ボクたちが愛した、想い出のレトロゲームたち

豪華メンバーが作り上げたエニックスの名作アドベンチャー『JESUS(ジーザス)』

広告で使用されているものと同一のイラストが、パッケージにも採用されていました。裏面には詳しいストーリーと画面写真の他、製作スタッフ5人が映った写真も掲載されています。

 当時の懐かしい広告とゲーム画面で、国産PCの歴史とノスタルジーに浸れる連載コーナー。今回取り上げたのは、1987年にエニックスから発売されて、そのシナリオ展開などが話題になった名作のアドベンチャーゲーム『ジーザス』です。

 1980年代中盤に大ブームを巻き起こしたアドベンチャーゲームは、当初は難解な単語探しをやらされたり、製作者の突拍子もない考えにたどり着いてコマンドを入力しなければならない、という作品がそれなりにありました。しかし、数多くのタイトルがリリースされていくと次第にこなれていき、さらに時代と共にシステムはコマンド入力方式からコマンド選択方式へと進化していきます。これによって、余計な言葉探しなどに付き合わなくて済むようになり、純粋にシナリオ展開を楽しめるようになりました。

 ところが、1985年を過ぎるとRPGジャンルが人気を博すようになり、多くのユーザーはそちらをプレイするようになっていきます。それと反比例するように、アドベンチャーゲームというジャンルのプレイヤー人口は右肩下がりで減っていきました。しかし、そんな時代に登場したアドベンチャーゲームはシナリオが練られていて非常に面白く、結果として良質な作品が大多数を占めることとなります。

 そのうちの1本だったのが、エニックスから発売されたSFアドベンチャーゲーム『ジーザス』でした。発売されたのは、PC-8801mkIISR対応版が1987年4月28日、FM77AV版が同年7月24日で、その1年前に地球へと最接近して大いに話題を振りまいた“ハレー彗星”を題材としています。そのストーリーは、以下のようになっていました。

RPG全盛期に発売された作品ですが、エニックスの広告ページの中でも大きくスペースを確保して宣伝されていました。

 1986年、地球ではハレー彗星接近に伴い、大フィーバーが巻き起こっていた。このときの人類は、無人探査機を打ち上げるのが限界だったが、時は流れ西暦2061年、ハレー彗星が再び地球へとやってくる。75年前とは違い、有人探査機を飛ばすところまで人類の科学は進歩していた。

 世界8カ国から選ばれた乗員が、スカイラブ(宇宙ステーション)・JESUS(ジーザス)から飛び立った探査1号機コメット、探査2号機ころなの2機の探査機に分乗してハレーに接近、1号機は周囲のガス採取に成功したとの連絡を送ってきた。ところが、その直後にコメットからの連絡が途絶えてしまう。この事態を重くみたジーザスの司令部は、2号機に搭乗していた武麻速雄(むそう・はやお)を1号機コメットの偵察に向かわせることになるのだが……

レシーバ型のサポートコンピュータ・FOJYを受け取るとオープニングデモが始まり、その後にメインストーリーへと入っていきます。描かれているのは、東京都庁のようですが……。コマンドは選択式で、テンキーから選ぶだけなので悩むこともなく物語に没頭できます。

 プレイヤーは主人公の武麻速雄として行動し、まずは探査1号機コメット内の探索を行うことになります。内部は思ったよりも広く、コメットが円筒形の造りになっているため少々迷いやすいということもあり、簡単なマッピング作業が必要かもしれません。基本的には行けるところに全部移動して調べれば、アイテムの取り漏らしもなく先へと進めます。

 ある程度ストーリーが進行すると、コメットの音信不通の原因であるモンスターと遭遇することに。戦っても勝てないことは仲間たちの犠牲から分かっているので、速雄はコメットの1区画丸ごとを切り離し、モンスターを宇宙空間へと葬り去ります。そして、生き残っていたヒロインのエリーヌとともに、ころなへと帰還するのでした。そして、物語はここから佳境へと入っていきます。

