ボクたちが愛した、想い出のレトロゲームたち

感動のアドベンチャーストーリー『カサブランカに愛を 殺人者は時空を超えて』

特徴的な青の大判パッケージに、映画を思わせる登場人物たちのイラストが『道化師殺人事件』でもお馴染みの米田朗さんによって描かれていました。プログラムは大野正治さん、シナリオを今林宏行さん、そしてグラフィックを阿部信吉さんが、それぞれ担当しています。

 当時の懐かしい広告とゲーム画面で、国産PCの歴史とノスタルジーに浸れる連載コーナー。今回は、綿密に仕上げられたストーリーが話題になった、シンキングラビットの名作アドベンチャーゲーム『カサブランカに愛を 殺人者は時空を超えて』を取り上げます。

本作は1986年9月16日にPC-9801版が発売されたのですが、PC-8801版は日付が見つかりませんでした。なお、この約半年後となる1987年3月にX1turbo版がリリースとなります。

 アドベンチャーゲームというジャンルが登場してしばらくは、行動したいコマンドを英単語などで直接入力(OPEN DOORなど)するコマンド入力式が主流でした。しかし時代が下ると、そのような言葉探しとは無縁の、よりストーリーを楽しめるようになるコマンド選択式が登場して、その後はほとんどのアドベンチャーゲームがコマンド選択式へと移行します。

 そんな中でもコマンド入力式を選び続けたタイトルがいくつか残ったのですが、そのうちの一つとなるのが今回取り上げた『カサブランカに愛を 殺人者は時空を超えて』です。シンキングラビットのディスクミステリーとしては『鍵穴殺人事件』『道化師殺人事件』に続く第3弾となる、SFを舞台にミステリあり、ロマンスありのフルコースで構成されたアドベンチャーゲームとなっていました。そのストーリーは、以下のようになっています。

ゲーム画面はすべてモノクロ画面なのですが、ピントがもやっとしている古い映画やテレビの白黒番組を見ている感覚はなく、黒地に白色が付いているイラスト、という雰囲気になっています。CGなので境界線がパキッとしているから、なのかもしれません。

 1945年6月、シカゴのデイリー・カサブランカ新聞社の女性記者であるジェリー・ランドルフは、無二の親友メイ・エルガーが行方不明になったことを知る。同じタイミングで彼女からの日記が送られてきたことに不安を覚えたジェリーは、その日記帳に目を通す。そこには、彼女の父親であるエルガー博士が行っている時間に関する研究が軍部に狙われ、彼女自身にもその魔の手が及ぶかもしれないということが書かれていた。

 ジェリーは同僚のロイ・スティーブンスと共に彼女の家へ向かうが時既に遅く、エルガー博士が研究室で殺されているのを発見してしまう。調べてみると、不可解な事実が浮かび上がった。裏庭に残された犯人のものと思われる足跡は、研究室へ向かって付いているだけで出て行った形跡がなく、しかも研究所は鍵がかかっていて誰も出入りしていないという。さらに、胸にナイフを受けて絶命しているエルガー博士の顔が、あまりにも穏やかであること。そして、博士の死体の隣にある謎の大きな機械の正体とは……

 果たして、犯人はどこへ消えたのか? そして、博士は死ぬ直前に何を見たのか? 事件の真相を追うべく、ジェリーはロイと共に過去へと飛ぶ。そこで待ち受ける運命とは……あなたが経験する愛と冒険の人生に、乾杯!!

数多くのキャラクターが登場しますが、大事な情報を持っている人物もいるので、しっかりと会話しておくのが重要です。名前を名乗り、手持ちのアイテムを見せまくると反応が変わる人も?

 プレイヤーは主人公のジェリーとして、親友メイの父親であるエルガー博士が殺された原因と、その犯人を突き止めるべく調査することとなります。画面は写真でも分かるように、基本的にすべてモノクロで描かれていました。モノクロ画面を用いたパソコンゲームは1980年代前半に若干存在していた程度でしたが、本作はゲームの持つ雰囲気を重要視して、あえてのモノクロ画面を採用しています。そのため、静止画で見るとどうしても地味に思えてしまうのですが、モノクロ画面であることを引き立たせるシナリオが、プレイヤーを待っていました。

 『カサブランカに愛を』が採用しているシステムは前述したようにコマンド入力式ですが、通常の状態ではローマ字かな変換入力に、カナキーを押すとカナ入力、さらにはCAPSキーを押してロックしておくと英語での入力と、3種類から選ぶことができます。ゲーム中に使用する単語も意地悪なものは無く、アドベンチャーの基本を押さえていれば問題ありません。移動方法も複数用意されていて、東西南北(NSEW)や前後左右(FBRL)だけでなく、2468でも受け付けてくれました。

いくつかの場面ではアイテムを見つけることができるのですが、手に入れた本を読んだり、回りを調べることで手に入れられるものもあるため注意が必要です。

 入力単語はシンプルなのですが、そこはアドベンチャーゲームだけあって、さりげないトリックがしっかりと仕込まれているので手強くなっています。例えば、博士の遺体からは2つのアイテムを回収することが出来るのですが、取り忘れがあっても気づけば死体がなくなっていたり、物々交換したものの価値的に釣り合わないから即座に返品(もらったものを渡す)すると、最終的には何も失わずにアイテムを増やせるなど、思わず唸ってしまう仕掛けがありました。また、必要なものをすべて持っていなくても先へ進むことが出来るのですが、忘れたアイテムを取りに戻ることは出来ないため、その場合は最初からやり直すことに……。もちろん、途中でセーブ・ロードは可能なので、それを上手に使いながらプレイしていくこととなります。

 タイトルからも分かるように、プレイヤーたちはエルガー博士が開発したタイムマシンに乗り、過去へと飛ぶこととなります。到着するのは、数十年前の同じ町。単に若い頃の隣人がいるかと思えば、現代とは違う人物が住んでいる家があるなど、多少なりとも様子が変わっています。そこで話を聞き回り、若かりし頃のエルガー博士と出会えれば、殺人事件の謎が一気に解決するのですが……そこから1945年へと帰還する途中で起きた事故により、1885年に飛ばされてしまいます。果たして、ここから元の時代へと戻ることはできるのでしょうか。一見すると蛇足に思える展開ですが、ここからが本作のクライマックスと言っても過言ではありません。すべてが明らかになったとき、まさにストーリーの最後に書かれているように「あなたが経験する愛と冒険の人生に、乾杯!!」という感動のエンディングを迎えることとなるでしょう。

タイムマシンを使用して1915年にやってくると、さらにさまざまな謎がプレイヤーを待ち受けます。事件はここで解決するのですが、ここから先の展開は、あえて掲載していません。ぜひ、あなたの目で確かめてみてほしいです。

 当時あまり出回らなかったためか、現在でも見かける機会はそれほど多くありませんが、アドベンチャーゲーム好きであればぜひともクリアしておきたい1本なのは間違いありません。

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