で発売した作品が『京都龍の寺殺人事件』です。

 広告では「ベストセラー推理小説作家の山村美紗さんが書き下ろした本格推理ゲームが、いよいよMSXに登場」と書かれていたのですが、山村美紗さんといえば昭和49年(1974年)に「マラッカの海に消えた」で推理小説界にデビュー。京都を舞台にしたミステリとトリックで、若い女性読者の圧倒的な支持を得た作家です。テレビドラマなどになった作品も多く、ミステリ界の女王とも言える人物でした。そんな彼女が原作を手がけた本作は、以下のようなストーリーになっています。

タイトル画面に描かれるのは、主人公や死亡した人物の関係者ではなく、道中行動を共にするキャサリンです。

 主人公は、新作ゲームのイベントのため、京都の龍安寺にやってきたゲームデザイナー。ところが龍安寺で、偶然にも女性の死体を発見。その手のひらには文字の書かれた6枚の桜の花びらが握りしめられていた。殺された女性の名は尾沢百合子。京都でも有数の資産家の娘だ。しかし、事件はこれだけにとどまらず、第二、第三の殺人事件に発展していく。京都の龍の寺々を舞台にして……

 驚くべきことに、一連の殺人事件は、ゲームデザイナーが構想中の次のゲームの内容とそっくりに進んでゆくのだった。そのために京都府警本部の狩矢警部に容疑者としてマークされてしまう。

 このゲームデザイナーとは、あなたのこと。推理力バツグンのパートナー、キャサリンの協力を得て、独自で事件の調査を開始するが尾沢家の財産を巡る争いなど、複雑な人間関係が入り乱れ、謎はますます深まっていくのだった……。

ゲームは、コマンド選択式を採用しています。アイコン形式なので慣れるまではわかりづらいかもしれませんが、覚えてしまえば快適にプレイ出来ます。マニュアルにはコマンド一覧が書かれているのですが、なぜかアイコンが掲載されていないので、少々覚えづらいですが……。

 本作には“原作者からのごあいさつ”として、山村美紗さんからのコメントも掲載されていました。それによると「(前略)今までのアドベンチャーゲームのステップアップ方式とはちがい、推理小説のポジションから見た「情報の収集と整理」に大きな役割を持たせているのでトリックの解明や推理することの楽しさを体験できるように書き下ろしました。ぜひ私のトリックに挑戦してください(後略)」とのことでした。

 プレイヤーは本作の主人公としてゲーム開始時に名前を入力し、事件解決へ向けて調査を行っていきます。この時期のアドベンチャーゲームということで入力方式はコマンド選択式を採用していて、操作は表示されているコマンド代わりのアイコンを選んでいくだけとなっていました。

 用意されていたコマンドは9種類で、画面左から移動・聞く・調べる・電話・取る・見せる・中断・キャサリン(に聞く)・考えると並んでいます。これらから一つを選ぶと、右側のサブコマンド画面に次のコマンドが表示されるので、さらにそこから選択すると画面下にメッセージが表示されるようになっていました。

京都のさまざまな場所へと移動しながら、登場人物たちに話を聞きつつ事件の核心へと迫っていきます。捜査が煮詰まってくると、どのキャラクターも怪しく見えてくるかもしれません。

 最初の場面では死体を調べて、手のひらに握られたサクラの花びらを探し出すことが目標です。見つけたら“取る”コマンドで写真を“撮る”と、そこに書かれてある文字が“お・な・み・わ・こ・さ”とわかるのですが……捜査を進めていくと、“尾沢菜美子”だけでなく“粉沢皆男”や“小波佐和男”、さらには“三沢直子”と、それらしき人物が次々と出現。プレイヤーの推理を、より混乱させていくのでした。

進行状況を保存するときは、パスワード画面を表示させてからスマートフォンなどで撮影すれば間違い0に。入力時にパスワードを入力するのは従来通りですが。

 本作には時間の概念もあり、日付が変わることで今まで会えなかった人に出会えるようになったり、新たな証言が得られたりすることもあります。また、登場人物たちの人間関係も複雑なので、証言や相関図などをメモしておくことが、事件の真相に近づくための一番の近道となるのは間違いないでしょう。ちなみに、コマンドで“調べる”→“このへん”と選ぶと指型カーソルが出現して自由に場所を選べるのですが、ここでT&E SOFTのアドベンチャーゲーム『惑星メフィウス』を思い出した人もいたかもしれません(笑)。

メインコマンドを選ぶと、次にサブコマンドが表示されます。それを選択すると、さらに次のコマンドが現れることも。コマンド→サブコマンド→サブコマンド→……と深く潜らないとコマンドが選べないこともあるので、総当たりする手間を考えるとしっかり推理してコマンド選択する方が良いかもしれません。

 オリジナルがファミコン版だからということもあるのでしょうが、全般的にメッセージがひらがな中心でやや読みづらいので、移植の際に漢字を使ってくれると良かったのに……と、今更ながら思ってしまいます。進行状況のセーブ方法がパスワード形式なのは、現代ではスマートフォンなどで写真を撮れば間違えることはないので、ある意味ではありなのかもしれません。なお、山村美紗さんのミステリは御三家(NEC、シャープ、富士通)パソコン向けには発売されなかったので、これは間違いなくMSXユーザーのアドバンテージだったと言えるのではないでしょうか。今ではソフトをあまり見かけることはないですが、ミステリ好きな人であれば是非MSX2版をプレイしてみてください。

登場人物たちのグラフィックは、オリジナルのファミコン版よりも格段にキレイです。よく見れば、カフェ・ド・ミサのママが山村美紗さんに似ていたり、狩矢警部が俳優の松方弘樹さんがモデルではないかと思えるなど、そういった部分での楽しみもあります。

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