主人公の最初の目的は、IDカードを全員に配ることです。そのためには艦内すべてを回らないといけないのですが、その道中では1981年に『I/O』に掲載された『スペースマウス』のリメイク版を遊ぶことができたり、ほかにも楽しい(?)イベントが待っています。

 本作のゲームシステムは、この時期としてはお馴染みのコマンド選択式を採用していて、基本的にはテンキーと文字送りのスペースキーの操作だけで進めることができました。ただし、探査1号機コメット内はテンキーの2で手前に、8で奥へ進むという特別な移動方法が採用されていましたが、部屋に入ったりするとすべてコマンドを選択して進行するようになっています。

 探索中は、プレイヤーの相棒であるAIのFOJY(フォジー)がさまざまな解説を行ってくれるのですが、バッテリーが切れると無反応になるだけでなく、ゲームが進まなくなることもあるので、動力室での充電が欠かせません。少々生意気な口を利いたかと思えば頼りになることを教えてくれるなど憎めないヤツですが、その名前は映画『2001年宇宙の旅』に登場するHAL9000が、IBMの名前を1文字ずつずらして名付けられたのと同じ法則でのネーミングとなっていました。

コメット内を探索すると、あちこちで死体を目にすることに……。探索中は、AIのFOJYが相棒として活躍してくれます。充電が切れると、話さなくなるだけでなくシナリオが進まなくなる場面もあるので、その時は動力室で充電しましょう。FOJYの名前のネタ元ですが、1文字ずつずらすと分かるようにENIXからです。

 ゲームとしての難易度はほどほどに抑えられていて、進行中に考え込むような難解な謎は隠されていないほか、先に進まないと思っていてもあちこち移動してコマンドを選んでいれば何となく先に進めるようになるなど、これといってひっかかるシーンは用意されていません。そのため、プレイヤーは映画を見ているような感覚で物語を堪能することができました。

コメットからエリーヌと脱出し、何とかころなへと戻った2人。しかし、そこにもエイリアンは現れ、次々と仲間が犠牲になっていきます。ヤツはどのようにして侵入したのか?対抗策は?一気に緊張感が高まります。

 ただし、モンスターとの対決時に入力しなければならないフレーズには、悩まされた人も多いかもしれません。このシーン、最初は1音入力するごとにスペースキーを押し、正解であれば1音目、2音目と入力して再びスペースキーを押す→正解だったら1音目、2音目、3音目を入力してスペースキーを押す……を繰り返すことで、毎回FOJYが合っているか間違えているかのアドバイスをしてくれるため、鳴っている音から音階を聞き取ることができなくても正解にたどりつくことができるのでした。もし、ここで挫折していた人がいれば、ぜひ試してみてください。

クライマックスの場面では、特定の音階を入力することになります。音楽の勘がある人ならば即座に音階が判明するかもしれませんが、分からなかった人は1音ずつ入力して正解かどうかを確かめながら進めるのが確実な方法です。カエルの歌と言ってしまうと、大いなるネタバレになりますが……

 本作は、プログラムを担当したのがパソコン雑誌『I/O』への投稿で名を馳せた芸夢狂人こと鈴木孝成さん、グラフィックは真島真太郎さん、シナリオを雅孝司さん、音楽をすぎやまこういちさん、音響効果を田口泰宏さんという、非常に豪華なメンバーが関わっていました。そのためか、ゲーム中に鈴木孝成さんが過去に『I/O』に投稿したゲーム『スペースマウス』のリメイク版が遊べたり、すぎやまこういちさんが作曲した『ドラゴンクエスト』のBGMが流れたりするなど、そういう面でも注目を集めた作品となっています。

 現在でも、オークションサイトやフリマサイトなどで比較的よく見かけるので、気になった人は入手して遊んでみてください。

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